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花の朔祭編
其の六(ゼルク視点)
しおりを挟む「イスラ、エアヴァル様とリーユお嬢様はどうされた?」
「リーユお嬢様の容態が悪いとかで、宿に戻られるそうです」
「そうか…。お嬢様、飴細工はもう宜しいですか?」
「ええ、皆の分もありますわ」
ニコニコと嬉しそうな微笑みを浮かべ、お嬢様は手に持った沢山の飴細工を見せてくれた。自分の食べる飴だけではなくて、私達執事の分も考えてくださる、そんなお優しいお嬢様にお仕え出来て、私は本当に幸せだと思う。
イスラの魔法防御の結界を感じるので、何かが二人に迫っているのは分かる。イスラと楽しそうに話をするお嬢様を抱き上げたまま、二人の気配と其れを追う気配を感じ取る。
「昨日の馬鹿だな…」
「ルファエルさんもそういってました、誰かは分からないそうです」
「昨日の今日で馬鹿を出来るとすれば、廃嫡されたエアレズ殿か騎士団長の子息と魔術師団長の子息か…。まだ二人に話は行ってないだろうからな」
「それまでしっかりと王宮で見張っておくようにと、わざわざ言って差し上げないと分からないのかしら?駄目な方ね、忙しい叔父様をそんなに働かせるなんて…」
パリンッと音を立てて、薄く作られた羽の様な飴細工が壊れていく。お嬢様の果実の様な赤い柔らかな唇が、濡れた舌先を見せ消えていく。買うと決めていたものは既に終わっているが、楽しむのは此れからだった所為か、少し機嫌が悪そうだ。
「お嬢様、引き続き祭りを見学致しますか?」
「宿へ、運びなさいゼルク」
「はっ、仰せのままに」
腕に乗せて抱き上げただけだったお嬢様を横抱きにし、しっかりとおさまったのを確認して、走り出した。イスラは一瞬驚いたが直ぐに後を追って走り出す。私の速さに付いてこれる辺り、イスラも公爵家に慣れて来たようだな。
「ゼルク、心当たりはある?」
「そうですね、私はそういうのは有りませんが、エアヴァル様でしたら掴んでおられるかと」
「イスラ、何か聞いている?」
「エアレズ様か騎士団長・魔術師団長子息が考えられるそうです。あとは、エアレズ様の母君でしょうか」
イスラの言葉にお嬢様が何かを考え込み、見えてきた宿を前に私達を止め、裏へと回される。其の前を通って行ったのは王家御用達の馬車。祭りの今日この大賑わいの街中を、こんな馬車で動くなんて、無謀というより危険そのものだ。
エアヴァル様とルファエルなら何も心配する事は無いが、この宿で既に何か企まれていたようだし、敵はそれなりの権力を持っているという事。
「ルファと私が代わるわ、ヴァルのところへ」
「え!?でも、相手は多分王家の側妃かもしれませんよ?」
「大丈夫です、私達がお嬢様を御守り致します」
「いいんですか?ゼルクさん」
お嬢様の行動を心配するイスラは、慣れて来たと思っていてもまだ何処かお嬢様の事を分かっていないようだ。真っ直ぐに見つめる先のアメジストの瞳が、艶やかに妖しく輝いていた。
(これは、遊べなくなってかなり怒ってますね)
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