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アリア二歳
兄とモフモフ達
しおりを挟む其の日、グラッシュラー伯爵領は晴天に恵まれていた。
朝からメイドや使用人達が準備してくれたのは、美味しいお弁当に日除けのパラソルや、ゆったりと休める居心地良くしつらえられた馬車。
二歳になったばかりのアズライトは、獣化したまま元気に飛び跳ねて、母の足元にじゃれ付いては抱き上げられ、嫌がって下りるを繰り返していた。
「アズラ、母上が疲れてしまうだろ」
「ふにゃあ」
「いい加減元に戻れ、いつまで虎の姿でいるつもりだ」
アズライトと俺グラッシュラー伯爵家長男マラカイト=グラッシュラーは、十歳年の離れた兄弟だ。違う事といえば、弟のアズライトは獣人である母から生まれ、俺は平民の母から生まれた。父上も伯爵家の跡継ぎの癖に何やってんだと思うが、平民の母とはクラスター王国の学園に通っていた時に出会い恋に落ちたらしい。
生まれた俺は男子であった為に父上に引き取られたが、顔も知らない母は父上との仲を許されず、引き離され今は修道院に居ると聞いた。
「カイト様、先に馬車で待ちますか?」
「いいえ、俺がアズラを連れてきます。母上こそ休んでいて下さい」
「今日は気分が良いのですが…。折角ですし、お願い致しますわ」
俺が母の事を聞かされたのは、アズラが生まれた時。母上の耳や尻尾を受け継いだアズラを『ズルイ』と何度も癇癪を起こし父上と母上を困らせたものだった。俺の頭の上にはアズラや母上のような耳や尻尾は無く、父上と同じだったから。
実の母親に会いたいか?と聞かれた事はある。だけど、俺には母上が本当の母上だ。赤ん坊の俺を大切に育ててくれたのは、グラッシュラー伯爵家と懇意にしているコルネル辺境伯家の令嬢だった母上だ。
「アズラ、お兄様を困らせてはいけませんよ」
「うにゃあ」
母上に返事するアズラに見えないように、手に魔力を集中させ風の魔法を練る。ふわりとアズラを持ち上げると、地面から離れた感覚に驚いたのがにゃあにゃあ鳴き出した。俺の力だと解っている母上はまぁまぁと笑っているが、アズラは怖がりなのでそれどころではない。
「アズラ、母上のいう事を聞かないからこうなるんだ」
「にゃあああ!」
「聞こえて無いようねぇ」
のほほんとして微笑みを浮かべる母上は、獣人とは思えない程おっとりした方で、コルネル辺境伯のご気性を受け継いだのだろうと、父上も言っていた。では、アズラのこの弱虫は誰に似たんだ?俺は此処まで泣いていない…はずだ。
「あらあら、アズラ良い眺めね」
「コーラル様、それにセレナローズまで」
「今日ピクニックに出ると聞いて、連れてきたの」
母上の兄でもある、コルネル辺境伯の奥方も獣人だ。正確には正妻はクラスター王国の人間だと聞いているから、妾になるのかもしれないが、この国は跡継ぎ問題もあるので、貴族のみ多くの妻を持つ事を許されている。
(妾を持つかどうかは、本人次第だが。父上が正妻しか持たないところは尊敬してる)
コーラル様の腕には可愛い雪豹の子供がいた。コーラル様は隣の国の貴族の娘だとは聞いていたが、獣人でも珍しい雪豹なのに、どうしてクラスター王国の辺境伯に嫁いだんだろう?
アズラを空から下ろしてやると、泣きながら母上に飛び込んでいった。じっとその姿を大きな空色の瞳で見つめているのは、腕に抱かれたセレナローズ。
突然、コーラル様の腕から飛び降りたセレナローズが、アズラに向かって走り出し、頭に噛み付いた!?
「あ、アズラ!?」
「まぁまぁ、アズラ」
「……に、にゃああああああ!!」
「あははは!!」
自分に何が起きたのか、理解するまで時間が掛かったようで。衝撃で人型に戻ったアズライトとセレナローズ。アズライトの頭からは赤い筋が伝い、慌てた俺がセレナローズを即刻引き離した。それを見ていたコーラル様は笑いを止めるのに必死で、お腹を抱えてた。
「アズラを傷物にするとは、とんだお転婆のようね」
「元気でいいですわ、獣人ですもの女性騎士を目指せますわよ」
「いいね、女性騎士になって、アズラを責任持って養いましょうかセレナ」
「あらあら、従兄妹で婚約だなんて素敵ですわコーラル様」
ニコニコと和やかな母上達を横目に、泣き疲れて眠るアズラと、噛み付いて満足したのか、のんびりと昼寝を始めるセレナを溜息を零しつつ見守っていた。
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