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第1章 本章
第25話 ギルドからの依頼・中編
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私たちは馬を駆けさせ、隣町まで移動を開始している。ちなみに私は馬に乗ったことが無いので、リンの馬に同乗させてもらっていた。あ、はい。ヘンな所は触りません。大丈夫です。
出発した時間が早かったのか、まだ日は沈んでいない。隣町までのルートは私以外みんな知っているようだ。ちなみに移動の最中に、スタークにも私が魔道具を使って会話をしている事は伝えてある。全然気づかなかったらしい。「それが普通の反応なのよ」ってリンが教えてくれた。
特に何事もなく山道まで入る事ができた。実際に戦闘になったときに、お互いに何ができるのか、事前に話し合いをしつつ移動をしている。
スタークとシティリアが、私に対して驚きの表情をした。
「ほぉ~。おめぇさん。そんな風には見えねぇけど…。俺はともかくとして、リンやシティリアより素早いのか?」
リンが太鼓判を押すように答える。
「ええ。間違いなく、このメンバーの中でライチャスネスは誰よりも足が速いわ。聞いて驚けっ。チューニズを翻弄する動きをこの間、この目でしかと見たわっ」
シティリアも感嘆の声を上げる。
「へぇ。それは凄いわね」
リンが自慢気に話す。小っ恥ずかしい…。
「それだけじゃないのよ。こんな見た目だけど、パワーも凄いんだから。スタークより凄いかもね?」
スタークが若干、苦虫を噛んだように笑う。
「なんだってぇ~~? ほいじゃ、ライチャスネスよ。こんど暇なとき力比べしてみようぜ!」
スタークは笑いながら馬を駆る。私は馬から落ちないように、リンの背中にしがみ付くのが精いっぱい。
「ハハ。お手柔らかに…」
スタークが、ひとつ疑問に思ったことがあるようだ。
「んでもよ。そんなに素早いんだったら、おめぇさん。馬に乗る必要ないんじゃねえか?」
私は質問に答える。
「ああ。確かに私は素早さには自信があるけど、いくら素早く動けるからって、ずっと走り続けられるほど持久力があるわけではないんだ」
能力の細かい説明までしておきたい所だが…。いきなり説明した所で、余計な混乱を招くだろう。それはまた今度にしよう。
「ほーん。なるほどな。言われてみりゃそんな感じもするわ。じゃあよ。ライチャスネスは、その力を大事に取っておきな。ここぞって時によ」
相手の事を認め、自分さえも頼れと言わんばかりの豪胆さ。やはり、彼には惹かれるものがある。リンにとっては、良い冒険者仲間なんだなと実感した。そんなスタークに信頼を寄せつつある私は、気の良い返事をする。
「ああ、心得た」
シティリアが何かに気づいたようだ。
「待って。この山道……。様子がヘンだわ。馬をおりましょう」
リンが止まれの合図を出し、進行速度を落とし、全員、馬から降りる。
空気が張り詰めてくる。みんなの顔つきが変わる。
「シッチー。どう?」
「前方から、魔力を感じる」
リンは号令を出す。
「全員、戦闘準備」
馬を近くに待機させ、各自武器を構える。
リンは、愛用の細剣を構える近接騎士スタイル。
スタークは左手に中型の盾を構え、右手にこん棒を装備し、前方に出る。
シティリアは後方へ下がり、杖を構え、小さい声で呪文を詠唱し始めている。
私はリンの横で六尺棒を構え、備える…。雰囲気にのまれそうだ。
リンが私に横顔で告げる。
「私たちがいるから、安心して。こっちだって、いざとなれば頼りにしてるんだから」
緊張が少し解ける気がした。
「分かった…」
スタークの声が響く。
「来るぞ!!!」
前方から複数の人影がこちらに向かって疾走してくるのが見えた。
人……? 武器を持った……人なのか?
