攻略なんてしませんから!閑話集めました。

梛桜

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アリア七歳

空中散歩

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『アリア、どこいくの?』
『おでかけ?』
「ハウライトとオブシディアンは、籠の中でゆっくり寝ていていいですわよ。着いたら遊びましょうね」

 アズライト様とジャスパー様とお知り合いになった日から数ヵ月後の、とても良いお天気の日。私はハウライトとオブシディアンを大きな籠に寝かせてやり、アイクお兄様の手を取って馬車に乗り込みました。
 今日は外出するという事でドレスでは無く、綺麗な青紫色のワンピースです。スカートの裾にはレースが縫いつけられていて、同じ青紫でも色味に変化をつけています。腰には赤紫色の大きなリボンが付いていて、お外で動き回るので、髪は低い位置でお団子にしてつばの広い帽子を被っているので、日除け対策もばっちりですよ!

 目指すはアトランティ侯爵家の領地にある、大きな湖です!

「お二人はお分かりになります?」
「大丈夫だよ、ジャスパーは何度か来た事があるし、アズライトはジャスパーが馬に乗せて一緒に来るって言っていたからね」
「ラーヴァも一緒に連れて行ってあげたかったですわ」
「ラーヴァはまだ小さいからね、お父様とお母様が今日はラーヴァを連れて、大叔父様の屋敷に行くって言ってたから」

 窓の外の景色は緑の草原が広がっていて、前世では実際には見れない綺麗な風景に見惚れていた。田園風景なら目にした事はあるけれど、草原は無い。住んでいる場所にも寄るけれど、私の行動範囲では無理だったから、アイクお兄様は何度も見てるでしょ?と微笑んでくれるけど、あまりの見事さに見飽きることが無い。
 出掛ける前に、ラーヴァが大きな瞳一杯に涙を溜めていて思わず抱き締めて、アイクお兄様に宥められましたが、今日は湖へ行くので確かにラーヴァは少し危険ですね。

「アイドクレーズ!アメーリア嬢!」
「ジャスパー、あれ?アズライトは?」
「逃げた」
「え?」

 目的地の湖付近にある林で、馬を木に繋いでいたジャスパー様が手を振っていた。アズライト様と一緒に居ると思っていたのに、ジャスパー様の手には、何故かアズライト様の物だと思われる衣服が。

「もしかして、獣化してるの?」
「馬で走ってる時は良かったんだけどなぁ……、降りる時に高さにビビッたんだよアイツ」

 馬上の高さをいまいち理解していないので、アズライト様の恐怖心は分からないが、迷子にならないように捜さないといけないみたいです。ハウライトとオブシディアンは籠の中で寝ているので、とりあえずは馬車の座席に乗せておきましょう。

「林の中かな?」
「そうだな、あっちに走っていったからー……」
「アイクお兄様、ジャスパー様。私もお手伝い致しますわ」
「アリアは湖の方を頼んでいいかな?そっちなら私達も目に入るから」
「はい、アイクお兄様」

 目に見える範囲なら捜さなくてもパッと見で十分だろうが、と思うけれど口にはしない。林の中で私まで迷子になってしまうと面倒だから仕方無い。アイクお兄様の心配も一応分かるのでね、にっこりと笑みを浮かべて頷き、小船で遊べると聞いていた場所でも探そうと、湖へと近付いた。

「アズライト様ー!お好きなクッキーがありますわよー!」

 前世からのお約束、動物を誘き出すなら『餌』これが一番です。猫缶の音させるとか、カリカリフードの音をガサガサさせたら、飼い猫総勢七匹があちらこちらから出てきたものです。(実話)クッキーをガサガサ言わせたら割れるよね?袋開けて匂いパタパタやってみるか。

「アズライト様ー?お菓子ですよー」

 湖の桟橋の側へとやってくると、白と黒の尻尾がゆらゆらとしています。ぴょこっと丸いお耳がこっちに向いて黒い鼻先がひくひく動いてます。コレは、猫まっしぐらのフラグ来ました!袋を全開にしてカサカサと音を立てて、匂いがするように風を送ると、ガサァッ!と音を立てて出てきましたホワイトタイガーのでかい子猫!いや、子供!虎です子虎!

