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ゲームオーバー 1
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『ゲームオーバー』
見上げた壁面には、「日本語」ではっきりと表示されていた。その一言を目にした俺の顔からは、みるみるうちに血の気が引いていき、そのまま崩れるようにして両膝を地につけた。
嘘だろう? その言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。続いて肩からも力が抜け落ち、震える唇から咆哮のような声を張り上げた。
「待てよっ……ほんとに、本当にこれでっ……終わりじゃないんだろう? なあ……!?」
物言わない壁面に向かってそう問いかけるも、文字は『ゲームオーバー』から一文字も変わらなかった。
「マサル、様……」
落胆する俺の背中に、愛しいノアが名前を呼んだ。ハッとして、俺は振り返る。そこには身体を震わせ、今にも零れんばかりの涙を瞳に溜めるノアの姿があった。
「ノア……」
「マサル様……ぼ、僕……僕……!」
悲痛な声をあげるノアがこちらへ手を伸ばすと同時に、彼の姿は蝋燭に灯る火が風でフッと消えたようになくなった。
「ノア……ノア……!」
ノアがいた方へ手を伸ばすも、この手は何もない空を掴むだけ。たとえノアがまだそこにいたとしても、四方を透明なガラスで囲まれている俺には、彼の髪に触れることすら叶わなかった。
「なん、だよ……なんなんだよ……ちくしょう!」
俺は拳を握り締めると、硬質な床に叩きつけた。それで現状が変わるわけではないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。やり場のない感情を、暴れることでしか発散できなかった。
俺がいったい、何をしたと言うんだろう。ある日突然、ファンタジーだらけの異世界へと転移し、声だけの「神」から「勇者」という役職を与えられ、この世界を脅かす魔王を倒せと命じられた。この世界では天命というらしい。右も左もわからない俺は、同じく役職を与えられた現地の人間やエルフ、獣人らと共に、魔王を倒す旅をした。フィクションじゃありがちの話だ。
そんなコテコテの設定に疑問を抱かず挑むことができたのは、漲る力と数々の魔法を与えられたせいだろう。魔物はもちろん、人型の魔族も一瞬で蹴散らすことのできる偉大な力だ。元の世界じゃ、攻撃魔法や回復魔法はもちろん、空を飛ぶことすらできなかった。この力があれば何でもできる。チート能力を手に入れた俺は、それこそ神にでもなったようだった。
はっきり言って浮かれていた。自惚れていたんだ。
『それでは罰ゲーム、いってみようか』
頭の中でどこかで耳にした「声」が響いた。それも母国語の日本語で。
シュルシュルと、蛇のような黒い影が地面を這い、四つん這いの俺を取り巻いた。
「う、ぁ……やめろ……やめろぉぉ!」
自分の悲鳴がガラスケースの中で反響する。
しかしこの結末は、よくよく考えてみれば当然の帰結だったのかもしれない。
【これはゲームオーバーから始まる、罰ゲームのお話】
「……る。マサル」
「ん……」
よく知った声が、俺の名前を繰り返し呼んでいる。閉ざされた重い瞼をグッと持ち上げると、視線を上下左右に動かした。
「気づいたか」
「わいぁ……と?」
瞬きを繰り返しながら紡いだ名前は、俺と共に旅をしてきた仲間のものだ。「戦士」ワイアット。種族は俺と同じ人間。男なら誰もが羨むような筋骨隆々の身体を持つ彼は、気を失っていた俺の上体を軽々と持ち上げていた。これでも元の世界……とりわけ日本じゃ男性の平均身長を優に超えた一八〇センチ台で、筋肉も体重もそこそこあるんだが、さすが馬鹿力。この大男の前じゃ、俺も赤子みたいなもんか。
しかしなぜ、ワイアットがここにいるんだ? もしや俺は、助かったのか?
