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ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】
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「柳! おかえりっ!」
「怪我してない? 良かった……おかえり!」
「柳~!」
「ロワゾ」に着くなり、集まっていたメンバーは笑顔で俺らを迎えてくれた。いや俺じゃなくて、柳を、だな。久々にこの金髪バイオレットの柳を見ることができたもんだから、半端なく喜んでいる。
わっと、柳の周りを取り囲んで、口々に「おかえり」と言った。
特に。
「柳」
「ただいま、廻。お洋服、貸してくれてありがとうね」
柳の制服を代わりに着ている廻が、いつもの無表情な顔のまま彼に抱きついた。ここで皆が羨ましいという声を上げたわけだけれど、それは男の柳に対してではなく、この本物の女である廻に対してだった。
てめぇらだけじゃねぇよ。俺だって柳をぎゅってしてぇよ。
「め、廻ちゃん!? 当たってる! 何か柔らかいものが胸の辺りに当たってるよ!?」
「……りがとう」
「廻?」
「葉月を助けてくれて、ありがとう。柳」
「……当たり前だろ」
……まぁ、今回ばかりは仕方ねぇか。心配かけさせたのは事実だし。
「って、ちょっと廻ちゃん? すごく当たってる! すごく当たってるからね!? 落ちつこう!?」
ここぞとばかりに胸を当ててるのはわざとだろうけどな。
俺はカウンター席に座ると、電灯の下でブレザーを脱ぎ、シャツを捲り上げて自分の腹を見た。青と紫の濁った痣を、爺ちゃんと親父になんて言い訳しようかと頭を悩ませる。
項垂れた頭を支えるように、カウンターに頬杖をつくと、楠木さんが苦笑して救急箱を差し出してくれた。
「転校初日から大変な目にあったね」
「まったくです」
俺はありがたくそれを受け取ると、両サイドに同じ顔がぬっと現れた。
「まぁ、でも。『レッド』のヘッドにはあれが一番効いたんじゃないの? もう絡んでこないでしょ」
「惚れてた相手にボコボコにされたんだからな。これで逆恨みなんてしたら、他のチームに笑われるよ」
飄々と抜かしやがる嘘つきツインズ。ムカついたから、片方の頭をどついてやった。
「ってぇな!!」
「そんで? 『クモ』はどうなんだ? 本当に絡んでこないんだろうな?」
「そっちはホントに大丈夫。会長はあんなだけど、今は恋人作ってなんだかんだで落ちついてるし。それに俺らが任意で活動してるボランティア団体であることを、これまでの実績と活動歴を見せて納得してもらったからさ」
どつかれてない方の片割れが納得の説明をすると、楠木さんが「話のわかる人で良かったね」と言って、温いだろうココアを出してくれた。ただし。これでもかってくらいにたっぷりめの生クリームとふわふわのマシュマロ、極めつけはカラフルなレインボースプリンクルっていう、砂糖の塊のようなトッピングがついている。これ、俺のために用意してくれた物じゃないよね?
明らかに余り物のココアを複雑な気持ちで貰うと、「やっぱりコーヒーの方が良い?」と苦笑され、俺用にコーヒーを新しく用意してくれた。いや、ココアは好きだよ、俺。ただその、マシュマロと生クリームのコンビは超えられない壁なんだわ。
「そういや、楠木さん。あのウィッグ……」
「ん? ああ、柳君がつけてるウィッグ?」
「そうです。あれって、どうしたんですか?」
服は廻にその場で借りたにしても、あんなピンポイントなウィッグがすぐに用意できるはずがない。まさか、この事態を予想して、楠木さんが用意していたわけじゃあるまいし。
すると、楠木さんは柳に視線をやりながら……
「他でもない柳君だよ。あれを持っていたのはね。僕は預かっているだけに過ぎないんだよ」
本人は忘れてるみたいだけどね、と。そう言って、いつもの穏やかな笑みに影を落とした。俺も柳に視線をやった。皆、金髪で眼鏡とコンタクトを外した姿の柳に喜んでいる。
だってそれはかつての柳の姿だから。事故に遭う前の、俺達が大好きな柳の姿だから。
悲しいのは、柳がそれを忘れてしまっていること。俺達が大好きだと言っていた、かつての自分の姿を覚えていないこと。
変装だって理由であのウィッグをつけてくれたのは嬉しかった。でも、すぐにまた、いつもの柳に戻るだろう。お守りだと信じる眼鏡を掛けるだろう。平凡を望む柳の姿へと戻るだろう。
それが、無性に虚しかった。
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