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1巻
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ユリウスは声の音量を少し上げて、もう一度、一音ずつを区切りながら伝えた。
「ユ、ウ、リ」
「ゆ、ぅ、い」
ふっくらとした唇が、可愛らしく尖って、ユリウスの言葉を真似て、たどたどしく発音される。
その仕草が驚異的に可愛すぎて、ユリウスはその場に転がって暴れ回りたくなった。
やばい。可愛い。おかしくなるぐらい可愛い。
ユリウスは必死に理性を繋ぎ留めながら、やさしい声で問いかけた。
「僕は、ユーリ。きみの名前は?」
おのれを指さして改めて名乗り、続けて子どもを指さす。
子どもの視線はユリウスの指の動きを追って流れ、ぼんやりと静止した。
「きみの、名前は?」
重ねてゆっくりと問うと、子どもの唇が動き……何かを言おうとした唇から、コン、と咳が出た。コン、コン。乾いた咳が小さく空気を震わせる。
おっといけない、とユリウスは慌てて寝台の横の卓上から哺乳瓶を取り上げた。
水分はこまめにあげなければならないと医師から言われていたため、いついかなる時もここには飲み物が用意されているのだった。
中身はハチミツを溶かし込んだ果実水だ。
「喉が渇いてる? 今日は林檎水だよ。甘くて美味しいよ。ゆっくり起こすからね、いい?」
片手に哺乳瓶を持ったユリウスは、いつものように子どもの背を抱き起こす。自身は背後に回り込んで座ると、子どもを自分にもたれかからせて、口元へと吸い口を近づけた。
「口を開けて」
やわからな唇の端を指の腹で軽く押して、吸い口を隙間に潜り込ませると、子どもがもごりと口を動かしてそれを吸った。
こく、こく、と喉の鳴る速度が、眠っていた頃よりも速い。それが嬉しくて、ユリウスは喜びを噛み締めながら、おのれのオメガが果実水を飲む様をつぶさに見つめた。
やがて動きがにぶくなり、ふさふさの睫毛が重そうに下がってくる。
寝てしまう、とユリウスが思うと同時に、子どもの瞼が完全に閉じてしまった。
安心しきったようにユリウスに体重を預けて眠る子どもの頬に、ユリウスは神の国に召されるのではないかと思うほど満たされた気持ちで、そっとキスをした。
「またあとでお話ししようね、僕のオメガ」
その時は名前が聞けるといいなと願いながら、ユリウスは小さな体を横たえる。そして、鼻歌混じりにロンバードを呼び、自分のオメガがどれほど可愛かったか滾々と語り聞かせたのだった。
***
少しおかしいですなぁ、と言われたのは膝に抱き上げた子どもに食事をあげていた時のことだった。
一日の大半を寝て過ごす子どもは、それでもほんの少しずつ起きている時間が長くなっている。初めて目を開けた時からひと月が経過した今では、起きてユリウスと一緒に朝食を食べられるほどに回復していた。
しかし、まだ色々なことが覚束ない。食事の途中で寝てしまうこともあったし、スプーンやフォーク、皿を取り落としてしまうこともしばしばだ。
だからユリウスは子どもを膝に座らせて、その背を軽く支えながら、小さな木の匙ですくったスープや小さくちぎったパンを、親鳥よろしくせっせと口に運んでやっているのだ。
ユリウスのその過剰とも言える世話を、片眼鏡姿の侍医が眉をやさしく下げて眺めている。
ベルンハルトという名のこの医師は、現国王(つまりユリウスの父)の主治医であり、王城が抱える医師団の長だ。
好々爺然とした外見の彼がいったい何歳なのか、すでに齢百を超えているのではないか、いやいやもしや不死の医術を編み出して永遠の命を手に入れているのではないか、などという噂話は、医師団を筆頭に城のあちこちで囁かれている。
ユリウスはこの年齢不詳の侍医が好きだ。幼い頃より彼に叱られたという記憶がないし、いつも穏やかにニコニコと笑っているから、彼の周囲の空気ですらやわらかく感じる。
何よりベルンハルトは、余計な差し出口をしない。
今も、ユリウスが子どもの口に甘いミルクに浸したパンを入れてやっても、過保護ですよ、なんて注意は飛んでこなかった。
これがグレタならこうはいかない。
先日、ユリウスが今と同じように子どもを膝に抱っこして哺乳瓶で果実水を与えていたら、
「目を覚ましてるんですから、ご自分で召し上がられるでしょうに。過保護はいけませんよ」
と言われて哺乳瓶を取り上げられるという事件が勃発した。
グレタの言い分はわかる。子どもは……小さくて幼いけれど、赤子ではない。
拾った時が何歳ぐらいだっただろう、五歳? 六歳?
