現実世界のカルマ ~『行為としての結果』が私の能力となる。転生しなかった代わりに神様から貰ったこの力でお助けマンを頑張ります~

行進12番

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第1章 本章

第23話 異世界五日目・後編

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 魔物はこちらを見るなり、反転して森の方へ逃げていく。確かに足が速い。普通の人間なら追い付けないだろう。

 <<疾走のカルマ>>

 私は能力を発動し、追跡を開始する。

 魔物も、後ろから人間が追ってきているのに気付いている。

 林の方へ駆けて行くのを見逃さないように、後方を走っていく私。

 リンはさらに後ろの方からついて来ていた。

 私は前方に集中して、林の中を走る魔物を追いかけていた。途中、2匹ほどの合流を確認したが、魔物はまだ更に逃げ続ける。林の中でも速度を落とさずに走り抜けていく姿だけは、きちんと捉えている。

 油断すると見失いそうだ。こちらも速度を上げる事はできるが、こう、木々の障害物が多いと回避しきれないかもしれない。
 地面の凹凸おうとつなども気を付けているが、疾走のカルマの能力のおかげで“走る事に関して能力が向上している効果”により、バランスはそれなりに保てている。

 また数匹の魔物が合流して、群れの数が多くなる。魔物が何やら鳴き声で通じ合っている?
 そろそろ魔物の攻勢が近いのかもしれない。農家の畑からは大分離されてしまった。木々の死角により、後方にリンの姿は確認できない。ついて来てくれている事を祈ろう。

 ひらけた場所に到着した時、魔物は逃走の足を止めた。

 魔物がこちらの方を向き、突進するような前傾姿勢ぜんけいしせいから攻撃の意思を感じる。
 魔物の数は……。多いな…。いつのまにか10匹以上になっている。
 私も六尺棒ろくしゃくぼうを構え、相対そうたいする。

 流石さすがにまだリンの姿は無いが、仕方ない。予定通りではある。あとは倒せるかどうか。

 魔物たちは一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 敵の数が多いとはいえ、ひらけた場所なら…。

