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第一章
んじゃ、お望み通りにしてやるよ 6
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シンの持つ土色の手首がついた出刃包丁が放られる。果実が潰れるような音と共にガランと地に落ちる出刃包丁を、周りの男達が遠巻きに見つめた。
「ど、どうやって落とされたんだ、これ……」
「まさか……この赤髪野郎がやったってのか?」
「赤髪野郎だと?」
シンのことを指したのだろうその呼び名に、言われた本人が鋭く睨んだ。レイヴンへ向ける眼差しとは打って変わり、裸の男達に対する眼光には射殺すような恐ろしさがあった。口にしてしまった本人は、「ヒッ!」と声にならない悲鳴を上げて、その場で尻餅をつく。さらにその隣の男が、手首を落とされた男の患部を腰紐で縛りつつ、腰を抜かした男を叱咤した。
「怯むな、情けねえ! 余所者が何をやったか知らねえが、たかが野郎一人だ! 対してこっちは若い衆も含めて十人以上もいるんだぞ! 全員でかかりゃ抑えられる!」
「あ、ああ……そうだな。全員でかかれば……!」
一人の男の叱咤が周りへの激励となったのか、男達は小屋にある銛や縄を手に取り、シンとレイヴンを取り囲んだ。ただの道具が一瞬にして凶器へと変わる。
しかしシンは恐れる素振りを見せず、マントに包んだレイヴンを横抱きにして立ち上がった。
続け様に、シンは語気を強めた口調で、彼らを冷ややかに見下ろした。
「群れるな、騒がしい。弱者が集ったところでオレには敵わん。徒党を組まねば力を発揮できんお前らがやるべきことなど、ただの一つだ。全員、今すぐ跪いて頭を垂れろ」
まるで王者のような言い分だが、それで怯む者はいなかった。シンとレイヴンを除いたその場にいる全員が、きっと同じ気持ちだったことだろう。いくらシンの体躯が大きく長身といえど、武器も持たない丸腰の人間相手に負けるはずがない、と。その上、負傷した人間を抱えて今やその両手が塞がっている。捕えるなら、今しかない。
「殺せえ!!」
誰かの合図とともに、男達は武器を振りかざしたーーその次の瞬間だった。
「跪け」
彼らは一斉に、その場で跪いたのだ。手にした武器はすべてその身から剥がれ落ち、空いた両手を前にしてシンに向かって深く頭を下げている。
「ようやく黙ったな。結構」
シンが睥睨しつつ、一つ頷いた。
突然静まり返ったこの異様な光景に、レイヴンは開いた口が塞がらない。熊の時も、マキトの時も、シンは通常の人間にはできない芸当を行ってみせた。それがまさか、命令を口にしただけで人間を従わせることまでできてしまうとは。
このレイヴンの驚きに、一方のシンは何ということもないように、すんなりと答えを明かした。
「別に珍しいことじゃない。ただの魔法だ」
「ど、どうやって落とされたんだ、これ……」
「まさか……この赤髪野郎がやったってのか?」
「赤髪野郎だと?」
シンのことを指したのだろうその呼び名に、言われた本人が鋭く睨んだ。レイヴンへ向ける眼差しとは打って変わり、裸の男達に対する眼光には射殺すような恐ろしさがあった。口にしてしまった本人は、「ヒッ!」と声にならない悲鳴を上げて、その場で尻餅をつく。さらにその隣の男が、手首を落とされた男の患部を腰紐で縛りつつ、腰を抜かした男を叱咤した。
「怯むな、情けねえ! 余所者が何をやったか知らねえが、たかが野郎一人だ! 対してこっちは若い衆も含めて十人以上もいるんだぞ! 全員でかかりゃ抑えられる!」
「あ、ああ……そうだな。全員でかかれば……!」
一人の男の叱咤が周りへの激励となったのか、男達は小屋にある銛や縄を手に取り、シンとレイヴンを取り囲んだ。ただの道具が一瞬にして凶器へと変わる。
しかしシンは恐れる素振りを見せず、マントに包んだレイヴンを横抱きにして立ち上がった。
続け様に、シンは語気を強めた口調で、彼らを冷ややかに見下ろした。
「群れるな、騒がしい。弱者が集ったところでオレには敵わん。徒党を組まねば力を発揮できんお前らがやるべきことなど、ただの一つだ。全員、今すぐ跪いて頭を垂れろ」
まるで王者のような言い分だが、それで怯む者はいなかった。シンとレイヴンを除いたその場にいる全員が、きっと同じ気持ちだったことだろう。いくらシンの体躯が大きく長身といえど、武器も持たない丸腰の人間相手に負けるはずがない、と。その上、負傷した人間を抱えて今やその両手が塞がっている。捕えるなら、今しかない。
「殺せえ!!」
誰かの合図とともに、男達は武器を振りかざしたーーその次の瞬間だった。
「跪け」
彼らは一斉に、その場で跪いたのだ。手にした武器はすべてその身から剥がれ落ち、空いた両手を前にしてシンに向かって深く頭を下げている。
「ようやく黙ったな。結構」
シンが睥睨しつつ、一つ頷いた。
突然静まり返ったこの異様な光景に、レイヴンは開いた口が塞がらない。熊の時も、マキトの時も、シンは通常の人間にはできない芸当を行ってみせた。それがまさか、命令を口にしただけで人間を従わせることまでできてしまうとは。
このレイヴンの驚きに、一方のシンは何ということもないように、すんなりと答えを明かした。
「別に珍しいことじゃない。ただの魔法だ」
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