「アズライト様!」
「にゃああう!!」

 嬉しそうに尻尾ゆらゆらして、お菓子にまっしぐら走って着ました。が!アズライト様の背後から何やら黒い点が飛んでくる……?近付くごとに点は線になり、段々と大きな翼を持った鳥の姿が…って!?どこかで見たこと有りますよあの怪鳥!某モンスター狩りに行くぜ!のあのゲームにも似たのいたよね!?

「は、ハシビロ先輩!?」
「にゃ?」
「あ、アズライト様、逃げてください!!」
「フシャアアアアー!?」

 嬉しそうに走ってくるアズライト様の背後から忍び寄った?怪鳥は、ペリカンの様な大きな口を開けて、逃げるアズライト様を銜えようとしましたが、一瞬私がアズライト様を抱き締めて転がる方が早かった!ホワイトタイガー姿のアズライト様をぎゅっと抱き締めて、コロコロ転がるその先はなんと湖の湖面です。

(落ちる!?)

 濡れるのを覚悟して、アズライト様を抱き締めたまま身体を小さくしました。が、ここでも急展開です。なんと、ふわりと身体が浮かび上がり、私とアズライト様はハシビロコウの嘴に銜えられ、空高く飛び立っていたのです。

「アイクお兄様ー!助けてー!」
「にゃあああーーー!!」

 浮かび上がる恐怖にアズライト様をぎゅっと抱き締めて、アズライト様も私のワンピースに爪をしっかりと引っ掛けて、私達をなんとか見つけてくれたアイクお兄様とジャスパー様に、助けを叫んだのでした。


 *****************


 ふよふよと空を飛んでいますが、上空は結構な寒さです。だけど、腕にアズライト様という上質な毛布を抱っこしていますのでね、最高に温かいですよ。そして、上空からみるクラスター王国は緑に囲まれていて、本当に綺麗です。遠くに見えていた王宮が段々近くなってくるので、きっとこの怪鳥のハシビロコウさんの巣は王宮の近くにあるのかも知れません。
 実際、ハシビロコウさんというより、某ゲームの怪鳥に似てるんですけどね?足は恐竜みたいにがっしりしてるけど、翼は翼竜というよりも猛禽類みたいな翼だし。体も倍くらい大きいです。

(とりあえずの呼び方は、ハシビロさんでいいかな。似てるし)

「アズライト様、今は元の姿に戻ってはいけませんよ?寒いですからね」
「みゃあうううう~」
「怖くてそれどころじゃないですか?」
「ふにゃああ!」
「アイクお兄様とジャスパー様でしたら、馬で追い駆けて来てますよ。ハシビロさんみたいに真っ直ぐじゃないですから、段々遅れてますけどね」

 ガタガタ震えているアズライト様を撫で撫でして、暴れないように落ち着かせようと頬を擦り寄せました。本当ならこういうのって逆なんですけどね?私どうやら、追い詰められたら冷静になるタイプのようです。
 大きな樹木が増えていて、巣が近付いてきたのか飛行高度がゆっくりと落ちていきます。どんな巣なのかは知りませんが、子供が二人乗っても大丈夫なのかなー?重さで底が抜けるとか嫌だよ?

「あ、結構広そう」
「にゃああああ!」

 ペイッと放り投げられた巣の中には、卵から孵ったばかりの雛と、それよりも少し大きな元気な雛が居ました。ふわふわの体毛はとても柔らかいのに、足を突いてくるこの攻撃性は頂けない。転がって粉々になってしまったお菓子を取り出し、ざらざらーっと卵の殻に出してやる。匂いに惹かれたのか、ぎゃわぐぁわ言いながら突いて食べてます。唸りながら食べるのが普通なのか?

「これ、あげますから私とアズライト様は突かないで下さいね」
「ぎゃわー!」
「もうちょっと静かに食べて?」
「ぎゅわ」
「お前もこっちおいで、全部食べられちゃうよ」

 食べやすい餌を取り出したのが良かったのか、親鳥?は私とアズライト様に関心を向ける事無く、目を閉じてじっとしている。そんな所がますますハシビロさんのようだけど、後から孵った雛を先に孵った雛が攻撃してるよ。ちょっと、親止めろよ。
 目を閉じたままの親にイラッとして、その小さな頭に教育的指導です。ビシッとデコピンするには指が短いので、チョップ食らわせました。ぷるぷるしてるのがざまぁですよ。