乾燥した空気に晒された喉にピリッとした痛みを感じつつも、俺は抱きかかえてくれていたワイアットに礼を言った。
意識を取り戻した俺にほっとしたのか、ワイアットが端正なその顔に笑みを浮かべつつ短い息を吐いた。
「無事でよかった……ところで、ノアは? 一緒だったのだろう?」
「ノアは……」
ノア。回復魔法を得意とする俺の仲間であり、エルフの男性。歳だけでいえば成人したばかりの俺の倍以上も生きている彼だが、その外見は小動物を連想させるほど華奢で愛らしい少年だ。
そして俺の恋人でもある。元の世界では同性愛者へ理解を示さなかった俺だが、今は違う。この多様な種族が混在し共存する異世界において、互いを愛し合うことに性は関係ないことや、歳の差も関係ないことがわかった。
俺は心の底から、ノアを愛している。だからこそ、彼はここにいない。
見上げた壁面には、「日本語」ではっきりと表示されていた。その一言を目にした俺の顔からは、みるみるうちに血の気が引いていき、そのまま崩れるようにして両膝を地につけた。
嘘だろう? その言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。続いて肩からも力が抜け落ち、震える唇から咆哮のような声を張り上げた。
「待てよっ……ほんとに、本当にこれでっ……終わりじゃないんだろう? なあ……!?」
物言わない壁面に向かってそう問いかけるも、文字は『ゲームオーバー』から一文字も変わらなかった。
「マサル、様……」
落胆する俺の背中に、愛しいノアが名前を呼んだ。ハッとして、俺は振り返る。そこには身体を震わせ、今にも零れんばかりの涙を瞳に溜めるノアの姿があった。
「ノア……」
「マサル様……ぼ、僕……僕……!」
悲痛な声をあげるノアがこちらへ手を伸ばすと同時に、彼の姿は蝋燭に灯る火が風でフッと消えたようになくなった。
「ノア……ノア……!」
ノアがいた方へ手を伸ばすも、この手は何もない空を掴むだけ。たとえノアがまだそこにいたとしても、四方を透明なガラスで囲まれている俺には、彼の髪に触れることすら叶わなかった。
「なん、だよ……なんなんだよ……ちくしょう!」
俺は拳を握り締めると、硬質な床に叩きつけた。それで現状が変わるわけではないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。やり場のない感情を、暴れることでしか発散できなかった。
俺がいったい、何をしたと言うんだろう。ある日突然、ファンタジーだらけの異世界へと転移し、声だけの「神」から「勇者」という役職を与えられ、この世界を脅かす魔王を倒せと命じられた。この世界では天命というらしい。右も左もわからない俺は、同じく役職を与えられた現地の人間やエルフ、獣人らと共に、魔王を倒す旅をした。フィクションじゃありがちの話だ。
そんなコテコテの設定に疑問を抱かず挑むことができたのは、漲る力と数々の魔法を与えられたせいだろう。魔物はもちろん、人型の魔族も一瞬で蹴散らすことのできる偉大な力だ。元の世界じゃ、攻撃魔法や回復魔法はもちろん、空を飛ぶことすらできなかった。この力があれば何でもできる。チート能力を手に入れた俺は、それこそ神にでもなったようだった。
はっきり言って浮かれていた。自惚れていたんだ。
『それでは罰ゲーム、いってみようか』
頭の中でどこかで耳にした「声」が響いた。それも母国語の日本語で。
シュルシュルと、蛇のような黒い影が地面を這い、四つん這いの俺を取り巻いた。
「う、ぁ……やめろ……やめろぉぉ!」
自分の悲鳴がガラスケースの中で反響する。
しかしこの結末は、よくよく考えてみれば当然の帰結だったのかもしれない。
【これはゲームオーバーから始まる、罰ゲームのお話】
「……る。マサル」
「ん……」
よく知った声が、俺の名前を繰り返し呼んでいる。閉ざされた重い瞼をグッと持ち上げると、視線を上下左右に動かした。
「気づいたか」
「わいぁ……と?」
瞬きを繰り返しながら紡いだ名前は、俺と共に旅をしてきた仲間のものだ。「戦士」ワイアット。種族は俺と同じ人間。男なら誰もが羨むような筋骨隆々の身体を持つ彼は、気を失っていた俺の上体を軽々と持ち上げていた。これでも元の世界……とりわけ日本じゃ男性の平均身長を優に超えた一八〇センチ台で、筋肉も体重もそこそこあるんだが、さすが馬鹿力。この大男の前じゃ、俺も赤子みたいなもんか。
しかしなぜ、ワイアットがここにいるんだ? もしや俺は、助かったのか?
乾燥した空気に晒された喉にピリッとした痛みを感じつつも、俺は抱きかかえてくれていたワイアットに礼を言った。
意識を取り戻した俺にほっとしたのか、ワイアットが端正なその顔に笑みを浮かべつつ短い息を吐いた。
「無事でよかった……ところで、ノアは? 一緒だったのだろう?」
「ノアは……」
ノア。回復魔法を得意とする俺の仲間であり、エルフの男性。歳だけでいえば成人したばかりの俺の倍以上も生きている彼だが、その外見は小動物を連想させるほど華奢で愛らしい少年だ。
そして俺の恋人でもある。元の世界では同性愛者へ理解を示さなかった俺だが、今は違う。この多様な種族が混在し共存する異世界において、互いを愛し合うことに性は関係ないことや、歳の差も関係ないことがわかった。
俺は心の底から、ノアを愛している。だからこそ、彼はここにいない。
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