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初☆デート!
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にしても。
ここ、結構人通りが多いんだね。駅前だし、大きな噴水だから待ち合わせ場所にはちょうどいい場所なのかもしれないけど、こうも人が多いと逆に探しにくいかも。
左手につけた腕時計の文字盤を見ると、六時きっかり。お仕事で遅れるようなら携帯電話に連絡がきているはずだし、たぶん、もうこの辺りにはいると思うんだけど。
きょろきょろと視線を周囲に泳がすと、左側から「喜」色の悲鳴が聞こえてきた。あ、こっちか。
「海さ……ぶふっ!?」
「柳」
みっけ、という前に見つけられ、頭ごと抱え込まれました。顔、ぺちゃんこになってないよね? というか、周りの女の子の悲鳴が一層すごいんだけど。
頭上から「見つけた」っていう、小さな呟きとともに、海さんはゆるやかに僕を解放する。といってもそれは頭だけで、身体は依然、抱きしめられたままだ。
一番先にぶつけた鼻をさすりながら、僕は顔を上げる。海さんはクスリと笑っていた。
「大分待たせましたか?」
「だ、大丈夫りぇす……」
抱きしめられた際に傾いた眼鏡を整えると、海さんは僕のほっぺを撫でて、「では、行きましょうか」と今度は身体も解放した。
「……あ」
「何か?」
海さんの全身を目にして、僕は小さく声を上げる。海さんは不思議そうに首を傾げていたけど、僕は海さんの服装を真っ赤な頭からつま先までまじまじと見た。
だってね。
「海さんの私服姿……初めて見た」
スーツ以外の私服姿なんて見たことがなかったんだもん。
「どうしました?」
「え? あ、え~っと……」
言葉が出てこない。だって別人だと思っちゃったから。
あの真っ赤な髪が、全然違って見えたから。
だからって、全身を黒で統一している海さんが変なわけではない。コーディネートが合わないとか、着ている物がおかしいとか、組み合わせがなってないだとか、そういうことでもない。
トレンチコートだよね? でも、なんていうか、大人っぽいっていうか……ええっと、そう! シックっていうやつだと思う。それから腰に着いてるベルトにシルバーのリングがついてるのもカッコいい。マフラーも、普段僕が巻くような手編みの物と違ってオシャレって言葉がしっくりとくるやつ。また穿いてるデニムのその下には、どこで買ったの? って聞きたくなるような、ベルトがいっぱいのすごくカッコいいブーツがあった。
ぼ、僕の旦那さま……だよね? テレビに出てくるような人じゃないよね?
「おかしいですか?」
「う、ううん!」
僕があんまりにも黙っているから、海さんは苦笑いで尋ねてきた。ち、違うよ!?
似合ってる。でも、なんだかそんな言葉じゃ済まないような気がする。おかしくなんてない。ちょっと、いつもの海さんと違うからびっくりしちゃったってだけで。でも、なんていうか、言葉が出ない。しっくりとくる言葉が思いつかない。う~んと……こういうとき、なんて言えばいいんだっけ?
すごくすごく似合ってるんだ。似合ってて、それで女の子たちがスマホで写真を撮ってキャーキャー言うくらい海さんは……
「スーツの方が落ち着きますか? なら、今から着替えてきて……」
「あ、あのねっ!」
「ん?」
「格好いいなって……思う」
女の子たちが騒ぐのも、なんだかわかるような気がする。たぶん、これが恰好いいっていうことなんだろうな。
たぶん、なんだけど。へ、変なこと、言ってないよね? 言ったとしても、もう遅いんだけど。
今度は海さんが黙っちゃいました。目をまんまるくして。
「か、海さん……?」
「……え? ……ああ。びっくりしました」
「え?」
「お前の目が悪くなったのかと……」
「なんで!?」
「頭が悪くなるよりはマシですが」
「うぉい!?」
何言ってるのさ!? 僕の目は悪くないよっ! 頭だって! あ、頭……だって……。うぅ~。
「まぁ」
「うにゅぅ!?」
「褒め言葉として受け取っておきます」
唇を尖らせてふくれ面をする僕のほっぺをいきなり抓る海さん。伸びるぅ!?
「とりあえず、行きましょうか」
「ひどいよ!?」
そんな可笑しそうに笑うなんて!
応援ありがとうございます!
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