鬼の時

またたび

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1章 青き光

決意

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抱き締めて寝たはずの、お雪に起こされた、じいちゃんとばあちゃんは、寝ていた。
朝靄の中、まだ寝ぼけながら、手をひかれ10分程歩いた、小さな小屋が靄の中現れた。
「あたいの家だよ、汚い?まあ入って!」
この女積極的な女だなぁ~。妄想を抱きながら小屋に入った。
女性の一人暮らし、1DK、いや違う、そこそこ片付いては居るが、煤けた土間、その先の囲炉裏の板の間の奥に布団が敷いてある。
一生懸命囲炉裏の中を探して居る、「無いか」落胆して、懸命に火を着けるお雪、袂を探った。「あった!」ライターだ、杉の葉に火を着ける、小枝をお雪が、その火の上に、そっと乗せた。
「それすごいね!」嬉しそうに火と俺を交互に見つめた、こんな簡単な事、ライターで、火を着けただけ、この時代は一仕事なんだな!
「水飲むかい?」現代ならおしゃれなマグカップにコーヒーかなんか?出てくる?
甕から柄杓でひとすくい、お雪が飲んだ、その柄杓を差し出した、たかが水、口を喉をすうっと潤した、天然水、当たり前か!
何気に、お雪の手を見たくなった。そんなに大きく無い華奢な手だが、手のひらは武骨な男の様な手だった。
「あたいはおじいとおばあの野良仕事手伝って、それでなんとか生きて来たんだ」苦もない顔して話すお雪。
高校、大学、卒業して会社に入って一人暮らし一生懸命仕事して、今日まで頑張って来た。
お雪をそんな娘と重ね合わせて、手を握った。
組をぶっ潰した後、フィリピンに高飛びして、新築のマンションにメイドを雇って、優雅に一人暮らし、日本の警察とICPOに怯えながら、引きこもり同然の生活。
もしこれがタイムスリップなら人としてこの時代でお雪とじいちゃんばあちゃんと野良仕事して人生をまっとうする。都合のいい話だが、
日の当たる世の中で人として生きる、それも悪くない。しかし打算では生きられない、苛酷な時代である。迷う俺にお雪が言った。
「あんたと夫婦になって、子どもいっぱい作って」「みんなで、どんどん畑大きくして、おじいとおばあが、みんなが、幸せに暮らせたらいいな」「あんたとここで佐平の分も幸せに暮らしたい!」
大きい畑?大規模農業?土壌改良?じいちゃんは農業のプロそこに俺の知識、なんとかなるかなぁ?
お雪とここで生きてみる、俺の第二の人生、兄貴の分彼女の分、俺、精一杯この時代で生きてみる。
今決めた。
お雪を抱き締めて布団に寝転んだ。
「ガタッ」と音がして、何かが目のまえに落ちて来た。
猫だ!
「花、いたの?」抱き上げいとおしく猫を撫でるお雪。
俺は両親が死んでからペットなんて、飼った事ない。
お雪の懐から飛び出た猫が俺の膝に擦り付いてきた。
「花も、誠二が気に入ったみたい」満面の笑みで俺を見つめるお雪。
もしタイムスリップならば!
俺はこの時代で生きてみる。
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