それから二年が経過したから(けれどこの期間この子はずっと寝ていたから勘定に入れなくていいと、ユリウスは思う)、今は七歳か八歳ぐらいか。
当然、哺乳瓶で果実水を飲ませてもらうような歳ではない。
しかし、である。
ユリウスの腕の中で、ユリウスが持つ哺乳瓶に愛らしい口で吸いついて、コクコクと喉を鳴らして飲むあの可愛い姿を眺めることがユリウスにとって至上の喜びなのだ。その時間を取り上げるなんて、いくら元乳母のグレタであっても許されることではなかった。
哺乳瓶強奪事件(大きな声で言えないが、この二年でグレタに強奪されたものは哺乳瓶以外にもたくさんある)をきっかけに、この子を甘やかしているところを見られたら邪魔をされる、とユリウスは学んだ。以降、食事の際は支度が整った段階で侍女たちを部屋から追い出し、誰も入ってこないよう厳命した上で、雛鳥を可愛がるようにおのれのオメガの世話を焼いていたのだった。
けれど今日はその真っ最中にベルンハルトのおとないがあった。
食後にしてくれと言おうとしたが、ベルンハルトも忙しい身だ。それにグレタのように口うるさくないので大丈夫だろうと判断したユリウスは、侍医の入室を許可した。
ベルンハルトはいつものようにやさしげな表情でユリウスたちを眺めていたが、子どもが口腔内のパンをこくりと嚥下したタイミングで、「少しおかしいですなぁ」と切り出してきた。
「ベンまで過保護とか言うのはやめてくれ」
ユリウスの言葉に、ベルンハルトが喉奥で笑ってゆるく首を横に振る。
「いえいえ、若君のことではございません」
侍医の「おかしい」が自分の態度でないとすると、子どものことか。
ユリウスは表情を引き締め、白髪の医師を眼差しだけで促した。
ベルンハルトが近くまで歩み寄り、ユリウスの膝の上の子どもの眼前にてのひらを翳す。
「失礼しますよ」
幾度か子どもの前で手を動かした後、胸元のポケットに入れていたペンを取り出し、前後左右にそれをゆっくりと振った。
子どもの金色の目が、ペン先の動きを追っている。
「視力? ちゃんと見えているよね、ねぇ?」
ユリウスが小さな体を揺すり上げて問いかけると、子どもがこちらを振り仰ぎ、コトンと首を傾げた。
その仕草を見て、侍医の片眼鏡の奥の瞳が細まる。
「その子はあまり、しゃべりませんなぁ」
「この国の言葉がわからないんだよ。名前もまだ聞けてない。でも僕のことはわかるよね」
ね? とやさしく問いかけると、子どもがまた首を傾げる。
ユリウスはおのれを指さして、
「僕の名前は?」
とゆっくりと発音した。
その仕草に反応した子どもが、たどたどしい口調で答える。
「ゆぅい」
瞬間、ユリウスの頬がゆるんだ。やばい。可愛い。可愛すぎる。
思わず頬ずりをしようとしたユリウスだったが、
「若君、もう一度小さな声で言ってみてください」
と侍医に言われ、怪訝な表情になった。
ベルンハルトに目をやると、頷きが返ってくる。
ユリウスは指示の通り小声で先ほどと同じ言葉を発した。
「僕の名前は?」
「……」
子どもは無反応だった。金色の双眸はユリウスへ向けられていたが、それは不思議そうにまたたくだけで、返事はなかった。
ベルンハルトが白い顎髭を撫で、ふむ、と首肯した。
「ベン?」
「若君、恐らく、この子は聴覚が弱い」
「え?」
「小さな音は拾えないんです」
ベルンハルトはそう言って、口笛を吹いた。
ピュー、とささやかな音が鳴ったが、子どもはベルンハルトの方を見ない。
次に侍医はパン! とてのひらを打ち鳴らした。乾いた音が響く。
そこでようやく子どもがハッとしたように身じろぎ、きょろきょろと顔を動かした。
「……本当だ。全然気づかなかった」
ユリウスは半ば茫然と呟いた。
耳の不調にまったく気づかなかったおのれを恥じる気持ちが湧いてくる。
「若君は、言葉のわからないこの子へ話しかける時、今のようにゆっくりと、はっきりと発音されておられた。それで気づかなかったんでしょうなぁ」
ベルンハルトがやさしい慰めをくれる。しかしすぐに表情を曇らせ、言いにくそうにしわだらけの口元を動かした。
「若君、恐らくですが……その子は視力も弱い」
