攻略なんてしませんから!閑話集めました。

梛桜

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アリア十六歳

幻のお姫様

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**今回ジャスパーとアイドクレーズの昔のお話ですが、見ようによっては腐向けに思えるかもしれません。
苦手な方は回避してください。


******************************



 普段は騎士団で忙しい父上に連れられて、やってきたのはクラスター王国でも宰相を務めているカルシリカ家だった。久し振りの父上との外出も嬉しかったが、祝いの為に連れ出されたと分かった時は、自分の為で無かった事に腹を立てていたのを覚えている。

(今でも、夢に見るくらいに覚えているんだな……)

 クラスター王国に建てられている王国立の学園の、騎士科専用とも言える中庭。その中に大きく育つ木を背にして、転寝をしていたようだ。今日は貴族科と魔法特進科では、ダンスの試験があるのをラズーラ殿下から聞かされている。
 このダンスの試験の時だけは、自分が騎士科で良かったと思ってしまう。護衛対象であり仕える主のラズーラ殿下からは若干嫌味を言われてしまうが、其処は甘んじて嫌味でも受け止めたい。

「ダンスが苦手と言うわけでもなんだがなぁ…」

 苦手所か、身体を動かすことが得意な俺としては、堅苦しい社交の為のダンスだとしても、どんなにダンスを苦手とする御令嬢をエスコートしていても、難なくこなせると自信を持って言い切れる。補習の時に人が足りない時に等、借り出されるくらいだ。
 だけど、自分から踊りたいと思える相手は未だに一人しかいない。

「ん……っ」
「あ?…アイドクレーズ?」

 転寝をしていた木のを背に、いつの間にやってきたのか幼馴染みのアイドクレーズが一緒に転寝をしていた。俺が動いたときに位置がずれたのか、俺の肩に乗せられる柔かな金色の髪が首を擽る。
 瞳を閉じていれば、美少女と名高い妹のアメーリア嬢とそっくりだ。アメーリア嬢は人を惹き付けるアメジストの瞳をしているが、アイクの琥珀色の瞳も俺は気に入っている。

「ダンスの試験はどうしたー?」
「……」
「まぁ…いつもの事か」

 去年はアメーリア嬢がパートナーになってくれたお陰で問題なく試験を通っていたが、一年の時は何度もパートナーが変わるわダンスが苦手な令嬢に足を引っ張られ補習する事に。しかも、補習に何故か沢山の令嬢が参加していた為に、俺も借り出されて二人でかなりの相手をする事に。
 補習が終わった後のアイドクレーズの荒れっぷりが面白いと、ラズーラ殿下が笑っていたけど、当たられる俺は本当に大変だったんだ。

(今年もアメーリア嬢が確保できてたらなぁ…)

 寝ていると本当にそっくりだけど、瞳を開けると違うその容姿と雰囲気。ラズーラ殿下の前では崩れる事のない御付きとしての顔、弟妹には限りなく優しい兄としての顔。無理はしていないし楽しそうだけど、いつからその瞳に寂しそうな色が増えたのやら。

「お前ら兄妹は、自分以外をみてばかりだな」

 手を伸ばして、ふわふわの髪をわしわしと撫でていると、眉間に皺を寄せ琥珀の瞳が俺を睨みつける。白い頬を軽く膨らませるその子供っぽい癖は、滅多に見ることが無い、アイドクレーズの拗ねた顔。

「…何をしている」
「頑張り屋のおにーちゃんの頭を撫でてる」
「心配しなくても、私は今年も補習になるよ。おめでとうジャスパー令嬢とダンスできるよ。ラズ殿下は上手く逃げていたけどね」
「去年みたいに、アメーリア嬢を確保しなかったのか?」
「其の前に令嬢達に囲まれた所為で、アリアが怖気づいたんだ」
「ああー……あれなぁ」

 か弱いはずなのに、集団になると有無を言わせない迫力を思い出し苦笑を浮かべる。寝起きの琥珀色の瞳が涙で潤んでいて、俺の赤い瞳が鏡のように映る。コレで本当に女じゃないのが勿体無い気もするが、本人に言うと氷漬けにされるので、絶対に言わない。

「今日の騎士科は平和でいいな」
「こんなに静かな場所で二人ってのも、いつ以来だ」
「そんな事、記憶にないな」

(ほんのりと記憶に残る昔の話、さっきまで夢にも見ていた白いドレス)

 肩をふわりと撫でる綺麗な金色の髪、大きな瞳に蕩けそうに美味しそうな色合いの琥珀の瞳。白い肌に薄紅色の唇、着ている白いドレスは肌に合わせているのか柔らかな布で作られた物で、裾がふわりと風に揺れていた。

 冗談でなく、見惚れて動けなかった。あまりの綺麗さ可憐さに、声を掛けることも出来なかった。

「ああ、昔の女装してた頃のお前と会った時以来か」
「忘れろ、今すぐ消去しろ!」
「何でだよ、病気にならない為のしきたりだったんだろ?アメーリア嬢の記憶にねーんだから、いいじゃねーか」
「その姿の私に、プロポーズしてきた馬鹿の事もばらす」
「げ、止めて下さい、お願いしますアディ様!」
「その名前も止めろ」

 柔らかな琥珀の瞳が冷気を伴って細くなり、アイドクレーズの本気に慌てて謝るまでが、いつもの俺達のじゃれあい。こんな風に遊んでいられるのも、学園を卒業するまでの短い間。
 四つの頃に連れて行かれたマウシットの誕生日祝いの席、退屈になった俺が庭を散策していたら出逢った、白いドレスを着た綺麗なお姫様。今でも頭を抱えてしまう黒歴史だが、完全にアレは一目惚れだった。お陰でアイドクレーズには何があっても勝てる気がしない。

(ふわふわな髪の毛も、優しい琥珀の瞳も、白い頬も面影残ってるってのに)

「アメーリア嬢を見てると、思い出しちまうからなぁ。忘れるのは無理だと思うぞ?」
「そうか、なら…。馬鹿の弱みは、いつまでも忘れないよ?」
「いやいやいや、其処は忘れてください」
「なら、忘れるまで下僕にしていいって約束もそのままかな」
「もー…何でそんな約束したかなぁ、昔の俺」

 頭を抱える俺に、クスクスと笑みを零すアイドクレーズ。そんな和やかな空気がいきなり切り替わる。ダンスの試験をしているはずの、貴族科の方向。

「今日は動かないんじゃなかったか?」
「練習の時は予定通りだった、何かあったようですね」

 走り出そうとするアイドクレーズを引き止めて、軽々横抱きしにして抱えると、驚いた顔をして俺を見てくるけど、下ろせと暴れるのは、疲れるからしないのがアイドクレーズらしい。

「俺が抱えて走った方が速いの知ってるだろ?荷物みたいに抱えるか?」
「どっちもどっちだろ、後で氷漬けになって頭冷やせ」
「それ死ぬから」
 
 騎士科から貴族科はそう離れていないとはいえ、走れば疲れるし魔法詠唱もするなら体力は使えない。其れが分かっていても、遠慮の無い幼馴染みに笑って走り出した。


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