「喧嘩したり、意地悪するならあげませんよ」
「ぎゃわー」
「ぴーぴー」
「にゃあ」
「何でアズライト様まで入ってくるんですか、お腹空きました?」

 雛達に餌をやっていると、膝にタシっと置かれるモフモフの手とぷにぷに肉球。形を残しているクッキーを差し出すと、嬉しそうにあぐあぐ食べだしました。でも、クッキーって焼き菓子だから喉渇くと思うんですよね。

「ハシビロさん、お水ってありますか?」

 目を閉じてじっと(多分寝てる)ハシビロさんに声を掛けると、大きな翼をバッサァ!っと広げて飛んで行きました。いや、せめて下ろして欲しかったです。雛達はお腹が一杯になって満足したのか寝てます。

「アズライト様、ここってアイクお兄様達に分かると思いますか?」
「うにゅううー」
「ですよねー……、魔法が使えたらどうにかして知らせられたんですけど」

 私の年齢は八歳前でまだ魔法は使えない、アイクお兄様なら魔法適正で水と氷の属性を確認出来たので、小さなものなら使えるはず。大声でアイクお兄様かジャスパー様の名前を呼ぶしかないかなぁと考えて居ましたが、追い駆けてくれているのも覚えてる。


火炎弾ファイアーショット

 突然聞こえてきた声と、回りが炎で明るくなる。こんな燃えやすい林の中で炎!?と慌てる内に、乗っていた巣を残して地上へと落ちていく。

「きゃああああーー!!」
「ぎにゃああああー!」

 まだ小さな雛達を守るように抱き込んで、アズライト様は可哀想ですが、尻尾を掴ませて貰いました!咄嗟ですので仕方無いじゃないですか!
 誰だよ、こんな木だらけの中で炎魔法使うのは!

「ラズ兄様すごーい!」
「アリア!」
「回りの炎を消せ、巣は人の臭いを付けない様に、手袋をした者が触れるように」
「はっ!」

 軽い衝撃と共に、地面へと落ちた巣は意外と強固だったようで、私達は傷を負うことなく降りる事が出来ました。
 アイクお兄様に抱き締められて、やっと自分が恐かったのだと思い出した私は、ガタガタ震えてアイクお兄様に抱き付き、ボロボロに泣き出していました。

「あ、いくっ、おに……さまぁああ!」
「よく頑張ったね、アリア。もう大丈夫だからね」
「アズラ、ほれ服!」
「ジャスパー、よく分かったね?あの巣にいるって」

 炎魔法を使ったのは、なんと炎属性の適性を持っていると解ったラズーラ殿下でした。私が守った雛達も無事で、他の木からじっと見ていた親鳥が巣に戻って来ていたようです。

「分からなかったら、あの辺一帯焼くのも考えたんだけどね。大きな巣って数は少ないから、直ぐに見つかって良かったよ」
「や、ややっ、焼かないで下さい!」
「大丈夫、私の水魔法もあったから」

 にっこりと黒い微笑みを浮かべるラズーラ殿下に突っ込みを入れつつ、狼狽える私の頭を優しく撫でてくれるアイクお兄様に、その日は一日中しがみついていました。


 突然の強制的な空の散歩になりましたが、私とアズライト様は無事戻る事が出来、あの怪鳥の雛達はその後も王宮騎士達が世話をして、無事に巣立ちを迎える事が出来たそうです。
 親鳥?のハシビロさんも、捕獲はされたそうですが、王宮騎士達が馴らしたらしく、その後は王宮で伝書鳩のような役目を担いつつ、中庭で親子仲良く暮らしています。



「ラズ兄様、ハシビロが書類を届けてくれましたよ」
「ああ、ありがとうリィ」
「どうしたの?アリア」
「いえ、ハシビロさんの名前が採用されたのが、今でも冗談じゃないかと思いまして……」
「仕方無いよ、呼ぶと返事したのがハシビロなんだから」

 本当の種類として呼ばれている名前より、何故か気に入られてしまった『ハシビロ』さんの呼び名は、今でも使われているようです。最近ラズーラ殿下の伝書鳩になっているハシビロさんは、私が昔チョップした、あの雛だったハシビロさんだそうです。
 にっこり微笑むラズーラ殿下をみていると、態とじゃないかな?って思える今日この頃です。


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