「えっ?」
「見えているのは確かですが、物の形をはっきりとは捉えていないようですな」
「……そうなんだ」
ユリウスは腕の中の子どもを見下ろし、その冬の月のような瞳を覗き込んだ。
視力が弱い、と言われて、思い当たることがあった。
二年間寝たきりだった子どもは、筋力が落ちていてまだうまく歩けない。だから普段はユリウスが抱き上げて移動しているが、回復訓練はしなければならない。
そこでロンバードが足元に小さな車輪のついた馬蹄型の歩行器を持ってきてくれたのだが、子どもがそれを使って歩くと、ベッドや箪笥などあちらこちらにぶつかり、見ているユリウスが胆を冷やして途中で切り上げるのが常だった。
筋力が戻らないからうまく歩けないのだとばかり思っていたが、もしかして目が見えにくいからぶつかっていたのかもしれない。
「若君。お許しいただけるならば、詳細な検査を」
「頼む」
考える間もなくユリウスは即答した。
ふと見れば子どもはユリウスの胸にもたれて眠っていた。
唇の端についたパンの欠片を指の腹でそっと拭い、ユリウスは「大丈夫だよ」と囁く。
「きみがどんな状態でも、僕が守ってあげるからね」
アルファとしての誓いを胸の中に打ち立てて、ユリウスは可愛い可愛いオメガのこめかみにキスをした。
後日、ユリウス立ち合いの下で子どもの診察が行われた。
血液の検査をするためにまた針を血管に刺さなければならず、ユリウスは彼のオメガをずっと抱きしめていたが、当の子どもは眉一つ動かしもせずに、諾々とそれを受け入れていた。
採血のついでにバース検査も行った。
薬師の掲げた白い器に入った液体の中へ、子どもの血を数滴垂らす。
変化はすぐに起こった。透明な液体が深い藍色へと染まる。
間違いなくオメガだ。
こんな幼くして分化するのは非常に珍しい、と薬師も目を丸くしていた。
もしかすると子どもは、見た目ほど幼くはないのかもしれない、との指摘もあった。
通常は十歳頃で分化する第二性だ。過去には七歳で分化した例もあることから、ユリウスが二年前にこの子からオメガの誘惑香を感じとったというならば、その時点で七歳に達していたのかもしれない、と薬師は言った。
しかしそうであるならば、子どもの身長も体重も、同年代の平均のそれをまったく満たしていないのはどう解釈せよというのか。
痩せ細り、泥まみれで死にかけていた子どもが、しあわせに暮らしていたとは到底思えずに、ユリウスの胸はしくしくと痛んだ。
ひと通りの診察を終え、検査結果を携えたベルンハルトからユリウスに告げられた言葉は、非常に衝撃的なものであった。
「この子は、五感が総じて弱いですなぁ」
ユリウスと子ども、そしてロンバードとベルンハルトしか居ない部屋の中で、片眼鏡の侍医が重々しくそう告げた。
「五感……!」
「五感ってことは、あれですか、目と、耳と」
指折り数えようとするロンバードを制して、ベルンハルトが説明を続けた。
「視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五つですな。つまり、目が見えにくい、耳が聞こえにくい、味がわかりにくい、匂いがわかりにくい、皮膚感覚が伝わりにくい」
「最後のがよくわからないな。具体的には?」
ユリウスが問えば、ベルンハルトが淀みなく答える。
「一般的に触覚とは、皮膚で感じる刺激のことですな。たとえば私が若君の肩に触る。若君は触られたな、とわかる。これが触覚です。この子の場合、背後から腕に触れてみてもまったく反応しませんでしたなぁ。さらには、温、冷、痛などの刺激も伝わりにくいようです」
「大変じゃないか!」
ユリウスは思わず叫んでいた。
大声になったから聞こえたのだろう。子どもの目がこちらを向いた。
じっと見つめてくる、金色の瞳。
ベルンハルトによると、物の輪郭や形はわかるが、細部までは見えていないだろうとのことだ。
ユリウスの顔も、きちんとは見えていないのだろうか。
「ゆぅい」
子どもがつたない口調でユリウスの名を呼ぶ。
少し不安そうな声だ。ユリウスの動揺が伝わってしまったのか。
「なんでもないよ。大丈夫」
