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乙女ゲームの王子様
覚醒
しおりを挟むここは、どこだろう……?
ズキリと痛む頭に顔を顰め、額に手をやるけど思ったような傷が無かった。
(…傷?)
どうして傷があると思ったんだろう?頭が痛いなら、頭痛だとかどこかにぶつけただけとか、他にも色々あるのに。グルグルとした頭で考えるけど、何も纏まらないどころか分からない事だらけだ。
自分がどうして此処で混乱しているのか、何があってこうなっているのか、アイツは……俺と一緒にいた妹は大丈夫なんだろうか。
(い、もうと……?)
またズキリと頭が痛む。
周りを見渡すと、天蓋付きの柔らかなベッドが目に入って首を捻る。こんな乙女ちっくなベッド、寝てみたいと妹が言っていたけど、こんな高級そうなベッドお強請りのレベルで買って貰えるわけがない。
そもそも、天蓋付きのベッドなんて、病院の特別室でも見た事が無い。って何で病院?俺は風邪を引いても寝てれば治るくらいの健康そのものだ。
(確か、妹に頼まれて…一緒に出掛けたような…?)
『兄貴!お兄ちゃん!いえ、お兄様!一生のお願い!』
思い出すのは、何度目かの妹からの『一生のお願い』だった。昔から安い一生のお願いだなと突っ込みをいれつつも、結局いう事を聞いてやっている俺は、妹に甘いのだと思う。受験生なのに某ゲーム会社が製作した乙女ゲームに嵌って、キャラのグッズを買いに連れて行って欲しいというお願いだった。
その会社はオンラインゲームやアプリゲームなども幅広く展開していて、中にはR物の作品もあるからなのか、未成年は保護者同伴だったから頼まれたのだ。まぁ、俺もオンラインゲームをやっていたからそのゲーム関連のグッズもあったので興味本位で付き合ったんだ。
「次あっち!それから、この完全攻略本買ってー!」
「お前、そんなに無駄遣いしていいのかー?既に俺に借金してますけどー?」
「受験終わったら、兄貴みたいにバイトするもん!どうしても欲しいのシャムシエル様のグッズ!」
「あー…なんか、攻略キャラって感じの名前だな」
「そう!メインヒーローの王子様なの!でね、全員攻略したら隠しキャラが現れるんだけど、この隠し攻略キャラの出し方が、この完全攻略本に載ってるって情報だったの。一推しは第二王子のシャムシエル様なんだけど、隠しキャラを出さないと出来ないイベントがあってね!」
「そんなに説明しなくても、俺はやらねーから!」
「何言ってるのよ、兄貴にも手伝って貰うんだからね!?戦闘とかのゲームは兄貴得意でしょ?あれも高得点ださなきゃいけないの!」
「は?乙女ゲームで戦闘?」
キラキラとした顔で夢見がちに語る妹に、ハイハイと適当に返事をしてゲームの王子様がどうとか、攻略がどうのとかヒロインや、ライバル役の悪役令嬢がどうたらと、入場の列に並んでる間にかなりハイテンションで話されていた。
途中、俺と同じ付き添いなのか、弟を連れた俺と同じ年くらいの女の人に微笑ましいものを見る瞳で微笑みを向けられたのがちょっと恥ずかしかった。あっちはオンラインゲームでのイベント参加なのか、手に持っていた会社のロゴが入った袋に詰められた、俺もやっているオンラインゲームのポーションジュースや、特別アイテムが羨ましかった。
先に妹優先にしてなかったら、会場限定のポーションジュースくらいは買えたかな。
(あのあと、どうしたっけ…?)
イベント時間一杯見て回って、買い込んでた妹にお金貸してくれってせがまれて、帰りは新幹線のつもりだったけど間に合わなくて、宿に泊まるには空きが無いのと次の日の仕事に間に合わないから、結局夜行バスの空きに滑り込んで。
戦利品にほくほく顔の妹に、上機嫌で『おやすみー!』って声掛けられて、バスの電気が消えて真っ暗になったのまでは、覚えてる。
「手が…小さい」
成人しているはずなのに、俺の手は子供の様に小さくて、ベッドから起き上がっても、見える視界は低くて天井が高い。置いている物も今の俺には大きいものばかりで。
(俺は、死んだのか…?これは、もしかして転生ってやつなのか?)
どうしたらいいのか呆然としていたら、扉を叩く音に我に返った。返事をしたら、濃い藍色の髪の美少女が顔を出した。白い肌に大きな紫色の綺麗な瞳。
(これ、日本じゃ絶対にない色じゃねーか!!)
声に出して叫ばなかった自分を、その時だけは褒めたいと思う。
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