 <<疾走のカルマ>>

 私は能力を発動し、後方へ回避行動を取る。敵はそのまま突進してくる姿勢を崩していない。

 足に力を入れ、私は上方へ放物線をえがくように跳躍ちょうやくする。

 魔物たちの目線が私を追っている。私は魔物たちの後方へ着地し、更に武器を構える。

 反転した魔物たちがこちらに向かってくるが、進行方向を狂わせたおかげで、私に対して向かってくる先頭の数が減っている。この数なら攻撃を仕掛ける余裕が作れる――。

 <<膂力のカルマ>>

 私は近距離まで接近してきた魔物たちに対し、

 握りしめた六尺棒で横薙よこな一閃いっせんを繰り出す。

 2匹ほどに攻撃が命中し。吹き飛ばす事に成功した。後方から更に突進してくる敵の猛攻は止まらない。
 私は攻撃後の体勢から、返すように薙ぎ払いの一閃を行う。

 私に対し素早い速度で接近してきた魔物たちは、その勢いもあいまって私の攻撃の威力を高めていた。

 六尺棒の切っ先から確かな感触を感じる。敵の数を減らす事には成功しているが、
 それでもまだ、魔物の優勢は変わらない。敵から殺気を感じる。

 魔物の表情から攻撃の意思が消えていないからだ。

 ――と、その時、魔物の群れの後方から音もなく現れる人影を確認した。

 その人影を私は知っている。リンだ。私はリンに目線を合わせない。魔物に気づかれてしまわぬように。

 魔物は後方から忍び寄る影に気づかず、細剣で刺突され、倒されて行く。後方の異変に気付き、数匹の魔物がリンの方へ注意を向ける。

 これはチャンスかもしれない。私は<<疾走のカルマ>>で魔物たちのふところに入り、油断した魔物たちに対して一閃の攻撃を仕掛ける。

 リンと私で魔物たちを囲い、挟撃きょうげきの形に成功していた。

 ――。

 無事に戦闘を終える。魔物討伐……完了だ。

 初めての経験に対し、今頃になって武者震むしゃぶるいが起きる。

 リンに、ポンっと肩を叩かれ、言葉を掛けられる。

「ライチャスネス~。やるじゃない!」

「そ、そうか…?」

「いやいや凄いって。足止めさえしてくれれば。私が倒すつもりでいたんだもん」

「そりゃ、そうだよな…。俺もリンが来ることを信じて戦っていたし」

 リンが照れくさそうに笑っている。

「へへっ。ナイスコンビネーションでしたなっ♪ っとと、たぶんもう他にチューニズはいないだろうし、バーナンスさんに報告しにいきましょう」

「あ、この亡骸たち…どうするの?」

「ん-。1匹だけ持って帰りますか。討伐の証として。臭みさえ処理すれば、食用にもできるし」

 あ、この魔物食べられるんだ…。さすが異世界。初めての経験ばかりである。

「了解。残りは…?」

「農家の人に相談して、複数人であとでとりに来ましょう。荷車を借りてね」

「分かった。それじゃあとりあえず戻ろうか」

 私とリンはチューニズの亡骸のひとつを選び、予めリンが用意してくれていたひもで前後の足を縛る。六尺棒で間を通して、前後を二人で抱えながら運ぶことにした。

 しばらく歩いていると、農家の家屋が見てきた。元の場所に戻ってこれたようだ。
 実は内心、迷ってないか心配だった。チューニズを追う時は、真っすぐ林の中に進んだから大丈夫だとは思ってたけど…。

 家の前に到着。チューニズの亡骸を下ろし、玄関のドアをノックしバーナンスさんを呼ぶ。

「あら!? もう終わっちゃったの!?」

 リンが頷き、亡骸をゆびさす。

「ええ、討伐の証拠です。他にも倒した亡骸はあるんですが、持ってこれなかったので……。荷車ありますか?」

「ええ~あるわよ♪ 案内するわっ! あ、あ、人手も必要ね! ご近所さん呼んでくるわ!」

 バーナンスさんは慌ただしく動き始めた。

 ご近所さんも集まり、皆でチューニズの亡骸を運ぶ作業が始まった。人海戦術により、手早く作業が進んで行く。

 チューニズの亡骸は、農家の人たちに献上する事にした。持ち帰るにしても量がね…。無事に作業も終わり、別れの時が近づいてきた。リンが、依頼の受注書の控えに完了のサインをもらっていた。

 バーナンスさんから感謝の意を示される。

「本当にありがとうねぇ。えと、リンさんと、ライチャスネスさん」

 バーナンスさんから握手をされたので、私も笑顔で答える。

 その時である。

 電気が走ったかのような達成感が自分を襲う。
 新しいカルマを得る瞬間だ。
 行為の結果が、自分に帰ってくる。
 神様に与えられた能力が、自分の中で増幅される感覚。
 自分の力として蓄積されていく感覚。

 バーナンスさんの“魔物を追い払えたおかげで安堵した”という気持ちが、カルマを通して繋がる。『魔物を追跡する事ができた』という私の思いが、力となって昇華していく――。

 新たな感覚を確かめるように身に沁みこませる。

 私は驚いていた。異世界でもカルマを入手する事ができた事に。
 
 もう一度カルマを入手する条件を頭の中でおさらいしよう。

 困っている人が自分のできる範囲で人助けをする事。
 この行為の結果、人助けが完了した時点で、祝福が与えられる。
 そして、祝福が与えられるのは一日につき一つまで。

 そうか、冒険者ギルドには、が様々な依頼を出す。

 そして、冒険者が困っている人を

 私は気づいてしまった。

 【私の能力は、冒険者と相性が良い】という事に。

 これもお師匠様が言っていた“気づき”か。深いな…。

「――ネス?」

「おーい。ライチャスネスー?」

 はっ。イカン。自分の世界に入っていた。

「あ、ああ。スマン。ぼーっとしてた。疲れていたかな」

 バーナンスさんにも不思議な目で見られている。気を取り直そう。

「そ、それじゃあ。リン。僕たちはそろそろ帰ろうか」

「そうね。バーナンスさん。さようならっ」

「はい~♪ ありがとうねぇ~♪」

 手を振りながらバーナンスさんと別れ、私は冒険者として初めての依頼を無事に終えたのだった。
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