ユリウスは子どもを抱き上げて頬ずりをした。
可愛い可愛い、ユリウスのオメガ。
「見えなくても聞こえなくても大丈夫。僕が守るよ」
囁くユリウスの横で、ロンバードが医師へと質問を重ねている。
「味覚がないってことは味がわからないってことですか?」
「ないのではなく弱いのです。まるでわからないわけじゃないけれども、わかりにくい」
「なるほど……。つまり」
「つまり、気をつけてあげなければならないことが山ほどある、ということですなぁ、若君」
ベルンハルトが言葉の最後でこちらを向いた。
もちろん、とユリウスは頷いた。これまで以上に、この子を大切にする。
「だからと言って騎士団の仕事をしない、というのはなしですよ、ユリウス様」
ロンバードが口を挟んできた。
うるさい大男をチラと睨んで、ユリウスは鼻を鳴らした。
「そんなことはわかってる。だけど有事の際はこの子が優先だ」
キッパリと言い切ったユリウスに、ロンバードが嘆息をこぼす。
「そうならないように、見守りの目を増やしましょうかね」
「それは僕が居ない時だけにしてくれ。僕が居る時はこの子と二人でいい」
「へぇへぇ……ごほん、了解しました! 我が君!」
おざなりな返事をしようとしてユリウスの冷たい視線に気づいたロンバードは、わざとらしい敬礼の後、そのまま回れ右をして退室していった。大方グレタと今後の相談をしに行ったのだろう。ユリウス不在の間、子どもの世話は主にグレタの仕事になる。
「ベン、他に気になることは?」
ユリウスは子どもを抱いたまま、侍医へと問いかけた。
ベルンハルトはやさしげなしわを目尻に作って、首を横へ振った。
「若君の看病の甲斐あって、体調は良くなってきていますなぁ。ああ、一つだけ。その子の使っている言葉ですが……どうやら、どの国の言葉とも違う、と」
「え?」
ユリウスは怪訝に眉を寄せた。
「そのことで兄君が、話をしたいと仰せでしたよ」
兄君とベルンハルトが言うのは長兄、マリウス・エアステ・ミュラーのことだ。
ユリウスは鼻筋にしわを寄せて「う~ん」と葛藤したが、次期国王の呼びつけを断るわけにもいかない。しかも内容が、おのれのオメガに関わることなのだから。
「わかった。行ってくるよ」
ユリウスは渋々頷き、気力の補給とばかりに子どもの首筋に鼻先を埋め、やわらかで甘いオメガの匂いを吸い込んだ。
第四章 長兄マリウスとの談話
「失礼します」
挨拶とともに一礼をしたユリウスは、長兄の私室に足を踏み入れるなり、
「いらっしゃ~い」
と華やかに高い声と嫋やかな腕に包まれた。
「よく来た」
その直後、張りのある低音が響き、がっしりとした腕がユリウスをぎゅっと抱きしめてきた。
「うわっ、い、痛いっ、兄上、あ、兄上、アマル殿がつぶれてしまいますよっ」
「あら、ユーリと一緒につぶれるなら本望だわ」
「妬けることを言うな。よし、ならこうしてやろう」
「きゃあ!」
兄が抱擁の力をぎゅっと強め、歓声を上げた妻の頬に口づけをし、ついでとばかりにユリウスにもチュッとキスをしてきた。
「あら、堂々した浮気だこと」
兄嫁のアマーリエが笑いながら、今度は兄の唇にキスをする。
なぜかユリウスを抱きしめたままラブシーンを繰り広げだした二人へ、これだからここに来るのは嫌なんだよ、とユリウスは胸の中で呟きつつも、大人しくされるがままになっていた。
下手に逃れようとすると余計に構われることは、十九年の人生で学んでいる。
しばらくしたいようにさせていると、兄と兄嫁はようやく抱擁をほどいて、椅子をすすめてくれた。
長兄とユリウスは年が十七歳離れている。兄にとってユリウスは、兄弟というよりはもはや息子のような存在なのだろう。とにかくスキンシップが激しい。
おまけにサーリーク王国のアルファらしく、オメガの妻を溺愛している。
兄嫁アマーリエは女性オメガで、ユリウスが生まれた時にはすでにマリウスと婚約していたため、彼女にとってもユリウスは我が子も同然の扱いだった。
この王太子夫妻には実子が四人居たが、甥っ子姪っ子たちもユリウスによく懐いている。
今は全員学舎へ行っている時間のため、室内はいつもよりはしずかであった。
