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番外編【奥さまのとある半日】
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しおりを挟む「梅干しに~お味噌~、漬物まで貰っちゃった~。えへへ~」
真藤家から出る際、お母さんが僕に自家製のそれらをタッパーに詰めて持たせてくれた。お母さんが作る漬物、すごく美味しいんだよね。僕も糠漬けを始めたけれど、なかなかこうはならないもん。今夜、さっそく食べよっと。
僕は海さんと合流前に予定通りスーパーへ行って、おネギと挽き肉その他諸々を購入した。家に牛蒡があるから、貰ったお味噌も使って今夜は和風スパゲティを作るつもり。
ホクホクしながら買い物を終えると、少しだけ時間が早いかな~と、商店街をうろうろする。荷物は確かに重いけど、持ち方を工夫すれば負担も軽減されて何より筋トレにもなるから買い物っていい運動だよね。
道中、いろんな人に会って、いろんな人が声を掛けてくれたけれど……前ってこんなに声を掛けられたっけ? 何か買うわけじゃないのに、飴やお団子、チョコレートなど、お菓子類を貰っちゃった。あと頭を撫でられたり、肩を触られたりした。知ってる人からならまだしも、知らない人まで。何でかな?
男の子で買い物をする姿が珍しいからか、たくさんの視線を浴びつつも、商店街を抜けると大通りに出て待ち合わせのお饅頭屋さんへ続く一本道を歩く。
テクテク歩いていくと、そこで珍しい人の姿を発見した。
「……あれ? 七海君?」
僕の通う学校のクラスメートであり、生徒会の副会長さんを務める男の子、七海君にそっくりの人を見かけた。見慣れた制服姿じゃなく初めて見る私服姿だったし、髪型も違えば色付きの眼鏡も掛けててはっきりと七海君だ! と、断言出来なかったけど、僕が名前を呟いたことで声を掛けられた当人はこちらを振り返ってくれた。
間違いない! 七海君だ!
隣にフリフリスカートの可愛い女の子がいたけれど、僕はクラスメートに会えた嬉しさでそのまま彼へと駆け寄った。
「うわ~! 街中でお友達と会えるなんて。嬉しいなぁ」
七海君は初めて会った時から僕や葉月に対して優しくて、いつもニコニコ笑顔で接してくれる。この時ももちろん、優しい笑顔を向けてくれたんだけれど……ちょっとだけ強張ってる?
あれ? と思いつつも、七海君は僕に話しかけてくれた。
「やあ、紫瞠君。どうしてここに? 買い出しか何か?」
「うん。今夜の夕食の買い出しに来てたの。あと調味料も切れそうだったから、ここの通りのスーパーのね、今日のお値打ち品なんだよ」
「重そうだね。手伝おうか?」
「大丈夫だよ。僕、こう見えても重いもの平気だから! それより……」
隣にいる女の子を改めて見ると、顔を俯かせて僕と視線を合わせないようにしている。スカートを穿いているし、髪も長いから遠目からは女の子だと思ってたんだけど……
坂本君、だよね? あ、坂本君というのは僕の通っている学校のお友達で、他クラスの子なんだけど、もう一人のヘーボン君っていうお友達と共にすごく親切にしてくれるんだ。
でもなんだか、とっても可愛いらしい格好をしているね? 靴も女の子用のブーツで上半身もリボンとレースがたっぷりで。メイクもしてる? 最近は男の子でもスカートを穿くんだよって前に海さんが言ってたけれど、あれは嘘じゃなかったんだね。びっくり。いつもみたく意地悪でそう言ってたんだと思ってたよ。疑ってごめんね、海さん。
俯いたままの坂本君に、僕はにっこり声を掛けた。
「可愛い恰好をしてるねぇ、坂本君。でも、すごく似合っているよ!」
「えっ!?」
すると何故かとても驚かれた。まさか、人違い!? 僕は焦って、あわあわと七海君と坂本君を交互に見た。
「え? あれ? 坂本君……だよね? ち、違う?」
もしかしてそっくりさん!? それとも、坂本君の妹さんとか? だったらごめんなさい! 思い切り間違えちゃって……
謝ろうとしたところ、坂本君(仮)さんが驚いた表情のまま僕に「ど……どうして……」と尋ねた。良かった~……間違えてなかったよ。でも、こういう格好をしているってことは、坂本君だとバレたくなかったのかな?
