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オークション 2
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なんだよ、これ。冗談だろ? 確かにファンタジーめいたことを一瞬だけ望んじまったかもしれねえよ。でも、そんなの真に受けなくたっていいだろ? 俺が望んだのは祝福とハーレムだ。
間違っても化け物たちに囲われる展開なんて望んでねえよ!
俺はギュッと瞼を瞑った。強く瞑ってもう一度開けたら、この光景が全部泡のように消えて無くなると思ったからだ。そう思いたかったのに……
刹那、頭の中で直接声が響いた。
『だって好きにしろって言ったの、お前だろ?』
「えっ……?」
バチッと瞼を開けると、目の前には土塗れの豚の鼻があった。
「うわぁっ!?」
驚いて仰け反ると、荒い鼻息を吹きかけられた。すごく臭いし、生温かいのが気持ち悪い。フゴフゴと鳴るその音は水でも混じらせているのか汚らしく、ついでに下の口元は緩やかなカーブを描いていた。
違う、今の声はこいつじゃない。しかし人でもない。ここにはいない、別の何かだ。同時に、俺は確信した。
ああ……本当に死んだんだ。
今いるここが現実で、今ある現状が本物であることを知り、俺はついさっき口に出しかけた言葉を頭の中で唱えた。
奴隷。きっとそれだ。俺は奴隷として、ここにいる。
傍の豚は俺の心情など知ろうともしないだろう。愛想のいい笑みを貼りつけ、周りの連中へ説明を始めた。
「見事な銀髪、そしてブルーの瞳っ! 顔立ちもヒトの中では上の上! 日焼けも傷もございません! ああっ、この身体の汚れは大丈夫っ! 水をかければすぐに落ちます! 性別はオス! 出自は不明ですが歳は成人間近といったところでしょう! なに、猫やΩと違って発情もなければ孕む心配もございません! 感染症検査もオールクリア!!」
「はつ、じょう……? はら、む……?」
人の、そして男に向けてはおよそ聞いたことのない単語の数々に、俺は意味もわからず復唱する。わからない。この豚が何を「売り」にしたいのか……。売り? ああ、そうか。こういう時だけは察しがいいんだな、このポンコツ脳は。ちくしょう。
奴隷の扱い。加えてペットの売買に使われそうな丁寧な商品アピール。
俺は売られるんだ。こいつらに。
周りを取り囲み俺を品定めする、この醜い化け物たちに。
俺は項垂れた。
……ふざけんなよ。
それは怒りからくるものなのか、悔しさからくるものなのか、悲しさからくるものなのか。ゴチャ混ぜになった色んな感情が、腹の中で渦巻いた。
俺が何をした? いったい前世でどんな罪を犯せばこんな目に遭うんだよ。ふざけんな……ふざけんなよ!
ただ静かに生きていただけじゃねえか。誰にも迷惑をかけちゃいないし、国が決めた法だって破ったこともない。虫だって殺せないような小心者だったんだぞ。
どころか何も成し遂げられなかった。やりたかったこと、願ったこと、夢見たことも全部……もしもそれが罪だって言うんなら、俺の周り、みーんなそうだろ!
アレだって秘密にした。誰にも明かすことなく文字通り墓場まで持ってきたっていうのに……なんでだよっ。どうして俺がこんな……こんなっ……!
目頭がグッと熱くなる。熱くて熱くて、何かが溢れ出しそうだ。
「おやおや? 照明が強すぎましたかな。おい!」
俺を見て何を勘違いしたのか、豚が天井の照明を弱めるようどこかへ指示をする。すぐさま光は細められ、俺の身体の一部を暗澹が包み込んだ。
「……ッ!?」
その瞬間、身の毛がよだった。皮膚に貼りつく薄い体毛が逆立つのが、はっきりとわかる。この身体は何を察知した?
背筋に沿って冷たい汗がなぞるように肌を伝った。喉を鳴らして視線を上げると、豚が不気味な笑みを浮かべながら、嬲るように俺を見下ろしていた。
ベロリ、と。茶色の舌が自身の分厚い唇をなぞった。
本能が告げる。これは、ヤバい。
逃げなければ……でないと、何か恐ろしいことが始まる。
頭は必死に身体を動かそうとした。なのに、この身体は言うことを聞かない。
枝のような細い脚。それが竦んで動かない。くびれすらある薄い腰。それが抜けて役に立たない。
ヤバい……ヤバい、ヤバい!
対して豚はコホンと、わざとらしく咳払いをしてみせた。
「私としたことが……失念しておりました! 肝心な『蕾』の状態ですね! ええ、今回の目玉はなんといってもソレですから、上玉の中の上玉ですよぉ!」
上玉。この単語だけは即座に意味を理解することができた。そうだ。さっきからこの豚はおかしいことを言っている。死ぬ前の俺はとっくに成人を迎えたおっさんだったし、髪と瞳の色は両方とも黒。典型的なアジア人。ついでに言えば、女が寄りつきもしないようなツラだった。
いや、おかしいのは俺の方なのか……この身体はもう、俺の身体であって俺の知る身体じゃなかった。
しかし、その前に言われた「ツボミ」の意味がわからない。何を表す単語なのか。
ドクドクと激しく鼓動が鳴る。その答えは、すぐに明かされた。
間違っても化け物たちに囲われる展開なんて望んでねえよ!
