攻略なんてしませんから!閑話集めました。

梛桜

文字の大きさ
2 / 13
アリア五歳

アイドクレーズ

しおりを挟む


「アリア、領地の散策をしにいかないか?」
「さんさくですか?」

 キョトンとして首を傾げ、窓の外を眺める。その瞳は緑の平原を見ているけど、外に出るという事には何か心配があるようだった。王都にある屋敷から、暑い時期の避暑にと領地に帰ってきているけど、王都の屋敷に残ったお母様が心配なのかもしれない。

「外に行けば、珍しい動物がいるよ」
「めずらしい、どうぶつ!?」

 この言葉には効果があったようで、アメジストの宝石のような綺麗な紫色の瞳が輝きだした。弟が生まれてから、妹の性格が変わったように思う。前はお茶会に呼ばれれば、喜んで参加していたのに、今では屋敷で弟にべったりだ。乳母も呆れるほどに。

「折角領地に来たんだから、アルーマを見に行こう」
「ある、ま?」

 首を傾げるアリアに微笑みを返し、小さな手を引いて歩き出す。アルーマはモコモコとした毛並みの動物で、毛が暖かな上質の毛糸になる。アトランティ領地にとって特産品にもなっている有名な動物だ。以前はもっと小さい頃に連れて行った事があるんだけど、その時は怖がって逃げてしまったのを覚えている。

(今のアリアなら、多分気に入ると思うんだけどな)

「馬車の用意をして貰おう、ドレスを動きやすいものに変えておいで」
「はい、アイクおにいさま」
「慌てなくてもいいからね?」
「わ、わかってますわ」

 ニコッと嬉しそうに浮かべる無垢な笑みを見るのも、本当に久し振りだった。お母様とお茶会やパーティで他家の屋敷への訪問に行くようになってからは、侯爵家の令嬢としての静かな微笑みしか見ていない気がする。
 白い頬を紅く染めて恥ずかしがる妹が、素直に可愛いと思う。今は話しかけて来るようにもなったけど、其れまでは言葉の少ない子で、『はい』か『いいえ』しか答えなかった。表情もあまり変化が無くて、今みたいに紫の瞳を細めて微笑む事もそんなに無かった。弟や母親の健康の為にと、自ら料理を作ろうとも動き出すのも、普通の令嬢では無い事。

(私の事も、アイクお兄様って呼ぶことも無かったといえば、アリアはどんな顔をするだろう)

 お父様に良く似た金色の髪と薄紫の瞳、アトランティ家の血筋の特徴を一身に受け継いだ、侯爵家の宝石とも言えるその瞳。外見は昔のままの可愛い妹なのに、何かが違う気がする。
 まだ小さな妹の儚げな背中を見送って、執事に馬車の用意をさせる。自分も着替えようと思っていたら、お父様が呼んでいると執事に呼ばれた。

「到着は明日だと聞いていたけど?」
「何でも急ぎの仕事が出来たそうで、其の分王都へのお戻りが早くなるそうです」
「アリアを少し待たせてしまうかもな、侍女に仕度はゆっくりでいいと言っておいてくれる?」
「はい、畏まりました」

 今は屋敷の中で一緒にいれるけど、王立学園に入学してしまえば、アリアの側には今ほど一緒にいれなくなってしまう。お茶会やパーティに進んで出なくなったのは安心していたけど……。目の前の重厚な扉を目にし、一つ溜息を零した。コンコンっと軽いノックをして返事を待ち、中で仕事をしているお父様に挨拶をして本題に入った。

「アメーリアが、王太子妃候補に入っていると聞きました。アリアが作るお菓子は、秘密になっているはずですよね?」
「其れは無い、陛下とも内密にしないと渡さないと言って有る」
「言い切れますか?もしかしたら、ラズーラ王子殿下がアリアを気に入るかもしれませんよ?リモナイト殿下だって、アリアを気に入っています」
「そうはなっても、王家にアトランティ家の宝石はもう既にある。渡すのは一つで十分だろう」

 お父様が言っているのは、きっと現王妃様の話だと思う。アトランティ家の血筋だとは聞いているけど、直系では無くお父様の従姉妹だと聞いている。見事リモナイト殿下はアメジストの瞳を受け継いでいるのだから、今更アメーリアを王家に嫁がせるつもりは無いらしい。
 血筋で行けばアリアは有力候補だけど、権力や他の事を考えると、他家の臣下がそれを許さない。

「心無い者なら、権力を強める為に差し出すと噂しております。子供だからと思われたのか、ラズーラ殿下の部屋の側で、その様な話をする臣下は如何なものかと」
「そうならないように、お前を殿下につけた。その臣下については捜査させよう」
「宜しくお願い致します、無駄にラズーラ殿下を唆されても困ります」
「儚げな見た目とは違うとは、聞いていたが?簡単に騙せるような第二王子とは違うだろう」

(寧ろ、純粋さではラズーラ殿下の方が上かもしれませんよ?リモナイト殿下は何を思っているのか読み取れない事がある)

 親子の会話と言うより、まるで主従の会話のようだ。魔法適性を見るまでもなく、アリアの身体に流れる魔力の多さを知っているのは、お父様だ。属性がどう出るかは解らないが、望まれる場所は多い。

「せめて、今くらいは遊ばせてやるといい」
「はい、今日もこの後アルーマを見に行こうと思っています」
「そうか、従者を付けよう。気をつけて行って来なさい」
「はい。行って参ります」

 口元に微笑みを浮かべるお父様に、微笑みを返して一礼する。本当は可愛いアメーリアを誰にも渡したくないけれど、あの子が望むならそれも仕方無い。それを実感するのが、まだまだ先の話だという事が、せめてもの救い。

(虫の排除はするけどね、簡単には近付かせない)

 自分の身体にも微かに片鱗を見せている魔力の変化に笑みを浮かべ、待たせているアリアの元へと急いだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...