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第一章
蜂蜜よりも甘いもの… 7
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(こんな時間に……誰だろう?)
かつて村の人間がここまでやってくることは一度としてなかった。それだけに、今のこの状況は未知の恐怖心を煽った。
「…………ヴン! レイ……、レイヴン!」
耳をそばだてると、ドアを叩く音の合間に自分を呼ぶ声が聞こえた。外にいるのはやはり、村の人間だ。よくよく聴いてから、その声の主を特定することができたレイヴンは、シンへと振り返り、角の物陰に隠れるよう促した。
「大丈夫か?」
「はい……」
シンの心配に、レイヴンは力なく答える。
先ほどまで鍋を囲んでいたのだから、煙やら匂いやらが小屋からだだ漏れてしまっている。この小屋に自分がいることは、誤魔化しようがない。居留守など使おうものなら、扉だけでなくこの小屋まで破壊されかねない。
(けれどもし、この扉の向こうにいる人が一人だけなら……)
部屋の中まで入られなければ、シンの存在に気づかれることなくやり過ごすことができるかもしれない。一縷の望みにかけたレイヴンは、もう一度シンに頷いた後、意を決して扉の前に立った。
「今、開けますから……!」
扉向こうの人物に聞こえるよう声を張り上げると、ピタリと音が鳴り止んだ。
ほっと息を吐いたレイヴンは引き戸となっている扉をおもむろに開きつつ、周囲を警戒しながらもそろりと顔を出した。
「レイヴン!」
暗闇を割ったように血相を変えて現れたのは、熊のような大柄の男だ。レイヴンはやはり、といった表情で彼の名を口ずさむ。
「マキト、君……」
度々、村の男達の目を盗んではレイヴンを呼び出し、自身の一方的な気持ちをぶつけながら性の捌け口にする若い男だ。シンと出会う前、そして出会った後も、山羊の乳や米といった物資と引き換えに、レイヴンを意のまま抱いている。
感情が昂ぶると周りが見えなくなる男だが、態度と言葉に気を配れば、何かと穏便に事を済ますことができる。レイヴンは一歩外に出ると、後ろ手で扉を閉めつつ、マキトがやって来た目的について探ることにした。
マキトは、姿を現し自分へと近付くレイヴンを目にしてわなわなと身体を震わせた後、その太い両腕で力の限り抱き締めた。
「ああ、レイヴンっ! レイヴン!」
「マキト君……あの、どうして、ここへ……」
「体調が悪いって聞いていたから……心配していたんだぞ!」
「ご、ごめんなさい……」
くぐもるような声で謝罪を口にするレイヴンは、咄嗟に両腕をマキトの胸の前に差し出し、自身の顔を庇った。無抵抗のまま抱き締められていたら、窒息するかもしれないという、緊急措置のようなものだ。
この様子では、落ち着くまで時間がかかるだろうと、レイヴンは大人しくされるがままとなる。
ひとしきりレイヴンを抱き締めた後、マキトは落ち着いたのか、少しだけ身体を離して腕の中のレイヴンを見下ろした。
そうして視線が合うなり、レイヴンは次に気になっていたことを尋ねた。
「あの……村の、他の人達は……?」
「いない! 俺だけが……! こっそり来たんだ……」
少々、苛つきを乗せて力強く答えるマキトだったが、お気に入りのレイヴンの顔を数日ぶりに見たせいか、すぐに声音を和らげた。
マキトの言うことは本当だろうと、レイヴンは彼の答えを信じることにした。後をつけられた様子もなく、灯りも彼の持ってきただろう提灯のみで、辺りは黒一色だからだ。
もしかしたら、この灯りを目にして不審に思った村の人間が、後からこちらへやって来るかもしれないと予想されたが、とにかく今はマキトを村へ帰すことだとレイヴンは気を引き締めた。