近づいてくるに連れ、徐々にその姿ははっきりと視認できるようになった。
あれは、人ではない。獣のような何かが、武器を持ってこちらに突進してくる。
スタークが叫ぶ。
「チィッ! ゴブリンの群れだ!!!」
上方から矢の雨がこちらに降り注いでくる。
リンが声を上げる。
「シッチー!」
「分かってるわ!」
シティリアは上方へ防御魔法を展開する。
スタークは一番槍となり、盾を構えながら、前方で交戦状態に入る。相手とぶつかり合い、鉄と鉄の鈍い音がする。
「ライチャスネスはシティリアを守って!」
「分かった!」
「私はスタークを援護する!」
リンは迅速に前方へ援護にむかい、大柄なスタークの横から、細剣で確実に敵に攻撃を当てていく。
凄い連携だ。これが、これが冒険者。私は目の前の光景に身震いを覚える。
前方で交戦に入った二人は、後退することなく。巧みな連携で敵を大地へと誘っていく。
スタークが防ぎ、リンが敵の足を刺突し、動きの鈍った敵をスタークがこん棒で粉砕してく。
だが、まだまだ敵の数は減らない。上空からは時折、矢の雨が降り注ぐ。
シティリアの防御魔法のおかげで、ただの矢ならば問題なく防げている。
――刹那、リンが叫ぶ。
「まずい!」
ゴブリンの後方で、魔法を詠唱している個体が目視できた。前方で戦っていたゴブリンは左右に分かれ、避難を開始する。
スタークが前方に盾を構え、リンを後ろに追いやる。
シティリアは上空に防御魔法を展開している最中で、魔法の切り替えが間に合いそうにない。
――ここからは、考えるより、体が、自然と動いていた。
<<疾走のカルマ>>
<<膂力のカルマ>>
私の体は、前方で盾を構えているスタークの横を駿足で駆け抜け、一直線に敵まで突き進む。
スタークは目を見開き「疾――」とだけ声を発する。だが、その声がライチャスネスに届くことは無い。
ライチャスネスの体は、もう既に魔法を詠唱しようとしている敵の懐にまで接近していた。
左足を地面に踏み込み、減速の慣性に体を乗せていく。
私は体をひねりながら、力いっぱい握りしめた六尺棒を相手の胴体目掛けて思いっきりブン回す。
「ギ」
という敵の声が耳に届く。
私の膂力。その全てを相手の体に叩き込んだ。
瞬間、吹き飛ばされながらも、上空へ大火球を放つ敵のゴブリン。
私は後ろを振り返り、仲間たちの安全を確認する。
まだ敵のゴブリンが残っている。殺意をむき出しにしたゴブリンたちは、
私目掛けて、一斉に向かってきた。
負けじと六尺棒を構え、私は戦意を喪失しない。
だが、この瞬間が勝敗を分けた。
スタークと、リンがゴブリンに対して攻勢を強め、戦闘の情勢が崩れたゴブリンたちは、難なく陥落していく。
私も疾走のカルマで、自信の素早さを生かし、攻撃を当てては半歩下がり、スタークとリンを援護した。
最後の敵の1匹を倒し、私たちは残心を放つ……。
自然と私の口から言葉が零れ落ちた。
「終わった…のか」
満面の笑みを浮かべたスタークに強めに肩を叩かれる。
「ライチャスネスー!!! おめーーーすげーーーじゃねぇか!!!」
容赦のない一撃に私が倒されそうだった。すたーく つよい。
「あっ。ははっ。いや、ハハ…」
リンとシティリアは、やれやれと言った表情でお互いの無事を確認していた。
リンはシティリアに感謝の意を述べる。
「シッチー。ありがとね。貴女のおかげで全員無事だったわ」
シティリアは首を横に振る。
「たまたまよ。敵に魔力を感知できるくらいの個体がいたから」
シティリアは私を見て礼を述べる。
「ライチャスネス。ありがとう。貴方のおかげでみんな、黒焦げにならずに済んだわ」
照れる…。
「いやいや、スタークが凄いんだよ。一番最初に敵の突進を受け止めに行ったから」
スタークが笑う。