「同じ王城内で暮らしているというのに、おまえときたらなかなか寄り付かないからなぁ」
「そうですわ。いつでも遊びに来てと言っているのに。まさか私たちのことが嫌いなんじゃないでしょうね」
「そんなわけないでしょう。兄上のこともアマル殿のことも大好きですよ」
ユリウスがニッコリと微笑むと、両手を組み合わせたアマーリエがうっとりと目を細めた。
「それで兄上、話というのは」
ユリウスは改まってマリウスへ尋ねた。
「口実だ口実。拾った子どもの世話ばかりしてまったく寄り付かない弟を呼び出すための口実だ」
半眼になって兄を睨むと、マリウスはカラリと笑う。
「というのは冗談だ」
「あら、半分は本当でしょう? ユーリが来ないユーリが来ないって毎日嘆いていたじゃない」
面白がった兄嫁が少女のようにうふふと揶揄するが、王族の公的行事やら何やらで、兄とは二日に一度は必ず顔を合わせている。いったいどこに寂しがる要素があるのか謎だ。
「可愛い弟がどこの馬の骨とも知れない子どもに盗られてしまったのだ。嘆きたくもなるだろう」
「兄上。馬の骨じゃありません。僕のオメガです」
「うむ。オメガは馬の骨じゃない。国の至宝だ」
うんうんと幾度も頷きながら、マリウスは傍らの妻の肩を抱き寄せた。
「薬師から、おまえの拾った子どもは鑑別の結果、確かにオメガであったと報告を受けている。ならば王国はこれを保護する義務がある。存分に世話をするといい」
サーリーク王国では、遥か昔よりオメガとは尊ぶべきものだという、国民共通の認識がある。
それは王国を開いた祖が、たった一人のオメガを伴侶としたアルファだったからであろう。
サーリーク王国に限らず、大陸全土の比率を見ても、ベータがもっとも多く、アルファは少ない。そのアルファよりもオメガは稀少だ。
異国ではオメガを奴隷のように扱い、劣悪な環境を強いることもあると聞くが、ユリウスたちサーリーク王国のアルファたちからしてみれば考えられぬことだった。
「僕が僕のオメガの世話をするのは当然です。なので、早く戻りたいのですが」
「ははっ。おまえもアルファらしくなったな。どれ、俺もおまえのオメガを拝みに」
「ダメです。減ります。つがいになるまでは他のアルファには会わせないと決めてますから」
ユリウスがピシャリと兄を拒絶すると、マリウスとアマーリエが顔を見合わせ、二人揃ってぐふふとおかしな笑みを浮かべた。
「いいわ~。可愛いわ~。ユーリが独占欲を見せるの、尊いわ~」
「まさかおまえに威嚇される時がくるとは! 感動だな!」
頬を寄せ合って仲良く囁き合う王太子夫妻に、ユリウスはげんなりと息を吐く。
「兄上、それで話は」
「おお、そうだった。おまえが子どもを拾った時の様子を、もう一度詳しく教えてくれ」
マリウスがようやく表情を引き締め、貫禄のある王太子として口を開いた。
ようやくの本題にユリウスも真顔になり、二年前の騎士団の任務を思い出しながら、当時のことを話し始めた。
サーリーク王国の北側に広がる山々は、のこぎり山脈と呼ばれている。雲を突いて連なる稜線がのこぎりの刃ように見えるからである。
ユリウスが子どもを見つけた時……つまり、約二年前、このゼーゲ山脈の向こうから難民が流入してくるという椿事が発生していた。
山からだけではない。南の海からも人間をぎゅうぎゅうに詰め込んだ漁船が流れ着いたりもした。しかし、そのほとんどは死体であった。船内の衛生環境が悪かったことに加え、乗船していた人々の栄養状態がそもそも悪く、健康体でなかったことが原因と思われた。
この難民問題はサーリーク王国に隣接する周辺諸国でも起こっていた。
そこで各国が協力し、この難民がどこから流れてくるのかを探った。
ほどなくしてそれは、山岳地帯に位置する小国、デァモントからであることが判明した。
このデァモントは、正確には国という扱いではない。どこからか流れ着いて、山間や高地に居住地をつくり、いつの間にか住み着いていた者たちが、いつからかデァモントを名乗り始めたのだ。
デァモントの詳細については、どの国も情報は乏しい。
