最恐の精霊姫様は婚活を希望します

梛桜

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自称勇者様

ぼっちな王子様  王子視点

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 ギャオオオオオオン!!と一際大きな魔獣の叫び声が辺り一帯に響き、頭上から顔も上げられないほどの風圧を感じ地面へと無様にも転がった。
 何が来たんだ!?と、どうにか顔を上げたら、炎のように真っ赤な体躯をしたドラゴンが其処にいた。

「あ…、あぁ…っ」

(も、もう駄目だ…っ)

 死を覚悟したその時、掛けられた声は涼やかな綺麗な声だった。

「あら、意外に簡単に見つけられましたわ。混乱して移動されていたらどうしようかと思っておりましたの」

 聞こえた声に慌てて顔を上げると、ドラゴンの背から降り立つ少女がいた。私と同じくらいの年齢、腰までの艶やかな藍色の髪に、柔らかそうな白い肌、色を添えるかのように赤い唇。私を見て微笑みを浮かべるその大きな瞳は、吸い込まれそうなくらいに綺麗なアメジストと呼ばれる宝石のようだった。

「お呼びだと聞いておりましたのに、お待ち頂けなかったようですわね」
「お、お前…は」
「お初にお目にかかります。セラフィナ・コーディエ=フローライト、フローライト辺境侯爵家長女ですわ。ご連絡を頂いて直ぐに参りましたのよ?」

 微笑みを絶やすことなく、優雅に淑女の礼をする。流れるようなその所作に一瞬見惚れてしまい、其の姿を振り払うように頭を振って、目の前の少女を睨みつけた。

(そもそも、コイツの所為で、私はこんな遠方の領地まで来る嵌めになったんだ!)

「何が、連絡を聞いて直ぐだ!私が街に着く前に待っているのが当然の義務だろ!元はと言えば、お前が王都に来たくないなどと我が儘を言ったのではないか!」
「まぁ…。わたくし、そんな我が儘を申した記憶はありませんわ」

 私の睨みや言葉に怯むことなく、少女は困った顔をして、白い手を頬にやり首を傾げていた。その顔は本当に知らないと言っているようで、宰相から聞いていた事との違いに戸惑いが生まれる。

「わ、我が王家は、再三に渡りフローライト侯爵へ王都に来るようにと命じてきた!なのに、王命を断るなど、不敬にも程がある!国家反逆罪だ!」
「……何のお話なのか、当家は分かりかねますわ。それから、この森では大きな声でお話になるのはお控え下さいませ。森で騒ぎ立てるのは、愚者がする事ですわ」

 其れまで、ドラゴンがいたことで熱気を感じていたのに、少女が声を落とした瞬間、背筋に冷たいものが走り、一気に寒気が私を襲った。

(な、なんだコレは…。こんな少女が、怖い…だと?)

 今まで王宮で、少女がするような瞳を向けられた記憶はない。私と一番多く過ごしている従妹のイオフィエルだって、一度もそんな顔を向けてない。いつも可愛らしく微笑んで、甘く可愛い声で慕ってくれていた。
 圧倒される雰囲気は、私が持てないものだった。こんな少女に圧されているのが悔しくて、イライラして、手をキツク握り締めた。

「お話に食い違いがあるようですわね、一先ず屋敷に戻り父に話を聞いてみませんと、不敬かと存じますが返答出来ませんわ」
「そ、そんなの必要ない!お前が我が儘を言って王都に来なかった事が正しいのだ!王族を姦計に嵌めた罪だ!そのドラゴンを城へと献上しろ!」

 首を傾げて告げてくるが、私への話が嘘だと今更聞きたくない。こんな子供の言葉を本気になんて、王子である私がやるわけない。不敬な態度に従っているドラゴンの献上を要求したが、突然ドラゴンが大きく唸り声を上げた。

『ギャオオオオオン!!』

「ひっ」

「ルビィ、いけないわ」
『んなー、うにゃにゃ』
『うにゃー、にゃあう』
「上?何か大きな気配がするわ…。精霊と似ているけど…」

 何かを呟いて上を見上げる少女に釣られて、私も上を見上げると、青い空に一点の黒い丸が現れていた。その丸は徐々に大きくなり、形を作り出していく。

「な、何だ、アレは!?」
「精霊…いいえ、ルビィと同じですわ。黒いドラゴンです」

 冷静に告げられる言葉に、私は自分の耳を疑った。この少女が言ったのは、嘘じゃないのかと。嘘であって欲しいと懇願するほどに。
 ギャオオオオオン!と空へ向かって赤いドラゴンが咆哮を上げたが、黒いドラゴンが降りる速さは変わる事がない。動くことが出来ない私の手を、少女が手を取り走り出した。

「ど、何処へ行くんだ!?」
「お静かに、ルビィが相手をしている間に、安全な場所へとご案内致しますわ」
「この森は危険な魔獣が…っ」
「今のルビィの咆哮で粗方蹴散らしていますわ。此処にいるほうが危険です」

 此方を振り返る事無く走り続ける華奢な背中、私の意見を何一つ聞く事無く走り出し、今でも気にかける事無く走り続ける。こんな事、王宮の臣下や護衛達はしない。ドラゴンを従え、この危険な森を駆け抜けようとする。



 こんな貴族の令嬢なんて、私は知らない。



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