「あれ……も、もしかして変装、だった? ご、ごめんね。僕、なんにも見てないよっ」
よく考えて声を掛ければ良かったね。無神経だったかもと反省しながら両目を隠すと、七海君が安心してと、重大な事実をカミングアウトしてくれた。
「大丈夫だよ、紫瞠君。見破っても。実は僕たち、デート中なんだ」
「デート!?」
「七海君!?」
そう言えば、二人とも手を繋いでいるね。こう、指と指を絡めるような繋ぎ方! 知らなかった……二人が恋人同士だったなんて!!
僕は嬉しくなってほっぺに手を当てた。
「うわあっ、素敵だね! 七海君と坂本君、お付き合いしてたんだねぇ。そっか~」
そう言えば、二人ともすごく仲良かったかも! 会長さんの皇君がヘーボン君のことを大切にしていることは知ってたけど、ここの二人がそういう仲だったことは知らなかったから……うんうん。喜ばしいことだね!
ニコニコ喜んでいると、坂本君が口元に指を立てて申し訳なさそうに、あるお願いをした。
「紫瞠君。このことは学校や、平凡君には内密にしてください。お願いします」
「はっ……内緒なんだね。わかった。約束するね」
そっか。坂本君のこれはやっぱり変装なんだね。そうだよね。生徒会の人達は人気があるから、友達の真実とも気軽に話しかけられないんだもん。七海君も人気があるよって聞いてたし、そんな人とお付き合いをするというのはリスクが高いってことなんだろうね。
お忍びのお付き合いって大変だ。でも、僕は二人の仲を応援するからね!
そうと知ったら僕はお邪魔虫だね。早く退散しないと!
「ごめんね、引き留めちゃって。デート、楽しんでね」
僕は二人に手を振って離れると、海さんとの待ち合わせ場所のお饅頭屋さんへと向かった。まだ来てないかな? キョロキョロと見渡すと、ちょうど見覚えのある一台の車が路肩に停車した。
運転席側から出てくる人の姿を見て、僕は嬉しくなって駆け寄った。
「海さん、お仕事お疲れさま!」
近くにいた人の口から「わあっ!」と声が上がるのをバックに、海さんが僕のほっぺを擦って微笑んだ。半日離れていただけなのに、こうして顔が見れるとすごく嬉しくなる。不思議だね。
「待たせたか?」
「ううん! ちょうど着いたところだよ」
「たくさん買ったな」
「お醤油とみりんが安かったの。あとね、お母さんから梅干しとお味噌と漬物も貰ってね……よいしょ」
エコバッグを抱え直すと、それを海さんがひょいと僕から取って車の後部座席へと入れてくれた。
「よりによって重いものばかり持たせたんだな、璃々子は」
そう言いながら、僕を助手席へと促して自分は運転席へと乗り込んだ。シートベルトを締めながら、僕は首を横に振る。
「僕が重いもの平気って言ったんだよ。海さんだってお母さんの梅干しと漬物、好きでしょ?」
海さん、意外と発酵食品が好きなんだよね。納豆とか、漬物とか、植物性の物の。
でも僕がそう言うと、海さんはさらりと僕が嬉しくなることを言ってくれた。
「オレは柳が漬けてる糠漬けの方が好きだけど」
「ほんと? 僕が漬ける糠漬け、美味しい?」
「美味くなかったら毎日食べないよ」
そう言ってまた、僕のほっぺを撫でてくれた。もう前みたいに柔らかくないのにね。
えへへと笑うと、海さんが車のエンジンをかけた。
「帰ろうか。そろそろ日が暮れる」
「うん!」
車はゆっくりと発進。僕はニコニコ顔。
音楽でもかけようかな……そう思ってグローブボックスを開けると、見慣れないビニール袋を見つけた。何だろ?
袋を手にしながら、海さんに尋ねる。
「これ、何?」
「入浴剤」
「入浴剤? 誰かに貰ったの?」
「ここに来る前に買った」
珍しいね。魅色ちゃんや廻から入浴剤やバスソルトを貰ったりして、それをお風呂に使うことはあってもわざわざ買ってまで使うことはなかったのに。
入浴剤のラベルを見ると、湯船が泡風呂になってる絵が描いてあった。子供の頃、一度は憧れたことのあるやつだね。海さん、モコモコしたいのかな?
「泡風呂に入りたいの?」
「そう」
「へ~。僕、泡風呂初めて。楽しみ~。香りは柚子なんだ。えーと、お湯の量が……」
「……今日の台詞、忘れてないから」
「?」
何かボソリと言われた気がするけれど、僕は初めて目にする入浴剤の説明文を読むことに夢中になっていた。
どんなお風呂の時間を過ごせるのか、楽しみだね。
END?
※拙作『ルームメイト』の「腐男子坂本くんの○○な日」とリンクしています。
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