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アリア十歳
幼き誓い
しおりを挟むパタパタと廊下を走る音が遠くから響いてくる、それと一緒に何人かの急ぎ足の音も響いてくる。侍女長の声だろうか静かにしようと思っているのは分かるが、それを聞き入れない為に段々声が大きくなっている。
「リモナイト王子殿下、お待ち下さい」
「そちらは、ラズーラ王子殿下がお勉強中です!」
止める侍女長の声と、コレは部屋の前に待機していた護衛の声。普段なら聞き分けのいい子なのに、今日は珍しいくらい話を聞かない。扉が開いて入ってきたのは、二歳年下の弟のリモナイト。ふわふわとした金髪に、金がかかった紫色の珍しい瞳の色をしている。肌も白くて姫君の様に可愛らしいこの弟は、にっこりと天使の笑顔を浮かべ私へと走り寄って来た。
「ラズ兄様、聞いて下さいっ!」
「リィ?どうしたの?」
「僕、魔法適正検査、してきました!光属性持ってるって!」
興奮している所為か言葉遣いがたどたどしいけど、白い頬を薔薇色に染めて嬉しそうにそう告げる弟の可愛らしさに、平常心を保つのが本当に大変だった。クラスター王国は国王陛下が治める国なので引き継ぐのも、嫡子もしくは最も能力の高い王子が王太子となり、次期国王となっていく。
私とリモナイト以外にも王子は居るが、其れは陛下の側妃の産んだまだ五歳にも満たない幼子。魔力や能力も分からないので、王太子の話は其の子が十歳になった時に改めて話をする事になっている。その頃には私も十七歳になっているので、学園で将来を考えるには良い時期だろう、と言うのが国王陛下である父上の考えだ。
(どっちにしても、私にもリィにも王太子としての勉強は義務付けられるからな。どちらが王太子となってもならなくても、補佐は完璧に出来るって事か)
幼い時は気が楽だと思っていたけど、こうなってみると政治の争いを避ける為の都合のいい理由になったんじゃないかと、父上を睨んでしまう。私とリモナイトが居るのに、今更側妃を持つというのが最も怪しいじゃないか。
(女の子が欲しかったとか言うけど、国王陛下の娘なら王女として外国に嫁に行くのが決定してるようなものだ。そんな険悪な国だって無いし。それに、逆に嫁に貰うとか親族の娘で、隣国の王族に嫁ぎたい子だっているかもしれない。)
「ラズ兄様?どうしたの?」
「あ、ああ、びっくりしただけだよ。凄いね光属性なんて稀少な属性だ」
「うん、後ね風の属性もあるって!光属性なら、ラズ兄様が怪我した時とか、疲れた時に、僕の力役に立つよ」
侍女達の間では天使の笑顔と呼ばれる、無垢な笑顔を向けるリモナイトの髪を優しく撫でると、私を見つめる紫の瞳が妖艶に輝く。この瞳は侯爵家のアトランティ家に出る特殊な色で、母上がアトランティ家の血族だからこその色でもある。
(この瞳に、魅了されてるのかもしれない……。人を惹き付けるアメジストの輝き)
双子の様にそっくりなリモナイトと、アトランティ侯爵家の令嬢アメーリア。共に紫の瞳を持ち、知らずに周りを魅了していく性質は、王族に取り込んで置かなければ危ういのでは無いのかとさえ思う。
「ラズ兄様、今日はアリアにも逢ったんですよ。アリアは光と闇と風と水の四属性持ちだって、皆凄く騒いでました!」
「四つも?元からアトランティ家は、水と風の属性が出やすいけど…。アイクでさえ水と氷だったのに」
(母上がアトランティ家の血族で、血が濃くなりすぎるのとアトランティ家の権力が強くなりすぎるからと、アメーリアは王妃候補から外していたけど……。将来の婚約者によっては、離すのは危険かも知れない)
王太子に求められるのは、愛情よりも後ろ盾。権力の強い家と結びつくのはとても良い事だとされているが、その肝心の王太子でさえまだ決まっていない。
(リィと同じ瞳を持つ、侯爵家の令嬢)
お茶会や王宮の中庭で、何度か逢っている令嬢の瞳を思い出し、白いリモナイトの頬に優しく触れる。首を傾げるリモナイトのその仕草もアメーリアと同じで、ふらりと引寄せられそうになるのを、懸命に堪えて視線を外した。
「あ、そうだ。ラズ兄様、狼の聖獣を連れた令嬢を覚えてますか?」
「え?ああ、そういえば最近は良くお茶会にも呼ばれているね」
「その令嬢も来ていたんです、モルガ男爵家の令嬢なんですけど、闇の属性と火の属性持ちなんですよ。ラズ兄様と同じ火の属性だそうです!」
「聖獣付きなのも珍しいけど、稀少属性の闇を持ってるなんて、リィの年は凄いね」
聞いて欲しくて一生懸命に話をする弟が可愛くて、そのふわふわした髪を撫でつつ聞いているけど、頭の隅っこでは政略とも似た考えが膨らんでくる。モルガ男爵令嬢をリモナイトの妃にし、アメーリアを私の妃に出来れば、クラスター国はより強固な国になるのではないかと。
(陛下に話しても、子供の戯言だと言われて終わりだろうな)
自嘲の笑みを零すと、ジッと私を見ていたリモナイトが何処か不安そうな瞳を向けていた。首を傾げて微笑みを浮かべると、安心したのかにっこりと笑みを浮かべじゃれ付いてくるのを抱き締めた。
王太子の座は正直望んでいない。だけど、何も考えても居ない第三王子にみすみすくれてやる気もしない。側妃が第三王子を王太子としようと策略を伸ばすなら、迎え撃つけどね。
「リモナイトが稀少属性の光を持つなら、王太子はリモナイトが選ばれるかもしれないね?」
「僕ですか?有りませんよ、僕じゃなくてラズ兄様の炎の属性の方が凄いです!僕はずっとラズ兄様の側で役に立つのが夢なんですよ」
「じゃあ、私が頑張らないとだね」
国王陛下を信用することが出来ないのなら、リモナイトも自分の身も私が守る事にしよう。
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