デァモントは国交を拒絶しており、輸出入も行わず、徹底的な鎖国を貫いているからだ。
しかし亡命者が居ないわけではない。
ごくごく稀にではあったが、デァモントから逃げてきた者が保護を求めることもあり、その者たちからの聞き取りで得た情報が、今回の難民騒動で初めて各国の間で共有された。
収集した情報を突き合わせ、分析した結果、デァモントで暮らす民の数はおよそ数十万、言語は大陸公用語、農耕と酪農を主とした非武装集団で、独自の信仰を持っている、ということがわかった。
そして山越えを果たした難民たちの証言では、今現在民たちはひどい飢餓状態を強いられ、強制労働をさせられている、ということであった。
耐え切れずに逃げ出したが途中で追っ手に殺された者も居た、命からがら集落を抜けても、山で獣に襲われ、崖を踏み外して死んだ者も居た、乗れるだけ民を乗せて出港したが途中で難破し沈んだ船もある。
多くの者が命を落したが、それよりもなお多くの民が今もまだデァモントで苦しんでいる。
どうか、誰か、彼らを解放してほしい。
飢えと、労働と、信仰から。どうか解放してほしい。
涙ながらの亡命者の言葉は、各国の首脳陣を動かすに至った。
各国はデァモントの実情を把握するため、それぞれが査察団を編成した。
サーリーク王国からは第一騎士団が派遣されることとなった。
そこに新人騎士としてユリウスも名を連ねた、というわけである。
騎士団一行は、ゼーゲ山脈の中でも、難民が通ってきたというルートを数か所特定し、各師団に別れて生存者や新たな亡命者が居ないかを探りながら移動した。
デァモントの集落が近づくにつれ、山中には放置された遺体がそこかしこで発見された。
手厚く弔うには数が多すぎた。そのため進行の足がにぶる。予定の行程には届いていなかったが、第二王子である団長の判断で、その日は山中に天幕を張り一夜を明かすこととなった。
周囲にデァモントの民が潜んでいないか、それが亡命者ならば保護を、敵対するようであれば捕縛を命じられ、他の団員とともに斥候に出たユリウスが見つけたのが、死にかけの子ども……つまり、ユリウスのオメガだった、という経緯である。
抱き上げた瞬間に感じた衝撃は、今も鮮明だ。
当時の感情を思い出して早口に語ったユリウスが、息継ぎのためにふぅとひと息を入れたタイミングで、長兄が質問を挟んできた。
「その子どもが居た場所に、他に誰も居なかったか?」
「居ません。居たら気づくでしょう」
「オメガに夢中のおまえにその余裕があったならな」
「僕になくても、ロンバードが居ましたから」
ユリウスの返事に、ふむ、とマリウスが頷く。弟可愛さに騎士団長の右腕からユリウスの側近へと『転職』させられたロンバードの能力は、長兄も認めるところである。
「おまえの話は、子どもの愛らしさについて以外はクラウスとほぼ同じだな」
目新しいことはない、と顎をさすりながらマリウスが呟いた。
結局、二年前に派遣した騎士団ができたことは、山中の遺体の埋葬のみで、生きている亡命者の保護には至らなかった。
デァモントの集落に入ることも叶わなかった。
サーリーク王国だけでなく、他の諸国もそれは同様であった。
デァモントがことさら堅牢だというわけではない。
事前の情報通り、民たちは武装していなかった。集落の周囲は大人の背丈ほどの石壁が築かれ、人の出入りが厳重に監視されてはいたが、そこに立つ見張りですら武装と呼べるほどの装備はしていなかった。相手が非戦闘員である以上、こちらも武力で押し通るわけにはいかない。
サーリーク王国騎士団や他の諸国は改めて使者を立て、代表者との対話を要求したが、それは受け入れられなかった。
以降二年にわたり幾度も説得を続けているが、デァモント側はのらりくらりと逃げ続けている。
デァモントから流れてくる難民の数は、ここしばらくは減少の一途を辿っていた。国政(国ではないが便宜上)が安定したのか、との意見もあったが、生き永らえた亡命者たちは口を揃えてこう訴えた。「あそこからは逃げられないようになっている」、と。
「理解不能ですね」
ユリウスは肩を竦め、小さく鼻を鳴らした。