「ガハハッ! リンがパーティーリーダーで良かったろ? 的確な指示だったぜ」
リンは顔を赤面させながら答えた。
「んもー。そんな事より、まだ山を越えてないのにコレなの? 隣町は大丈夫なのかしら?」
シティリアは心配そうに山の上を見つめた。
「そうね……。早く…行ってみましょう」
私たちは、馬が無事だったことにも感謝し、目的地までの足取りを再び歩ませるのだった。
出発した時間が早かったのか、まだ日は沈んでいない。隣町までのルートは私以外みんな知っているようだ。ちなみに移動の最中に、スタークにも私が魔道具を使って会話をしている事は伝えてある。全然気づかなかったらしい。「それが普通の反応なのよ」ってリンが教えてくれた。
特に何事もなく山道まで入る事ができた。実際に戦闘になったときに、お互いに何ができるのか、事前に話し合いをしつつ移動をしている。
スタークとシティリアが、私に対して驚きの表情をした。
「ほぉ~。おめぇさん。そんな風には見えねぇけど…。俺はともかくとして、リンやシティリアより素早いのか?」
リンが太鼓判を押すように答える。
「ええ。間違いなく、このメンバーの中でライチャスネスは誰よりも足が速いわ。聞いて驚けっ。チューニズを翻弄する動きをこの間、この目でしかと見たわっ」
シティリアも感嘆の声を上げる。
「へぇ。それは凄いわね」
リンが自慢気に話す。小っ恥ずかしい…。
「それだけじゃないのよ。こんな見た目だけど、パワーも凄いんだから。スタークより凄いかもね?」
スタークが若干、苦虫を噛んだように笑う。
「なんだってぇ~~? ほいじゃ、ライチャスネスよ。こんど暇なとき力比べしてみようぜ!」
スタークは笑いながら馬を駆る。私は馬から落ちないように、リンの背中にしがみ付くのが精いっぱい。
「ハハ。お手柔らかに…」
スタークが、ひとつ疑問に思ったことがあるようだ。
「んでもよ。そんなに素早いんだったら、おめぇさん。馬に乗る必要ないんじゃねえか?」
私は質問に答える。
「ああ。確かに私は素早さには自信があるけど、いくら素早く動けるからって、ずっと走り続けられるほど持久力があるわけではないんだ」
能力の細かい説明までしておきたい所だが…。いきなり説明した所で、余計な混乱を招くだろう。それはまた今度にしよう。
「ほーん。なるほどな。言われてみりゃそんな感じもするわ。じゃあよ。ライチャスネスは、その力を大事に取っておきな。ここぞって時によ」
相手の事を認め、自分さえも頼れと言わんばかりの豪胆さ。やはり、彼には惹かれるものがある。リンにとっては、良い冒険者仲間なんだなと実感した。そんなスタークに信頼を寄せつつある私は、気の良い返事をする。
「ああ、心得た」
シティリアが何かに気づいたようだ。
「待って。この山道……。様子がヘンだわ。馬をおりましょう」
リンが止まれの合図を出し、進行速度を落とし、全員、馬から降りる。
空気が張り詰めてくる。みんなの顔つきが変わる。
「シッチー。どう?」
「前方から、魔力を感じる」
リンは号令を出す。
「全員、戦闘準備」
馬を近くに待機させ、各自武器を構える。
リンは、愛用の細剣を構える近接騎士スタイル。
スタークは左手に中型の盾を構え、右手にこん棒を装備し、前方に出る。
シティリアは後方へ下がり、杖を構え、小さい声で呪文を詠唱し始めている。
私はリンの横で六尺棒を構え、備える…。雰囲気にのまれそうだ。
リンが私に横顔で告げる。
「私たちがいるから、安心して。こっちだって、いざとなれば頼りにしてるんだから」
緊張が少し解ける気がした。
「分かった…」
スタークの声が響く。
「来るぞ!!!」
前方から複数の人影がこちらに向かって疾走してくるのが見えた。
人……? 武器を持った……人なのか?
