最恐の精霊姫様は婚活を希望します

梛桜

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自称勇者様

黒いドラゴンと追いかけっこ

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『否!我が従うのは、セラフィナ様のみ』


「ひっ」

「ルビィ、いけないわ」
『セラフィナ嬢さん、何かやってきたよ。上を見んさい』
『大きい精霊の気配やな、他にも小さいのがあるみたいやけど…なんやろか』
「上?何か大きな気配がするわ…。精霊と似ているけど…」

 気配察知をしているオウガに言われて上を向くと、クオンも不穏な気配を感じたのか上を見上げる。抜けるような青空に、不自然な黒い点が見える。しかも、大きな気配は消えるどころか、何かを見つけたとばかりに飛び込んで来ようとしている。

「な、何だ、アレは!?」
「精霊…いいえ、ルビィと同じですわ。黒いドラゴンです」

 ルビィとは違うけど、この精霊の中でも一際大きな気配はドラゴンしか考えられない。猫精霊も、妖精姿の精霊も、属性別に分かれているのなら、ドラゴンだってルビィだけとはいえない。

(やっぱり、ドラゴンもまだいるのね)

『セラフィナ様、私が威嚇してみますので、一旦お引き下さい』
『せやな、聖域に行こか』
「では、詳しくは聖域でに致しましょう。王子様は私が手を引きますわ」

 ギャオオオオオン!と空へ向かってルビィが咆哮を上げる。此方に気がついたのか、元から見えていたのか、黒いドラゴンから殺気に似た気配を向けられる。其処から逃げるように、私は王子様の手を掴み走り出した。

「ど、何処へ行くんだ!?」
「お静かに、ルビィが相手をしている間に、安全な場所へとご案内致しますわ」
「この森は危険な魔獣が…っ」
「今のルビィの咆哮で粗方蹴散らしていますわ。此処にいるほうが危険です」

 この王子様はフローライト辺境侯爵家を知らないのだと、十分に理解出来ました。そういえば、此方は挨拶をしたのに、王子様の方からは挨拶が有りませんでしたわね。自分の事を知っていて当然とでも思っているのでしょう。

『嬢ちゃん、後ろの王子さん着いてこれてへんでー』
『困ったねー。身体強化も出来んけぇ、着いてくるなぁ無理かな。置いていこうか?』
「クオン、オウガ。それは駄目ですよ」

 ルシアン兄様なら既に冒険者パーティを捕獲して向かっているはずですし、後から馬で追い駆けると言っていたフォルス兄様もクレイオ様と一緒でしょうし。
 何度も引いている手が逆に引っ張られて転んでしまいそうになるけど、後ろを振り返るたびに限界だと王子様の顔が言ってました。

(まぁ、無視しますよね。名乗ってませんし、私からすれば本物の王子様なのかも分かりませんから)

 オウガの鑑定を信じていないわけでは有りませんが、勇者が自称勇者で通ってましたので、自称王子様の線も捨て切れませんしね。

「まだ、走れますか?」
「…おまえ…っ!わたしを…誰だと」
「この国の王子様でしょう?で、走れますの?」

 運動不足ですと身体中で言っているのに、まだ悪態を吐ける精神力には驚きと言うより、感心してしまいますね。
 私が王子様を案内したのは、この森の『セーフティエリア』です。この場所ではいかなる種族でも争いは禁止されているそうです。決めたのはこの世界を作った神様らしいです。
 魔獣から逃げる動物、怪我をした魔獣。精霊さん達が素材を集めたりもする場所です。この場所で精霊さん達と仲良くもなれましたし、動物や魔獣達とも触れ合うことは可能です。

(話が通じない場合は無理をしてはいけませんけどね)

 精霊使いと呼ばれるようになって、精霊さん達との外出を認めてもらえた時に、クオン達に連れて来て貰った場所なのです。森の入り口ともいえる場所なのですが、子供しか入ることが出来ない場所なので、私達兄妹の遊び場でもありました。

「おい!お前聞いているのか!」

 そんな私達の秘密の場所に連れてきて差し上げたというのに、景色を見る事無く喚いて悪態を吐く。これが、この国の王子様とか終わってますわ。

「何か飲み物を出せと言っているんだ!気が気かないぞ愚図が!」
「森に入るのでしたら、荷物の確認は当然では有りませんか?そんな初歩的な事もやっていらっしゃらないの?馬鹿なのかしら」
「なに!?」
「ぎゃんぎゃん喚いてらっしゃいますけど、ご自分の体力の無さや、危機管理の無さを嘆くべきではありませんの?私は、呼び出されただけですわ。『王子様』のお世話係りなど、指名されていませんの」
「き、きさま…っ」
「先程から、お前や貴様など仰いますけど、わたくし、名乗りましたわよね?貴方様からはお名前はお伺いしておりませんが、まさか、もう記憶に御座いませんの?お・う・じ・さ・ま」

 私はきちんと名乗りましたが、アチラは名乗ってませんのですね。コレくらいの嫌味は許容範囲です。

『あかーん、嬢ちゃん切れてるわー』
『おかしいね、あらそいは禁止なはずなんじゃけど』

 疲れて座り込んだままの王子様と、仁王立ちになって言い合う私達を見ながら、猫精霊達はのんびりとその言い合いを眺めて居ました。



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