「聞けば見張りは武装もしていない単なる平民とのことではないですか。我々が押し入るのが難しいからといって、内側から出てくるのは容易でしょうに」
「それができないからくりがあるんだ。デァモントの民は、信仰を盾にとられている」
「……信仰?」
「もともとデァモントは国じゃない。デァモント教という宗教団体だ」
デァモントからの亡命者は各国で保護されているが、身の安全を保障する代わりに、デァモントに関する情報を開示しなければならない。
捕虜ではなく客人扱いとなっているため、無理な聴取は行われていないが、彼らはデァモントに残された民たちを救うことができるならばと知っていることは積極的に語ってくれた。
しかし事がデァモント教内部に及ぶと、途端に口が重くなる。
教皇と呼ばれる人物を中心に教団を築き、古より月神デァモントを祀っている、という程度のことしか語らない。おのれらの味わった苦境は語れど、その根幹であるはずの教団については皆一様に口を閉ざすのだ。
「一種の洗脳だな。信仰心を利用して、生かさず殺さず、民たちを操ってるんだろう」
長兄はふむと顎をさすった。
「しかし亡命者はおのれの意思で逃げたのでしょう。ならばその洗脳とやらも解けているのではないですか」
ユリウスの指摘に、マリウスが軽く肩を竦めた。
「それがそう簡単ではないらしい。神は崇めど唯一教でない我々には想像もつかない話だがな」
妻の淹れた紅茶で唇を湿らせ、マリウスはひと息ついた。そしてユリウスの方へと身を乗り出し、低い声で切り出す。
「ここからがおまえを呼んだ本題だ」
ユリウスは背筋を伸ばし、兄を真正面から見つめた。
「デァモントの民は公用語を使う。現に、俺たちが保護した難民たちもそうだった」
「はい」
「しかし先日、他国よりとある情報が寄せられた。デァモント教団についての、貴重な証言だ」
「はい」
「教団内部のごく限られた者たちの間では、『そこでしか使われていない言語』があったようだ、と」
ユリウスは目を見開いた。
「ユーリ。おまえが拾った子どもは、どの国のものとも知れぬ言葉を話したと聞いている。恐らくは、今は使われていない古語の類いだろうと、薬師は言っていた」
マリウスがゆっくりと口を開き、一つの可能性をユリウスへと示した。
「おまえのオメガは、教団中枢の関係者かもしれんぞ」
閑章 リヒト一
「おはよう、僕のオメガ」
僕の一日は、ユーリ様のその言葉で始まる。
窓からの日射しはやわらかく白い。物をぼんやりとしか捉えられない僕の視界では、日の光とユーリ様はほとんど溶け合うかのようだ。
目を開けても僕がぼうっとしていたからだろう。ユーリ様がおでこにキスをくれた。
「お寝坊さんは誰かな」
「おぁようございます」
寝起きで舌が回らない。
そんな僕の背をゆっくり抱き起こしてくれながら、ユーリ様が今度は唇をちゅっと啄んできた。
「今日も可愛いね、リヒト」
甘い声が、じわりと耳に溶けた。
リヒト、という名前はユーリ様がつけてくれたものだ。
本当の名前がどういうものだったのか、僕は覚えていない。名前だけじゃない。僕は、ユーリ様に拾われる以前の記憶を、すっかり失くしてしまっていた。
僕は今から十二年前に、山の中で倒れていたところをユーリ様に助けてもらったらしい。
そしてなんと二年間も眠りっぱなしだったみたい。
僕の中にある一番古い記憶は、「僕のオメガ」と呼びかけてくるユーリ様の声だ。毎日声をかけていたからね、とユーリ様は言っていた。
二年間、毎日、ユーリ様の声を浴びていた僕はしあわせ者だ。
それからさらに十年。やはり毎日のように「僕のオメガ」とユーリ様に呼ばれている僕は、たぶん、この世で一番しあわせなのだと思う。
「起こすよ、いい?」
ユーリ様に問われて頷けば、膝裏に腕が差し込まれて、ベッドからひょいと持ち上げられた。
部屋の中を子どものように抱っこされて運ばれるのは、僕がうまく歩けないからだ。
僕は目があまり見えない。耳もよく聞こえない。ついでに鼻も利かないし、味もそれほどわからない。熱いとか冷たいとか痛いとか、そういう皮膚感覚にも乏しい。
どうやら生まれつき、五感が弱いみたい。