近づいてくるに連れ、徐々にその姿ははっきりと視認できるようになった。
あれは、人ではない。獣のような何かが、武器を持ってこちらに突進してくる。
スタークが叫ぶ。
「チィッ! ゴブリンの群れだ!!!」
上方から矢の雨がこちらに降り注いでくる。
リンが声を上げる。
「シッチー!」
「分かってるわ!」
シティリアは上方へ防御魔法を展開する。
スタークは一番槍となり、盾を構えながら、前方で交戦状態に入る。相手とぶつかり合い、鉄と鉄の鈍い音がする。
「ライチャスネスはシティリアを守って!」
「分かった!」
「私はスタークを援護する!」
リンは迅速に前方へ援護にむかい、大柄なスタークの横から、細剣で確実に敵に攻撃を当てていく。
凄い連携だ。これが、これが冒険者。私は目の前の光景に身震いを覚える。
前方で交戦に入った二人は、後退することなく。巧みな連携で敵を大地へと誘っていく。
スタークが防ぎ、リンが敵の足を刺突し、動きの鈍った敵をスタークがこん棒で粉砕してく。
だが、まだまだ敵の数は減らない。上空からは時折、矢の雨が降り注ぐ。
シティリアの防御魔法のおかげで、ただの矢ならば問題なく防げている。
――刹那、リンが叫ぶ。
「まずい!」
ゴブリンの後方で、魔法を詠唱している個体が目視できた。前方で戦っていたゴブリンは左右に分かれ、避難を開始する。
スタークが前方に盾を構え、リンを後ろに追いやる。
シティリアは上空に防御魔法を展開している最中で、魔法の切り替えが間に合いそうにない。
――ここからは、考えるより、体が、自然と動いていた。
<<疾走のカルマ>>
<<膂力のカルマ>>
私の体は、前方で盾を構えているスタークの横を駿足で駆け抜け、一直線に敵まで突き進む。
スタークは目を見開き「疾――」とだけ声を発する。だが、その声がライチャスネスに届くことは無い。
ライチャスネスの体は、もう既に魔法を詠唱しようとしている敵の懐にまで接近していた。
左足を地面に踏み込み、減速の慣性に体を乗せていく。
私は体をひねりながら、力いっぱい握りしめた六尺棒を相手の胴体目掛けて思いっきりブン回す。
「ギ」
という敵の声が耳に届く。
私の膂力。その全てを相手の体に叩き込んだ。
瞬間、吹き飛ばされながらも、上空へ大火球を放つ敵のゴブリン。
私は後ろを振り返り、仲間たちの安全を確認する。
まだ敵のゴブリンが残っている。殺意をむき出しにしたゴブリンたちは、
私目掛けて、一斉に向かってきた。
負けじと六尺棒を構え、私は戦意を喪失しない。
だが、この瞬間が勝敗を分けた。
スタークと、リンがゴブリンに対して攻勢を強め、戦闘の情勢が崩れたゴブリンたちは、難なく陥落していく。
私も疾走のカルマで、自信の素早さを生かし、攻撃を当てては半歩下がり、スタークとリンを援護した。
最後の敵の1匹を倒し、私たちは残心を放つ……。
自然と私の口から言葉が零れ落ちた。
「終わった…のか」
満面の笑みを浮かべたスタークに強めに肩を叩かれる。
「ライチャスネスー!!! おめーーーすげーーーじゃねぇか!!!」
容赦のない一撃に私が倒されそうだった。すたーく つよい。
「あっ。ははっ。いや、ハハ…」
リンとシティリアは、やれやれと言った表情でお互いの無事を確認していた。
リンはシティリアに感謝の意を述べる。
「シッチー。ありがとね。貴女のおかげで全員無事だったわ」
シティリアは首を横に振る。
「たまたまよ。敵に魔力を感知できるくらいの個体がいたから」
シティリアは私を見て礼を述べる。
「ライチャスネス。ありがとう。貴方のおかげでみんな、黒焦げにならずに済んだわ」
照れる…。
「いやいや、スタークが凄いんだよ。一番最初に敵の突進を受け止めに行ったから」
スタークが笑う。
「ガハハッ! リンがパーティーリーダーで良かったろ? 的確な指示だったぜ」
リンは顔を赤面させながら答えた。
「んもー。そんな事より、まだ山を越えてないのにコレなの? 隣町は大丈夫なのかしら?」
シティリアは心配そうに山の上を見つめた。
「そうね……。早く…行ってみましょう」
私たちは、馬が無事だったことにも感謝し、目的地までの足取りを再び歩ませるのだった。
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