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後日談 ⑧
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「ぁ……っ、ぁぁあ……っ!」
「……っく……っ」
シャーロットが絶頂の悲鳴を上げると同時に胎内に在ったゼノンの半身が引き抜かれ、直後、腹部に生温かな感触が広がった。
「ぁ……っ、ぁ……」
「……は……っ」
ゼノンの欲の証である、白濁とした体液はシャーロットの肌を汚し、互いにしばらく呼吸を整えた後、申し訳なさそうに眉を下げたゼノンがそれを綺麗に拭ってくれる。
「……っゼノン様……っ、自分で……っ」
「汚したのはオレだ。貴女はそのまま横になっていて構わない」
慌てて身を起こそうとするものの、肩を押す軽い動作でシャーロットの身体は寝台に押し戻されてしまう。
「ですが……っ」
いつまでたっても、自分の身体をゼノンに清めて貰うという行為に慣れることはない。シャーロットのことを労ってくれているからだとわかっていても、恥ずかしくて、恥ずかしくて。
「……っ」
気遣うように触れてくる指先が肌を掠め、シャーロットはぴくん、と小さく身を震わせる。その意味を、ゼノンとてわかっているだろうに、あえて気づかないふりをされているのだと思えば、シャーロットが感じる羞恥は殊更だった。
「……綺麗だ」
「!」
互いの身体を簡単に清めた後、ゼノンは素肌を晒すシャーロットの姿を眩しげにみつめてくる。
「貴女はまるで美の女神のようだな」
「……っそのようなこと……っ、女神様に怒られます」
恥ずかしげもなく告げてくるゼノンの言葉に、シャーロットの方が羞恥で赤くなってしまうのもいつものこと。
「オレにとっては紛れもなく女神だ」
「……っ」
随分と畏れ多いことを言われている気がするが、いつでもゼノンの言葉は本気で嘘偽りはない。
「そんな貴女をこの腕に抱いて眠ることができるなど、オレはこの至福を神に感謝しなければならないな」
「っ旦……っ、ゼノン様……っ」
淡々と告げたゼノンは寝台に横になり、そのままシャーロットを腕の中に抱き込んでくる。
赤裸々なゼノンの言葉は、いつも恥ずかしくて恥ずかしくて。
「貴女は本当に可愛らしい」
額に軽いキスを落とされたシャーロットが返す言葉を失ってしまうのも、いつもの流れだった。
「おやすみ」
「……おやすみなさいませ」
毎夜、逞しい胸と腕に包まれて眠る日々。
こんな日が来るなど、少し前までの自分には考えられなかった。
しかも、ここ最近は、妊娠しやすい頃になると、ゼノンはシャーロットの胎内に己の欲望を放つことが少なくなっていた。
――『もう少しだけ貴女と二人の時間を』
シャーロットと二人きりで過ごす時間を大切にしたいのだと。そう愛おしそうな瞳を向けられたシャーロットが答えに詰まってしまったのは、少し前の出来事だ。
――それでも。
いくらその時期を見計らい、胎内に子種を注がずにいたとしても、こう毎日のように抱かれていれば。
シャーロットが離縁を申し出たあの日から約半年後。
「おめでとうございます……!」
二人の前には、歓喜の涙さえ浮かべてシャーロットの妊娠を喜ぶ主治医の姿があった。
◈◈✼◈◈┈┈┈┈◈◈✼◈◈
生まれた子供は、髪の色こそゼノンと同じ紺青色だったが、容姿はシャーロットによく似た女の子だった。
同じ年頃の子供たちに比べると小さめだが、一歳になった頃に一度熱を出したくらいで、健康そのもの、すくすくと元気に育っている。
一歳になる前に歩き出し、小さいながらもパタパタと家の中を走り回るお転婆ぶりは、幼い頃のシャーロットに似たのか、それともその運動神経からゼノンの血が色濃いのか。
