悪役執事

梛桜

文字の大きさ
22 / 32
花の朔祭編

其の五

しおりを挟む


 微笑みを浮かべるルファエルに、リーユお嬢様のヴェールを被せ顔を近づけて話を続けていると、イスラが帰ってきました。ゼルクの腕に抱き上げられたままのリーユお嬢様は、まだ飴細工に夢中のようですね。もしかしたら何本か細工を頼んでいるのかもしれませんが。

「買い忘れはもう御座いませんね?リーユお嬢様」
「ええ、もう大丈夫よ」
「馬車に全て積んで着ました、後は宿の方に連絡をすれば大丈夫です」
「そうですね、多少の予定変更はありますが…。リーユお嬢様?」

 イスラに荷物の確認をして、探索の網に引っ掛かった敵が動いたとの合図をルファエルが出しました。離れた場所でリーユお嬢様の相手をしているゼルクに視線を向けると、こっちを向き頷くのを確認。

「少し、疲れたみたい」
「いけませんね、私がお連れ致しましょう」
「僕がいきましょうか?」
「イスラには仕事をお願いします、私達とゼルクへ魔法防御結界を」
「はい」

 イスラの『神の加護』それは絶対的な『補助魔法の使い手』だという事。その能力のお陰で、魔道具を使ったと思われる、ボールド男爵令嬢から逃げられたのだと言ってもいいでしょう。イスラ本人はきっと顔なども覚えていないのでしょうが、予測をすればそうなります。

(つまり、イスラを実験台にしたとしか思えないんですよね)

 ボールド男爵令嬢は昨日の今日で、未だ王城に拘束されているでしょう。魔道具は確かに出てきたとルファエルからの報告にありましたから、抜け出す事が出来るほど、王宮の警備が穴だらけだとは思いたくはないですが…。
 問題だらけの廃嫡された王太子を思うと、安心出来ないのがどうかと思います。そもそも民が安心出来ない王国など潰れてしまえばいいのにと思います。

(掛かるなら、馬鹿かそれとも…)

 リーユお嬢様に扮したルファエルの手を取ると同時に、近くで騒ぎが起き始める。見なくてもゼルクなら、しっかりと腕に抱えたリーユお嬢様を守っているだろう。イスラは神経を集中しているのか、顔が険しくなっている。

「エアヴァル様、何者かが此方に来ます!」
「イスラはリーユお嬢様を御守りするように」

 手を取った『令嬢』の身体を引寄せ、走り出す。ドレスに足を絡ませて戸惑っている振りの上手いルファエルに笑みを見せ、横抱きに抱えると不満そうな顔をされてしまいました。心外ですよね。リーユお嬢様を御守りするなら、これくらい軽いですよ。

「追って来る気配は三つ、男」
「覚えがあると言ってましたね、何処の馬鹿でしょう?」
「昨日の気配は確かに」

 昨日リーユお嬢様に変な言い掛かりをつけてきた馬鹿達を思い出し、王宮や貴族の家の穴の開いた警備に頭が痛くなりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。 他小説サイトにも投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...