シンのことだけは隠し通さねばならない。万が一、見つかった時の自分達の末路は、きっと惨いものだろう。自分はまだしも、シンを同じ運命に巻き込むわけにはいかないのだ。
かつて村の人間がここまでやってくることは一度としてなかった。それだけに、今のこの状況は未知の恐怖心を煽った。
「…………ヴン! レイ……、レイヴン!」
耳をそばだてると、ドアを叩く音の合間に自分を呼ぶ声が聞こえた。外にいるのはやはり、村の人間だ。よくよく聴いてから、その声の主を特定することができたレイヴンは、シンへと振り返り、角の物陰に隠れるよう促した。
「大丈夫か?」
「はい……」
シンの心配に、レイヴンは力なく答える。
先ほどまで鍋を囲んでいたのだから、煙やら匂いやらが小屋からだだ漏れてしまっている。この小屋に自分がいることは、誤魔化しようがない。居留守など使おうものなら、扉だけでなくこの小屋まで破壊されかねない。
(けれどもし、この扉の向こうにいる人が一人だけなら……)
部屋の中まで入られなければ、シンの存在に気づかれることなくやり過ごすことができるかもしれない。一縷の望みにかけたレイヴンは、もう一度シンに頷いた後、意を決して扉の前に立った。
「今、開けますから……!」
扉向こうの人物に聞こえるよう声を張り上げると、ピタリと音が鳴り止んだ。
ほっと息を吐いたレイヴンは引き戸となっている扉をおもむろに開きつつ、周囲を警戒しながらもそろりと顔を出した。
「レイヴン!」
暗闇を割ったように血相を変えて現れたのは、熊のような大柄の男だ。レイヴンはやはり、といった表情で彼の名を口ずさむ。
「マキト、君……」
度々、村の男達の目を盗んではレイヴンを呼び出し、自身の一方的な気持ちをぶつけながら性の捌け口にする若い男だ。シンと出会う前、そして出会った後も、山羊の乳や米といった物資と引き換えに、レイヴンを意のまま抱いている。
感情が昂ぶると周りが見えなくなる男だが、態度と言葉に気を配れば、何かと穏便に事を済ますことができる。レイヴンは一歩外に出ると、後ろ手で扉を閉めつつ、マキトがやって来た目的について探ることにした。
マキトは、姿を現し自分へと近付くレイヴンを目にしてわなわなと身体を震わせた後、その太い両腕で力の限り抱き締めた。
「ああ、レイヴンっ! レイヴン!」
「マキト君……あの、どうして、ここへ……」
「体調が悪いって聞いていたから……心配していたんだぞ!」
「ご、ごめんなさい……」
くぐもるような声で謝罪を口にするレイヴンは、咄嗟に両腕をマキトの胸の前に差し出し、自身の顔を庇った。無抵抗のまま抱き締められていたら、窒息するかもしれないという、緊急措置のようなものだ。
この様子では、落ち着くまで時間がかかるだろうと、レイヴンは大人しくされるがままとなる。
ひとしきりレイヴンを抱き締めた後、マキトは落ち着いたのか、少しだけ身体を離して腕の中のレイヴンを見下ろした。
そうして視線が合うなり、レイヴンは次に気になっていたことを尋ねた。
「あの……村の、他の人達は……?」
「いない! 俺だけが……! こっそり来たんだ……」
少々、苛つきを乗せて力強く答えるマキトだったが、お気に入りのレイヴンの顔を数日ぶりに見たせいか、すぐに声音を和らげた。
マキトの言うことは本当だろうと、レイヴンは彼の答えを信じることにした。後をつけられた様子もなく、灯りも彼の持ってきただろう提灯のみで、辺りは黒一色だからだ。
もしかしたら、この灯りを目にして不審に思った村の人間が、後からこちらへやって来るかもしれないと予想されたが、とにかく今はマキトを村へ帰すことだとレイヴンは気を引き締めた。
シンのことだけは隠し通さねばならない。万が一、見つかった時の自分達の末路は、きっと惨いものだろう。自分はまだしも、シンを同じ運命に巻き込むわけにはいかないのだ。
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