悪役執事

梛桜

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学園編

其の七

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「レリーユエル=ヴェルヴェーヌ公爵令嬢!やっときたか!」

 傲慢な声が高らかに中庭へと響いていく、今日はまだ氷の月なのですが、又薄着ですねこの王太子殿下。寒さを感じないのでしょうか?やはり馬鹿なのですね。そしてそんな王太子殿下の側にいらっしゃるのが、ローザリア=ボールド男爵令嬢のようです。此方はしっかりとコートを着込んでいらっしゃるようですね。
 仁王立ちで中庭に居ましたが、やっときたのではなく、中庭はリーユお嬢様が特別クラスへ行く為の道です。通らないと特別クラスに行けませんよ。そんな事も知らないらしい。

「……ああ、そのお声は王太子殿下でしたか。おはようございます、授業の時間には十分間に合うと存じますが?」

 優雅に一礼をするリーユお嬢様の顔には、朝に私がお付けしたヴェールが掛かっています。周りが見えないので、人の判断は声でされていますが、それはいつもの事です。

「手紙を出しただろう!?」
「あら、私もう授業内容は終わっておりますの。後は卒業を待つだけですので、登校を免除されてましてよ?本日郵送されましたあの手紙通り、とりあえず学園には参りましたが」
「私は七日も前に机に置かせただろう!?」

(ああ、お嬢様の顔が『そんなの知りません』と言ってますね。勿論、王太子にリーユお嬢様の表情は見えておりません。そもそもこの王太子殿下は、叫ばないと話せないのでしょうか?煩いですね)

「ヴァル、お手紙をお返しして?」
「はい、リーユお嬢様。王太子殿下ご確認ください、本日郵送にて届きました。消印と王太子殿下の署名筆跡です。お嬢様は学園で学ばれる全ての授業を終えて卒業を待つばかりですので、ご登校は本来でしたらありません。本日もわざわざ、王太子のご要望にてお越しくださりました」
「こんなものいらぬ!」

 自分の書いた手紙は興味ないとばかりに、叩き落されました。私が念押しした言葉も聞いてませんね。勝ち誇った顔で男爵令嬢の腰を引寄せ、リーユお嬢様に近付いていきます。それ以上近付くようでしたら、ルファの出番になるので、止まって欲しいものです。

「レリーユエル=ヴェルヴェーヌ公爵令嬢!私はお前との婚約を破棄して、此方のローザリア=ボールド男爵令嬢を妃にする!」

 大きな声で宣言された言葉、人の行き交う中庭で行われた突然の出来事に、次々と生徒達が足を止めて此方を見ています。気持ちは分からなくも無いのですが、王太子の背後にも何人かの生徒が新しく現れました。

「リーユお嬢様、王太子殿下の右側に、おそらくローザリア嬢。下がって左端より第二王子マンティス様、アイクロメア宰相子息ルイズ様、アイクロメア騎士団長子息アルフォード様、アイクロメア魔術師団長子息ウィンド様がいらっしゃいます」
「学園の学生会を担ってらっしゃる方々ね、ルイズ様以外はお声が分からないわ」
「僕がご説明させて頂きます」
「お願いするわね、ルファ」

 他の人間が増えても動揺もしないリーユお嬢様に苛立ったのか、王太子殿下の顔が険しくなっていきます。そもそもリーユお嬢様は常にヴェールをされているのに、人数を集めて何がしたいのか全く理解したくないですけどね。

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