どちらにしても、そんな可愛らしい我が子をゼノンが溺愛しないわけがなく、よほどのことがない限りは定時に帰ってくる夫の仕事ぶりが、シャーロットは時折心配になってしまうのだった。
「いってらっしゃいませ」
「あぁ」
毎朝の見送りのキスは、子供が生まれた後も変わらずに続いている。
――否。変わったことも。
「……と~たま~~!」
「ローゼ」
まだまだ覚束ない足取りで駆け寄ってくる愛娘――、一歳半を過ぎたローズマリーの姿に、ゼノンは心なし目元を緩め、その小さな身体を軽い動作で抱き上げる。
「いい子にしてるんだぞ?」
「ぁい……っ!」
大好きな父親の腕の中。元気に頷き返すローズマリーの姿も、もはや見慣れた光景だ。
そして、そんな微笑ましい二人の会話を幸せそうに見守るシャーロットの姿も毎朝のこと。
「では、いってくる」
そう言いつつも、ゼノンの腕の中からまだローズマリーが返される様子はない。
なぜなら。
「……はい」
小さく頷き、シャーロットはゼノンの腕に抱かれたままの我が子を見る。
目が合えば、ローズマリーは全てわかっているかのように笑顔を浮かべ。
――ちゅ……っ、と。
軽い音を立て、それぞれの頬へシャーロットとローズマリーがキスを贈る音が響いた。
「……お気をつけて」
「て~!」
愛する夫から可愛らしい我が子を受け取ったシャーロットが柔らかく微笑めば、ローズマリーは満面の笑顔でバイバイと小さな手を振った。
――この光景も、もう毎日のこと。
名残惜しげに去っていくゼノンの背中を、その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、シャーロットは腕に抱いた我が子に微笑みかける。
「お父様は、きっと今日も早く帰ってくるわね」
「ぁい!」
帰ったら、また「おかえりなさい」のキスを二人でして。
二人纏めて「今帰った」と、あの大きな腕に抱き締められるのだろう。
基本的には抱かれているよりも歩きたがりの我が子を床に下ろせば、ローズマリーはパタパタと廊下を走ってシャーロットの方へと振り返る。
「かーたま……っ!」
「はいはい」
今日はなにをして遊ぼうかと煌めく瞳に、シャーロットは幸せそうな微笑みを浮かべて歩き出す。
愛する人からの溢れるほどの愛に包まれて。そうして愛する人の子供を身籠り、その成長を見守ることのできる喜び。
これ以上の幸せがあるだろうかと、シャーロットは胸いっぱいの幸福感を噛み締める。
あの時、離縁を申し出て良かったと、今さらながらに過去を思う。
もし、あのままずっと我慢を続けていたら、今のこの幸せが訪れることはきっとなかっただろうから。
「……幸せすぎて怖いくらいです」
その呟きをゼノンが聞けば、きっとまた少しだけ驚いた顔をして、たくさん愛してくれるに違いない。
『……二人目は……、まだ少し先でいい』
そんなことを言いながら、甘く溶かされる夜は今も変わらない。
母となったシャーロットはますます魅力的だと、ゼノンは変わらず蕩けた目を向けてくる。
そしてそれは、シャーロットも同じ。日々、ゼノンへの想いは深まるばかりで褪せることはない。
「……貴方の妻になることができて幸せです」
前を歩く我が子を愛おしげに見つめながら、そんな独り言が零れ落ちた。
「……かーたま……?」
きょとん、と振り向く大きな瞳。
「……お母様は、お父様とローゼのことが大好きよ、って言ったの」
なによりも愛しい我が子に微笑んで、シャーロットは今日はどんな遊びに付き合わされるのだろうと思いながら、無意識に腹部へと手を置いていた。
――『おめでとうございます……! 旦那様に似た男の子ですよ……!』
