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第一章
聖なる力の秘密 8
しおりを挟む「あの…………僕からも、質問していいですか?」
椅子へと戻りつつ、ついて出たのは自分でも信じられない台詞だった。
シンの気さくな性格がそうさせたのか、昨日から気になっていたことを聞き出したくて、つい口にしてしまっていた。これが村人相手なら、叩かれていたかもしれない。
すぐに口元を覆ったものの、シンは気を害した様子なく頷いた。
「いいぞ。何でも答えてやる。ただし、質問一つにつきキスを三回してくれるなら、だ」
「えっ!?」
まさか交換条件を出してくるとは思わなかったレイヴン。珍しく驚きの声をあげた。
「嫌か? かなり譲歩したつもりだけど……意外に我儘ちゃんだな」
「ご、ごめんなさい……」
シンは頭の後ろで腕を組みながらベッドに寝そべり、わざとらしくも唇を尖らせる。
ペコペコと謝るレイヴンは、萎縮するように両肩を内側へ巻いた。
そんなレイヴンの挙動をシンは目を細め、眺めた。
「これからしばらく、こそこそと指を切ってオレの食事に血を盛るよりか、遥かに簡単だと思ったんだがな」
「あ……」
惚けた口調でしれっと核心をついてくるシンは、続けざまにレイヴンへ提案する。
「じゃあ、一つだけならタダで答えてやるよ。命の恩人への特別大サービスだ。二つ以上ならオレにキスすること」
どう見ても、命の恩人に対する態度には見えないのだが、シンの不遜な態度を疑問にも不快にも思わないのか、レイヴンは促されるままおずおずと尋ねた。
「じゃあ、あの……一つだけ。シンさんはどうして、あの場でこんな大怪我を負っていたんですか?」
当然の質問だ。シンの怪我を見るに、少なくとも村の中での刃傷沙汰ではない。シンはその枠には収まらない規模の大怪我を負っているからだ。
何より昨日、あの場所にいたのはレイヴンとシンの二人だけだった。これだけの怪我を負う争いがこの山で行われていたのだとすれば、いくら離れた場所であっても騒ぎになる。仮に凶悪犯がいまだ山の中を彷徨いているのだとすれば、まず間違いなく狙われるのは麓ではなくレイヴンの住むこの小屋だろう。また、昨日から今に至るまでのシンの様子から、犯人が近くに潜んでいるとは考えにくかった。
かといって、シンのこの怪我の状態で、村の外からこの山まで来られるとも考えられない。瞬間移動でもしない限りあり得ないのだ。
「何だ。スリーサイズを聞かれるのかと思って覚悟してたのに。いや、知らねえけど」
期待していた質問と違ったのか、シンはつまらなそうに言ってのける。
「聞きたいことは本当にそれだけか?」
「…………はい」
念押しをされるも、レイヴンは頷いた。
シンは天井を見上げながら答えた。
「あの場所にいた理由はオレにもわからない。気づいたらあの場所にいた。ただ、腹に風穴が開いたのは、信じていたやつに裏切られた結果だ」
「裏切り……」
「世の中には酷いやつがいるもんだ」
まるで他人事のように言ってのけるシン。昨日、うわ言を言っていた時との様子とは打って変わってけろりとしている彼に、レイヴンはきょとんとする。
シンはレイヴンへと首を傾け、ニヤリと笑った。
「その割には恨んでなさそうって?」
「そ、そんなことは……」
「まあ、恨んだところで仕方がないからなぁ」
そしてシンは、極々普通に言ったのだ。
「オレを刺したやつはもう、この世にいない。殺したから」
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