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その命あるかぎり…誓えますか?

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 僕だってもうすぐ高校生になるんだよ。テレビで観たことあるよ。ああいう、舌と舌を合わせるやつ。どうやるのか知らないけど、そういう大人の世界があることくらいはわかるよ。

 それにそういう反応をするってことは、やっぱりおにいさんは経験あるんだね……経験、あるのか。ある、よね……大人だもん。あるんだ……

「む~……」

 今度は僕が不機嫌になる。あれ? 今日、こんなやり取り他にもなかったっけ?

 僕が不貞腐れていると、おにいさんが僕の左のほっぺを優しく擦ってきた。でも、ふんだ! 僕は首を反対側へと向けると、おにいさんは容赦なく僕の顔を片手で掴んでおにいさん側へと強引に向けさせた。

「じゃあ試しにやってみる?」

 っていう、言葉と共に。首が痛かったけど、痛いことよりもその提案にびっくりした。

「えっ? お、おにいさんで……キスをやるってこと!?」

 どうしてそうなるの!? 僕は口を金魚みたいにパクパクさせ固まった。ほっぺにちゅーならともかく、口と口をくっつけてちゅーなんて……それもベロチューなんて、これは兄弟でやっていいものなの?

 僕が何も言えずにいると、おにいさんは特に気にした様子もなく、「嫌ならいいけど」と答えた。

 嫌とか、そういうんじゃなくて。もっとこう、その前にあるものがあると思うんだけど……おにいさんって家の中で裸族なことといい、髪を乾かさないことといい、結構無頓着だよね。僕、弟として心配になってきちゃっ……

 ああ、そうか。

 そう、だよね。僕、弟なんだもんね。義理でも。

「ねえ、おにいさん」

「ん?」

「例え練習でも……弟とちゅーして、嫌じゃない?」

 どうしてこんなことを口にしているのか、自分でもよくわかんなかった。先にしてきたのはおにいさんだっていうのに、何でこんなことを確かめたかったんだろう?

 僕はその質問をしてすぐに恥ずかしくなって視線だけ伏せた。

 そしておにいさんは何を思ったんだろう? 俯く僕にこう言った。

「柳。オレの両肩にそれぞれの手を乗せてみて」

「手?」

 どういうことだろう? 僕は疑問に思いながらも、おにいさんの両肩に手の平を宛がうようにそれぞれ置いてみせた。

「こう?」

 確認すると、おにいさんは一つ頷く。そして、僕の腰を自身へとグッと引き寄せると……

「嫌なら拒めよ」

 そう言って、おにいさんの暗い瞳が僕にぐんと近付いた。同時に、僕の唇に何か柔らかいものが重なった。

「ん、う……」

 触れるだけのキス。本当に唇を重ねただけだけど、おにいさんとしたそれはとても不思議な感じがした。

 でも何だろう? 嬉しい、のとは何か違う。かといって嫌だとも思わなかった……男同士だからかな。

 自然と、キスをした自分の唇に指を当てる。笑うでもなく、悲しむでもなく、考え込むようにする僕に、おにいさんは尋ねた。

「嫌だと思った?」

 僕はおにいさんを見て、緩やかに首を横に振った。

「嫌……とは、思わない」

「そう。じゃあ、同じだ」

 そう言うと、おにいさんは僕の耳をカプリと食んだ。

「んひゃっ」

「可愛い声」

 びっくりして肩を竦めると、おにいさんはレロリと僕の耳を一舐めする。真っ赤になって僕は声を荒げた。

「おっ、おにいさんって、じ、実はえっちでしょっ」

「さあ。誰かと比べたことがないからわからないな。そっちも試してみる?」

「えっ!?」

 今度は何を言ってるの!?

「冗談だよ。するとしても、もう少し成長しないとな。じゃないと……オレが捕まる」

「そもそも女の子じゃないよ、僕……」

「当たり前だろ」

 おにいさんにとって、キスをするのもえっちなことをするのも、性別は関係ないのかな……ないのかもしれない。そういう細かいことを気にしなさそうだし……

 じゃあ、じゃあさ。

 いつかは僕のことも好きになってくれる、のかな?

 おにいさんはキスをした。なら、僕のこの行動も受け入れてくれる?

「おにいさん。おにいさんで試しても、いい?」

「……いいよ。試してみなさい」

 僕はシートベルトを外すとおにいさんの背中に手を回して抱きついた。おにいさんの胸に顔を埋めるようにして、ぎゅって。

 おにいさんの様子を窺うと、引き剥がされることもなく。ああ、こうしていいんだってわかって、何だかとても安心した。

 僕があげた香水もつけてきてくれている。やっぱりいい匂いだなぁ。

 おにいさんの胸に自分の鼻を擦り付けると、おにいさんがおもむろにあることを聞いてきた。

「なあ。そのおにいさんって、いつになったら止めるんだ?」

 そういえば。おにいさんはお兄さんだから間違いないし、でも当のおにいさんはこの呼び方を前々から嫌がってたんだった。ついつい呼び慣れちゃったけど……まだ嫌だったんだ?

 僕は抱きついたまま顔だけを上げておにいさんを見た。

「名前がいいの?」

 おにいさんは微笑みながら僕にお願いした。

「名前で呼んで?」

 僕は再び、おにいさんの胸に鼻を擦り付けながら意地悪く言った。

「受験に合格したらね」

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