そんな世継ぎ誕生の声にさらなる幸せが訪れるのは、また一年後のことだった。
「……っく……っ」
シャーロットが絶頂の悲鳴を上げると同時に胎内に在ったゼノンの半身が引き抜かれ、直後、腹部に生温かな感触が広がった。
「ぁ……っ、ぁ……」
「……は……っ」
ゼノンの欲の証である、白濁とした体液はシャーロットの肌を汚し、互いにしばらく呼吸を整えた後、申し訳なさそうに眉を下げたゼノンがそれを綺麗に拭ってくれる。
「……っゼノン様……っ、自分で……っ」
「汚したのはオレだ。貴女はそのまま横になっていて構わない」
慌てて身を起こそうとするものの、肩を押す軽い動作でシャーロットの身体は寝台に押し戻されてしまう。
「ですが……っ」
いつまでたっても、自分の身体をゼノンに清めて貰うという行為に慣れることはない。シャーロットのことを労ってくれているからだとわかっていても、恥ずかしくて、恥ずかしくて。
「……っ」
気遣うように触れてくる指先が肌を掠め、シャーロットはぴくん、と小さく身を震わせる。その意味を、ゼノンとてわかっているだろうに、あえて気づかないふりをされているのだと思えば、シャーロットが感じる羞恥は殊更だった。
「……綺麗だ」
「!」
互いの身体を簡単に清めた後、ゼノンは素肌を晒すシャーロットの姿を眩しげにみつめてくる。
「貴女はまるで美の女神のようだな」
「……っそのようなこと……っ、女神様に怒られます」
恥ずかしげもなく告げてくるゼノンの言葉に、シャーロットの方が羞恥で赤くなってしまうのもいつものこと。
「オレにとっては紛れもなく女神だ」
「……っ」
随分と畏れ多いことを言われている気がするが、いつでもゼノンの言葉は本気で嘘偽りはない。
「そんな貴女をこの腕に抱いて眠ることができるなど、オレはこの至福を神に感謝しなければならないな」
「っ旦……っ、ゼノン様……っ」
淡々と告げたゼノンは寝台に横になり、そのままシャーロットを腕の中に抱き込んでくる。
赤裸々なゼノンの言葉は、いつも恥ずかしくて恥ずかしくて。
「貴女は本当に可愛らしい」
額に軽いキスを落とされたシャーロットが返す言葉を失ってしまうのも、いつもの流れだった。
「おやすみ」
「……おやすみなさいませ」
毎夜、逞しい胸と腕に包まれて眠る日々。
こんな日が来るなど、少し前までの自分には考えられなかった。
しかも、ここ最近は、妊娠しやすい頃になると、ゼノンはシャーロットの胎内に己の欲望を放つことが少なくなっていた。
――『もう少しだけ貴女と二人の時間を』
シャーロットと二人きりで過ごす時間を大切にしたいのだと。そう愛おしそうな瞳を向けられたシャーロットが答えに詰まってしまったのは、少し前の出来事だ。
――それでも。
いくらその時期を見計らい、胎内に子種を注がずにいたとしても、こう毎日のように抱かれていれば。
シャーロットが離縁を申し出たあの日から約半年後。
「おめでとうございます……!」
二人の前には、歓喜の涙さえ浮かべてシャーロットの妊娠を喜ぶ主治医の姿があった。
◈◈✼◈◈┈┈┈┈◈◈✼◈◈
生まれた子供は、髪の色こそゼノンと同じ紺青色だったが、容姿はシャーロットによく似た女の子だった。
同じ年頃の子供たちに比べると小さめだが、一歳になった頃に一度熱を出したくらいで、健康そのもの、すくすくと元気に育っている。
一歳になる前に歩き出し、小さいながらもパタパタと家の中を走り回るお転婆ぶりは、幼い頃のシャーロットに似たのか、それともその運動神経からゼノンの血が色濃いのか。
どちらにしても、そんな可愛らしい我が子をゼノンが溺愛しないわけがなく、よほどのことがない限りは定時に帰ってくる夫の仕事ぶりが、シャーロットは時折心配になってしまうのだった。
