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花の朔祭編
其の十四
しおりを挟む私の金の髪は他国の王族だった母上譲りのものですが、瞳は似たくもない父からの譲受です。母が父の寵愛を受けられたのは、あの秘宝のおかげですが、今となれば無かった方が母にとっては幸せだったのではないかと思いますけどね。
(リーユお嬢様と出逢えた事だけは、母と父に感謝しますが)
「幼い頃から、優秀な兄王子の成績を横取りさせてエアレズの手柄になどするから、この様に何も出来ない役立たずと成ったのではありませんか?そもそも、貴女は教育など何も見ていませんでしたね。全て王妃様に任せる癖に嫌がらせだけは止めもしなかった」
「何を知った風に!」
「回りくどいのは無理ですわ、考えない方ですもの」
「そうでしたね、リーユお嬢様。失念しておりました」
「クリステラ側妃様、ご紹介致しますわ。此方セレスティン=アイクロメア様、そしてそちらがシュバルト=クリエ様ですわ」
その名前に漸く見開かれるクリステラ側妃の瞳と、エアレズの瞳。苦笑を浮かべるゼルクは赤く輝く髪をかき上げ普段は隠している古傷を晒した。消そうと思えば治癒術でいつでも消せたのに、髪で隠して消そうともしなかった、アイクロメア王国王妃襲撃事件での傷跡。
「お嬢様、その名前はもう無いのですが。私はゼルク=エルホルビアです。まぁアイクロメア王国のクリエ家がどうして廃爵されたのかは、聖女様に心酔していた駄目親父の所為ですけどね。ですが、私もしっかりと覚えていますよ」
「首謀者が現場近くにのこのこと足を運ぶ事こそ、愚の骨頂。しかも、長年の嫌がらせの癖が抜けずライラクス公爵家へと嫁がれたマリアーナ奥様を見つけ、そのまま絡まれたのは如何なものかと」
ニコリと上品な微笑みを浮かべる私と、女性が見惚れる見事な笑みを浮かべるゼルクに、クリステラ側妃も漏れなく動きが止まりました。こまごました前科はもっとあるのですが、言い切れませんし時間の無駄ですよね。
「どうぞ、クリステラ側妃様。貴女方の向かう先は、此方になります」
私とゼルクが身体を寄せ、隠していた扉の先の景色を側妃様とエアレズの前に映し出した。花の朔祭りで賑わっていた民衆が遠巻きに見守るその先には、ライラクス国の近衛騎士団と、それを率いるヴェルヴェーヌ公爵様。
愛馬でもある黒馬に乗るその姿は、悪人面も手伝って魔王です。リーユお嬢様の表情からして、リーユお嬢様もそう思っているのでしょうが、扇で口元を隠しているので、旦那様を思いやっている努力は認めます。
「お父様ってどうして正義に見えないのかしら?」
「リーユお嬢様」
「ヴェルヴェーヌ公爵令嬢を誘拐・監禁の罪、民衆が楽しみにしている春を祝う花の朔祭りを台無しにした罪、過去の罪状を多々含めまして、逃げる道は御座いませんわ。クリステラ=シナゼツ、それから、逃亡を助けた罪とヴェルヴェーヌ公爵令嬢への誹謗中傷・誘拐罪積みましたわね。エアレズ=シナゼツ」
「亡きヴェルヴェーヌ公爵夫人への誹謗中傷も、しっかりと証拠は手に入っている。幽閉先の離宮より逃亡の罪はアイクロメア王国の落ち度だ。此方は後に責任を追及させて貰う」
マリアーナ奥様とリーユお嬢様をこの上なく溺愛されている、ヴェルヴェーヌ公爵様の怒り心頭。マリアーナ奥様は生前隠されて居ましたが、イスラを助けた一件で全てばれましたので。それは偶然であって故意ではありませんよ?
魔王様の威厳に満ちた沙汰と、リーユお嬢様の美しい微笑みでの断罪に、青褪めるどころか、気を失ってしまったので、連行はとても簡単でした。その姿を優雅な一礼でお見送りされたリーユお嬢様の美しさは、私達執事一同の誇りです。見惚れていた近衛騎士団の方々は、強制的に記憶から抹消しましょうか。
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