俺はギュッと瞼を瞑った。強く瞑ってもう一度開けたら、この光景が全部泡のように消えて無くなると思ったからだ。そう思いたかったのに……
刹那、頭の中で直接声が響いた。
『だって好きにしろって言ったの、お前だろ?』
「えっ……?」
バチッと瞼を開けると、目の前には土塗れの豚の鼻があった。
「うわぁっ!?」
驚いて仰け反ると、荒い鼻息を吹きかけられた。すごく臭いし、生温かいのが気持ち悪い。フゴフゴと鳴るその音は水でも混じらせているのか汚らしく、ついでに下の口元は緩やかなカーブを描いていた。
違う、今の声はこいつじゃない。しかし人でもない。ここにはいない、別の何かだ。同時に、俺は確信した。
ああ……本当に死んだんだ。
今いるここが現実で、今ある現状が本物であることを知り、俺はついさっき口に出しかけた言葉を頭の中で唱えた。
奴隷。きっとそれだ。俺は奴隷として、ここにいる。
傍の豚は俺の心情など知ろうともしないだろう。愛想のいい笑みを貼りつけ、周りの連中へ説明を始めた。
「見事な銀髪、そしてブルーの瞳っ! 顔立ちもヒトの中では上の上! 日焼けも傷もございません! ああっ、この身体の汚れは大丈夫っ! 水をかければすぐに落ちます! 性別はオス! 出自は不明ですが歳は成人間近といったところでしょう! なに、猫やΩと違って発情もなければ孕む心配もございません! 感染症検査もオールクリア!!」
「はつ、じょう……? はら、む……?」
人の、そして男に向けてはおよそ聞いたことのない単語の数々に、俺は意味もわからず復唱する。わからない。この豚が何を「売り」にしたいのか……。売り? ああ、そうか。こういう時だけは察しがいいんだな、このポンコツ脳は。ちくしょう。
奴隷の扱い。加えてペットの売買に使われそうな丁寧な商品アピール。
俺は売られるんだ。こいつらに。
周りを取り囲み俺を品定めする、この醜い化け物たちに。
俺は項垂れた。
……ふざけんなよ。
それは怒りからくるものなのか、悔しさからくるものなのか、悲しさからくるものなのか。ゴチャ混ぜになった色んな感情が、腹の中で渦巻いた。
俺が何をした? いったい前世でどんな罪を犯せばこんな目に遭うんだよ。ふざけんな……ふざけんなよ!
ただ静かに生きていただけじゃねえか。誰にも迷惑をかけちゃいないし、国が決めた法だって破ったこともない。虫だって殺せないような小心者だったんだぞ。
どころか何も成し遂げられなかった。やりたかったこと、願ったこと、夢見たことも全部……もしもそれが罪だって言うんなら、俺の周り、みーんなそうだろ!
アレだって秘密にした。誰にも明かすことなく文字通り墓場まで持ってきたっていうのに……なんでだよっ。どうして俺がこんな……こんなっ……!
目頭がグッと熱くなる。熱くて熱くて、何かが溢れ出しそうだ。
「おやおや? 照明が強すぎましたかな。おい!」
俺を見て何を勘違いしたのか、豚が天井の照明を弱めるようどこかへ指示をする。すぐさま光は細められ、俺の身体の一部を暗澹が包み込んだ。
「……ッ!?」
その瞬間、身の毛がよだった。皮膚に貼りつく薄い体毛が逆立つのが、はっきりとわかる。この身体は何を察知した?
背筋に沿って冷たい汗がなぞるように肌を伝った。喉を鳴らして視線を上げると、豚が不気味な笑みを浮かべながら、嬲るように俺を見下ろしていた。
ベロリ、と。茶色の舌が自身の分厚い唇をなぞった。
本能が告げる。これは、ヤバい。
逃げなければ……でないと、何か恐ろしいことが始まる。
頭は必死に身体を動かそうとした。なのに、この身体は言うことを聞かない。
枝のような細い脚。それが竦んで動かない。くびれすらある薄い腰。それが抜けて役に立たない。
ヤバい……ヤバい、ヤバい!
対して豚はコホンと、わざとらしく咳払いをしてみせた。
「私としたことが……失念しておりました! 肝心な『蕾』の状態ですね! ええ、今回の目玉はなんといってもソレですから、上玉の中の上玉ですよぉ!」
上玉。この単語だけは即座に意味を理解することができた。そうだ。さっきからこの豚はおかしいことを言っている。死ぬ前の俺はとっくに成人を迎えたおっさんだったし、髪と瞳の色は両方とも黒。典型的なアジア人。ついでに言えば、女が寄りつきもしないようなツラだった。
いや、おかしいのは俺の方なのか……この身体はもう、俺の身体であって俺の知る身体じゃなかった。
しかし、その前に言われた「ツボミ」の意味がわからない。何を表す単語なのか。
ドクドクと激しく鼓動が鳴る。その答えは、すぐに明かされた。
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