悪役執事

梛桜

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プロローグ

其の六

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 アイクロメア王国は魔力の強い者が治める国、たとえ王太子に選ばれた者が政治に不向きな者であれ、国を滅ぼすような悪事をしなければ、挿げ替えられる事は滅多に無い。若しくは、臣下が謀反を企てて別の王子を引き合いに出さない限りは、今の王太子がこのまま国を継いで治めるだろう。

(だから、今の陛下のような傀儡の運命でも、偉そうにしているのかもな)

 ゆっくりと毒を盛るように育てられていく、臣下達にとっての扱いやすい王。其れがこの国の腐敗だとしても、必要なのは王族の強い魔力と、国の象徴としての存在。
 しかし、隣の国のライラクスは実力主義を重んじる国です。『神の加護』持ちは十分に歓迎されますが、それ以上に努力する人間が多いのです。

「エアヴァル様、鳥が帰りました」
「わかった、ゼルク、リーユ嬢様の食事が終わったら学園へ行く仕度を」
「はい、畏まりました」

 お嬢様の食事をゼルクとイスラに任せ、私はルファエルと共に執務室へと向かう。この部屋は旦那様がこの屋敷に訪れた時にしか使われないので、仕事の話をする時には私達が使わせて頂いている。厳選した人材のみを採用している屋敷だとはいえ、何があるかは分からない。

「どうだった?」
「出された日にちは七日前です。出したというより、お嬢様の学園の机に置かれていたようですね。お嬢様が学園での授業は全て終わっていると、知らなかったのでしょう」
「置いたのは、王太子殿下なのか?」
「いえ、頼まれたのは女生徒だったそうです。同じクラスでは無かったので、知らなかったのでしょう。そのクラスの教授が気がつき、郵送したようです」
「ああ、だから筆跡も違うのか」

 相手の事を確認もしないなら、こうなっても仕方無い。それに、出したがリーユお嬢様が現れないので逆上した可能性も思っていたが…。

「王太子は?」
「リーユお嬢様が手紙を見ていないのにも気付かず、寒空の中薄着で中庭に居たそうです。コレについては目撃者が多数。当然ですよね、リーユお嬢様は只の貴族科の王太子殿下とは違い特別クラスですので」
「馬鹿は病気をしないと思っていたが…」
「風邪を引かれたのは、一緒に居た女生徒らしいです」

 ルファエルの調べで粗方の想像は出来たが、七日なら女生徒も治って学園へ通ってきている可能性もある。今日は様子を見るつもりだったが、手紙と旦那様への連絡を小まめにした方が良さそうだ。

「あと、一緒に居た女生徒ですが。ローザリア=ボールド男爵令嬢、高等部から入学してきた生徒ですが、術でも使っているのか異性関係が問題とされています」
「男爵で、無能とは言えど王太子殿下の側には確かに問題だろうな。アイクロメア王国の臣下は知らないのか?」
「何を言っても聞きませんので」

 そんな所も国王陛下とそっくりなのかと、苦笑を浮かべてしまう。男爵令嬢と王太子。その符号は亡き奥様の残された言葉とも合う。

「リーユお嬢様のここ数ヶ月の予定を見直しておいてくれ、それと、学園に着いたらその令嬢の身辺調査を詳しく」
「はい」

 一通り話を終えると、丁度いい時間にイスラが用意が整ったと呼びに来た。本来なら執事は一人で十分ですが、今日は念の為に執事全員が学園へお供する事にいたしましょう。

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