【完結】これはゲームオーバーから始まる、罰ゲームのお話

天白

文字の大きさ
1 / 10

ゲームオーバー 1

しおりを挟む
『ゲームオーバー』

 見上げた壁面には、「日本語」ではっきりと表示されていた。その一言を目にした俺の顔からは、みるみるうちに血の気が引いていき、そのまま崩れるようにして両膝を地につけた。

 嘘だろう? その言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。続いて肩からも力が抜け落ち、震える唇から咆哮のような声を張り上げた。

「待てよっ……ほんとに、本当にこれでっ……終わりじゃないんだろう? なあ……!?」

 物言わない壁面に向かってそう問いかけるも、文字は『ゲームオーバー』から一文字も変わらなかった。

「マサル、様……」

 落胆する俺の背中に、愛しいノアが名前を呼んだ。ハッとして、俺は振り返る。そこには身体を震わせ、今にも零れんばかりの涙を瞳に溜めるノアの姿があった。

「ノア……」

「マサル様……ぼ、僕……僕……!」

 悲痛な声をあげるノアがこちらへ手を伸ばすと同時に、彼の姿は蝋燭に灯る火が風でフッと消えたようになくなった。

「ノア……ノア……!」

 ノアがいた方へ手を伸ばすも、この手は何もない空を掴むだけ。たとえノアがまだそこにいたとしても、四方を透明なガラスで囲まれている俺には、彼の髪に触れることすら叶わなかった。

「なん、だよ……なんなんだよ……ちくしょう!」

 俺は拳を握り締めると、硬質な床に叩きつけた。それで現状が変わるわけではないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。やり場のない感情を、暴れることでしか発散できなかった。

 俺がいったい、何をしたと言うんだろう。ある日突然、ファンタジーだらけの異世界へと転移し、声だけの「神」から「勇者」という役職を与えられ、この世界を脅かす魔王を倒せと命じられた。この世界では天命というらしい。右も左もわからない俺は、同じく役職を与えられた現地の人間やエルフ、獣人らと共に、魔王を倒す旅をした。フィクションじゃありがちの話だ。

 そんなコテコテの設定に疑問を抱かず挑むことができたのは、漲る力と数々の魔法を与えられたせいだろう。魔物はもちろん、人型の魔族も一瞬で蹴散らすことのできる偉大な力だ。元の世界じゃ、攻撃魔法や回復魔法はもちろん、空を飛ぶことすらできなかった。この力があれば何でもできる。チート能力を手に入れた俺は、それこそ神にでもなったようだった。

 はっきり言って浮かれていた。自惚れていたんだ。

『それでは罰ゲーム、いってみようか』

 頭の中でどこかで耳にした「声」が響いた。それも母国語の日本語で。

 シュルシュルと、蛇のような黒い影が地面を這い、四つん這いの俺を取り巻いた。

「う、ぁ……やめろ……やめろぉぉ!」

 自分の悲鳴がガラスケースの中で反響する。

 しかしこの結末は、よくよく考えてみれば当然の帰結だったのかもしれない。



【これはゲームオーバーから始まる、罰ゲームのお話】



「……る。マサル」

「ん……」

 よく知った声が、俺の名前を繰り返し呼んでいる。閉ざされた重い瞼をグッと持ち上げると、視線を上下左右に動かした。

「気づいたか」

「わいぁ……と?」

 瞬きを繰り返しながら紡いだ名前は、俺と共に旅をしてきた仲間のものだ。「戦士」ワイアット。種族は俺と同じ人間。男なら誰もが羨むような筋骨隆々の身体を持つ彼は、気を失っていた俺の上体を軽々と持ち上げていた。これでも元の世界……とりわけ日本じゃ男性の平均身長を優に超えた一八〇センチ台で、筋肉も体重もそこそこあるんだが、さすが馬鹿力。この大男の前じゃ、俺も赤子みたいなもんか。

 しかしなぜ、ワイアットがここにいるんだ? もしや俺は、助かったのか?

 乾燥した空気に晒された喉にピリッとした痛みを感じつつも、俺は抱きかかえてくれていたワイアットに礼を言った。

 意識を取り戻した俺にほっとしたのか、ワイアットが端正なその顔に笑みを浮かべつつ短い息を吐いた。

「無事でよかった……ところで、ノアは? 一緒だったのだろう?」

「ノアは……」

 ノア。回復魔法を得意とする俺の仲間であり、エルフの男性。歳だけでいえば成人したばかりの俺の倍以上も生きている彼だが、その外見は小動物を連想させるほど華奢で愛らしい少年だ。

 そして俺の恋人でもある。元の世界では同性愛者へ理解を示さなかった俺だが、今は違う。この多様な種族が混在し共存する異世界において、互いを愛し合うことに性は関係ないことや、歳の差も関係ないことがわかった。

 俺は心の底から、ノアを愛している。だからこそ、彼はここにいない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

気絶したと思ったら闇落ち神様にお持ち帰りされていた

ミクリ21 (新)
BL
闇落ち神様に攫われた主人公の話。

何故か男の俺が王子の閨係に選ばれてしまった

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男アルザスは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 なぜ男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へ行く。 しかし、殿下はただベッドに横たわり何もしてこない。 殿下には何か思いがあるようで。 《何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました》の攻×受が立場的に逆転したお話です。 登場人物、設定は全く違います。 ※ショートショート集におまけ話を上げています。そちらも是非ご一読ください。 ※画像は男の子メーカーPicrewさんよりお借りしています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

BL「いっぱい抱かれたい青年が抱かれる方法を考えたら」(ツイノベBL風味)

浅葱
BL
男という性しか存在しない世界「ナンシージエ」 青年は感じやすい身体を持て余していた。でも最初に付き合ったカレシも、その後にできたカレシも、一度は抱いてくれるもののその後はあまり抱いてくれなかった。 もうこうなったら”天使”になって、絶対に抱かれないといけない身体になった方がいいかも? と思ってしまい…… 元カレ四人×青年。 天使になってしまった青年を元カレたちは受け入れるのか? らぶらぶハッピーエンドです。 「抱かれたい青年は抱いてもらう方法を考えた」の別バージョンです。

処理中です...