「いってらっしゃいませ」
「あぁ」
毎朝の見送りのキスは、子供が生まれた後も変わらずに続いている。
――否。変わったことも。
「……と~たま~~!」
「ローゼ」
まだまだ覚束ない足取りで駆け寄ってくる愛娘――、一歳半を過ぎたローズマリーの姿に、ゼノンは心なし目元を緩め、その小さな身体を軽い動作で抱き上げる。
「いい子にしてるんだぞ?」
「ぁい……っ!」
大好きな父親の腕の中。元気に頷き返すローズマリーの姿も、もはや見慣れた光景だ。
そして、そんな微笑ましい二人の会話を幸せそうに見守るシャーロットの姿も毎朝のこと。
「では、いってくる」
そう言いつつも、ゼノンの腕の中からまだローズマリーが返される様子はない。
なぜなら。
「……はい」
小さく頷き、シャーロットはゼノンの腕に抱かれたままの我が子を見る。
目が合えば、ローズマリーは全てわかっているかのように笑顔を浮かべ。
――ちゅ……っ、と。
軽い音を立て、それぞれの頬へシャーロットとローズマリーがキスを贈る音が響いた。
「……お気をつけて」
「て~!」
愛する夫から可愛らしい我が子を受け取ったシャーロットが柔らかく微笑めば、ローズマリーは満面の笑顔でバイバイと小さな手を振った。
――この光景も、もう毎日のこと。
名残惜しげに去っていくゼノンの背中を、その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、シャーロットは腕に抱いた我が子に微笑みかける。
「お父様は、きっと今日も早く帰ってくるわね」
「ぁい!」
帰ったら、また「おかえりなさい」のキスを二人でして。
二人纏めて「今帰った」と、あの大きな腕に抱き締められるのだろう。
基本的には抱かれているよりも歩きたがりの我が子を床に下ろせば、ローズマリーはパタパタと廊下を走ってシャーロットの方へと振り返る。
「かーたま……っ!」
「はいはい」
今日はなにをして遊ぼうかと煌めく瞳に、シャーロットは幸せそうな微笑みを浮かべて歩き出す。
愛する人からの溢れるほどの愛に包まれて。そうして愛する人の子供を身籠り、その成長を見守ることのできる喜び。
これ以上の幸せがあるだろうかと、シャーロットは胸いっぱいの幸福感を噛み締める。
あの時、離縁を申し出て良かったと、今さらながらに過去を思う。
もし、あのままずっと我慢を続けていたら、今のこの幸せが訪れることはきっとなかっただろうから。
「……幸せすぎて怖いくらいです」
その呟きをゼノンが聞けば、きっとまた少しだけ驚いた顔をして、たくさん愛してくれるに違いない。
『……二人目は……、まだ少し先でいい』
そんなことを言いながら、甘く溶かされる夜は今も変わらない。
母となったシャーロットはますます魅力的だと、ゼノンは変わらず蕩けた目を向けてくる。
そしてそれは、シャーロットも同じ。日々、ゼノンへの想いは深まるばかりで褪せることはない。
「……貴方の妻になることができて幸せです」
前を歩く我が子を愛おしげに見つめながら、そんな独り言が零れ落ちた。
「……かーたま……?」
きょとん、と振り向く大きな瞳。
「……お母様は、お父様とローゼのことが大好きよ、って言ったの」
なによりも愛しい我が子に微笑んで、シャーロットは今日はどんな遊びに付き合わされるのだろうと思いながら、無意識に腹部へと手を置いていた。
――『おめでとうございます……! 旦那様に似た男の子ですよ……!』
そんな世継ぎ誕生の声にさらなる幸せが訪れるのは、また一年後のことだった。
応援ありがとうございます!
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