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花の朔祭編
其の十二
しおりを挟む側妃の放った言葉に、そろそろリーユお嬢様がお怒りになるだろうなと予測し、秘密裏に事を運ぶという配慮は諦めました。まぁ、遠慮する必要もないのですがね?アチラは、公爵令嬢を誘拐されたのですから。
「噂に違わずの我が儘さですね、癇癪だけかと思ってました」
「この我が儘に付き合いたくない侍女達の間では、仕事は押し付け合いですよ」
視線を向けゼルクとイスラを呼び寄せ、イスラにはスティヒ家へと走ってもらう事にして、三人で行動開始致しましょう。
『忌々しい、魔女の娘なんてっ。馬車に括りつけて引き摺ってしまえばいいのよ』
『母上、流石にそれは人目が…』
『貴方は王子なのですよ!?他国の人民を気にする必要などありません。貴方は聖女である私の息子なのですから。折角王太子にまでしたのに、この娘の所為で…』
馬車の中からは、傲慢でしかない会話が聞こえる。その会話に、馬車周辺の空気が明らかに変わっていく。ピリッと張り詰めた威圧感は、居心地を悪くさせるはずなのに、変わらずに会話を続ける側妃様はやはりエアレズの母親ですね。
「相変わらずの態度に、遠慮せずにいけそうです」
「私情は控えろよ、ゼルク」
「エアヴァル様も、殺気が駄々漏れですよ」
からかう様に言って花が咲いたかのような笑顔を浮かべるゼルクを窘めると、またからかわれてしまった。殺気が漏れているなら、ルファが先に教えてくれているはずだろ。溜息を零し内ポケットに入れていた書状をゼルクに渡し準備に入るとしましょうか。
「使いたくありませんでしたが、此方を。旦那様のサインが入った正式な書状です」
「はい、確かに」
「それで、あの側妃が従うとは思えないけどね。僕はリーユ様の警護に」
悠長に構えて居ましたが、これ以上待っていては大切なリーユお嬢様に怒られてしまいます。ゼルクが馬車の前に出て書状を見せると同時に扉を開き、此方を向いて驚きの表情をしている、エアレズに微笑みを向けてやりました。
「懲りないようだな、リーユお嬢様を返して頂きましょう」
「お、お前は!?」
「遅いわ、ヴァル」
「申し訳ありません。直ちに終わらせて御覧に入れますので」
私の声に身体を上げたリーユお嬢様に怒られてしまいました、自分でヴェールも取ってしまったので、相当側妃様の言葉が気に触ってしまったようです。にっこりと微笑みを浮かべているからこそ、リーユお嬢様の怒り具合がわかるといえばいいでしょうね。
(手加減無用だと、リーユお嬢様の目が言ってます)
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