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ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】

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 んまぁ、とりあえず、落ち着かせようか。

「落ちついて、柳。テストだって言っても、普段から勉強してれば大丈夫だから。単なる学力テストだし、力抜いて、ね?」

「そうだ、紫瞠。肩の力を抜いてリラックスだ、リラックス、な? ほら、深呼吸だ。吸って~」

「す~!」

「吐いて~」

「は~!」

「柳、ほら、もう一度。ひっひっふ~」

「ひっひっふ~」

「片岡、それはラマーズ法だ」

 いや、だって。素直な柳がおもしれぇから。

 まるで妊婦さんばりにラマーズ法を行う柳の背を撫でると、幾分か顔色が良くなってきたっぽい。だけど、さっきから置いてけぼりのクラスの連中の反応はといえば。

 ぽかんと口を開けてすっかり静まり返ってしまっている。そりゃそうだわな。何勝手に盛り上がってんだって話だし。静かになるどころかドン引き……

「ぷっ……! あははははっ! もう駄目っ! あはははは!」

 と、思いきや。誰かが突然吹き出し、大笑いし始めた。その声が結構なくらいよく通る声で、一瞬だけどミュージカル俳優でもいんの? と俺に思わせた。

 その紫の腕章をつけた人物は自分の席から立ち上がると、目尻を擦りながら、こちらへ向かってくる。その様子にクラスの生徒がざわつき始め、俺もどこかで見たことある顔だと思いながらようやくそれが誰であるかを理解した。当の本人は未だ笑みを浮かべつつ、こちら二人に軽く謝罪する。

「ああ、ごめん、ごめん。あんまりにもおかしくって、つい笑っちゃった。ふふ」

 柳はその人物を笑わせた原因が自分にあることを知ると、少し恥ずかしそうに俯いたけど、すぐににっこりと笑い返した。あ~、そんな可愛い顔、他人に向けちゃ駄目だってば。

 とは思いつつも、こればかりは止められないんだけどね。

 すっと差し伸ばされるその綺麗な手は、俺達を歓迎してくれた。

「僕は七海。この学校では生徒会副会長をしています。よろしく」

 その爽やかスマイルは、気持ちいいくらいのイケメンぶりだった。

 校則に頭髪の規定はないけれど、この七海って副会長の髪色も結構なもんだ。他校ならおそらくひっかかるくらいの薄い茶髪が特徴の、腹ん中がちょい黒そうなイケメン男子。けど、そんなにきゃあきゃあ言うほどのもんかね? よくわからん。

 そんな副会長が俺達と同じクラスで、しかも俺達に初めて声をかけてくれた、真実以外の同級生第一号になるとは。これはちょっとどころじゃなくマズイ、のか?

 柳はといえば、差し出されている手をそのまま、何の警戒心もなく握ろうと自分の手を差し出し……

「七海君、よろしくお願いしま……葉月?」

 ……たところで、俺がそれを制止する。柳の腕を握り、副会長と手を握らせないようにした。

 過保護? 違う、そんなんじゃない。そうじゃなく、そうじゃない。

 しかし、そんな俺の懸念を相手も察知したのか。

「ん? ああ、安心して。君が心配してることなら、多分ないから。このクラス、そういう面倒なのにならないよう構成されてるからさ」

 と、やっぱり笑って大丈夫だと返した。

 俺が心配していること。それはあの嘘つきツインズにも言ったことだ。

 ツインズと目の前のこいつ。彼らはこの学校ではアイドルとも言うべき存在だ。理解し難いことだが、彼らのファンクラブなるものは存在しており、さらにそれの上を行く崇拝者で構成された親衛隊までもが出来ているという。

 そんな奴らが存在するこの学校で、他の生徒たちの目の前で彼らに気軽に話しかけようものなら、すぐにブラックリストに上がってしまい、陰で何かされてしまうのは必至……と、噂で聞いている。

 いや、噂程度ならいいんだけどよ。もしも本当にそうなのであれば、俺はともかく柳が危ない。本当なら、柳も目立っておかしくないくらい可愛いのに、今は地味キャラでいってるし、実際地味な格好に違和感がないから、そこらの平凡学生の中に紛れ込めるんだよね。

 そんでそういう崇拝者に限って、他人のことってよく見ないし、見えないだろ? だから、平凡学生の柳が違う次元に存在する生徒会役員に易々と関わってしまうのはマズイことなんだ。

 真実もそういう存在になってるから、全くもってややこし……いや、それは今はいいんだが。

 副会長、なんて言った? このクラスがそういう面倒な奴らで構成されてないだって? んなわけねーだろ。だってこのクラスは……

「確かに、このクラスは他のクラスと違ってちょっと特別だけどね?」

 何、こいつ。エスパー? 俺の考えてることや疑問がわかるのか、ベラベラと説明してくれる。しかもご丁寧に。

「けどわかが……ああ、ここの生徒会長のことね。若がさらに色々と規約を変えちゃってね~、このクラス特有の規定は満たしていても、信者さんは除外っていう上手い具合に構成されてんの。だから大丈夫。あ、他のクラスではこういうの気軽にやらない方がお互いのためなんだけどね、面倒なことに」

 それはすげぇなって、素直に感心する。このクラスは確かに特殊だけど、そっからさらに規約を変えるって、今の会長どんだけの権力持ってんの。一生徒にそこまでできるもんなのか?

 そんでその生徒会長も確かこのクラスだろ。んでも……辺りをざっと見渡したところそんな腕章をつけた奴なんかいない。

「その生徒会長が見当たらないけど」

「ああ、今は生徒会の仕事中で、校長、理事長たちと一緒にいるよ。僕は要らないって一人でね。だからテストは別室で受けることになってるんだ」

 まぁ、後で会えるでしょって言いながら、副会長。今度は俺の傍にいる柳にもう一度視線をやると。

「紫瞠君。君の噂も聞いてるよ。橘兄弟や、先生方からもね。若も珍しく興味持ってるし……また後でゆっくり話そうね」

 そう言って、柳の頭をポンポンと軽く叩いた。

 このヤロ……。柳の頭、ポンポンしやがった。

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