自分が『そう』だということは、ユーリ様に指摘されて初めてわかった。
それまで僕は、僕の世界が『普通』で、他の人と違うなんて思いもしなかった。みんな、僕と同じぼんやりとしたこの世界で生きているのだと思っていた。
だからユーリ様に教えてもらった時はビックリした。
ユーリ様や他の人たちの世界は、もっとくっきりとしていて、暑かったり寒かったり甘かったり辛かったり、とにかく変化に富んでいるらしい。
僕のように世界がぼやけていて、転んだり物にぶつかったり、音が遠かったり果実水とコーヒーの味の違いがわからなかったり、着替えや食事やお風呂や歩行に世話が必要だったり、そういうことは普通ではないのだと、僕はこの十年で学んだ。
ユーリ様はそんなふうには言わなかったけれど、きっと僕が普通の人と違って手がかかるから、山に捨てられてしまったのだろう。
僕は洗面所でユーリ様に手伝ってもらいながら(水が冷たすぎないか、顔がちゃんと洗えているか、歯がきちんと磨けたか、そういうところをユーリ様が見てくれる)、朝の整容を終え、寝間着からユーリ様の用意してくれた服に着替えた。
前ボタンはすべてユーリ様が留めてくれる。
僕の衣類を整えた後、最後の仕上げにと、ユーリ様は僕の首にある革の首輪をチェックする。
留め具がゆるんでいないか、皮がすれて僕の皮膚に傷ができていたりはしないか、ひと通り気が済むまで確認してから、ようやく合格が出された。
「よし、今日も完璧だ」
「ありがとうございます」
僕がお礼を言ったら、返事の代わりにキスが降ってきて、僕はまたしあわせで満たされた。
身支度が済んだら、抱っこで食堂へと運ばれる。
いつも僕が洗面所を使っている間に、焼き立てのパンやスープ、新鮮なサラダに果物、蜂蜜入りのホットミルクなどが用意されている。
僕のは物の輪郭程度しかわからないから、人の顔の区別もつかない。だから誰が食事を用意して、片づけてくれているのか、誰にお礼を言っていいのかもわからない。
そんなのは気にすることじゃないよ、とユーリ様は言ってくれる。
「人にはその人の役割というものがあって、この屋敷の者は皆、その役割を果たしているだけなんだ。彼らに礼を言うのは、彼らの主人であるこの僕の仕事だよ。だからリヒトは細かいことを気にせずに、たくさん食べて大きくなってね」
小さな子どもに言うように、ユーリ様はそう言って、僕の胸のつっかえを取り去ってくれる。
僕はその言葉に甘えて、今日もユーリ様の膝の上に座り、食事を食べさせてもらう。
「リヒト、今日のパンは干し葡萄が入ってるよ。甘くて美味しい。はい、食べて」
ユーリ様はそんなふうに僕に味を教えて、口元までひと口サイズのパンを持ってきてくれる。
僕があーんと口を開けると、ユーリ様の指と一緒にパンが入ってくる。
僕がもぐもぐしている間に、ユーリ様はスープを飲む。
僕の口からパンがなくなったタイミングで、
「今日のスープは馬鈴薯だよ。生クリーム入りでトロトロだ。あ、ちょっと待って、熱いかな」
と言ってスプーンに向かってふぅふぅと息を吹きかけてから、それを僕の口に入れてくれる。
そんなふうに食事は進み、僕がデザートの最後のひと口を食べるまで、ユーリ様の介助は続けられる。
食べることは、正直あまり好きじゃない。
匂いも味も僕にはとても遠いから、食事という行為に喜びはなかった。
けれど僕が食べるとユーリ様が喜んでくれる。
「今日はたくさん食べられたね、偉いね、リヒト」
そう、惜しみなく僕を褒めて、ぎゅっと抱きしめてくれるから、僕は毎食、頑張って食べられるだけは食べようと思うのだった。
朝食の後、ユーリ様は仕事へとお出かけになる。
ご自分ではあまり話されないけど、ユーリ様はこの国の王弟という立場で、すごくすごく身分の高い方だ。でも、「僕なんか気楽なもんだよ」とユーリ様は笑う。
僕はお会いしたことがないのだけれど、ユーリ様にはお兄さんが二人居て、その二人とは歳が離れているらしい。
僕とリヒト以上に離れてるよ、と話すユーリ様は、今は二十九歳。そこから十を引いて、僕が十九歳。
「ユ、ウ、リ」
「ゆ、ぅ、い」
ふっくらとした唇が、可愛らしく尖って、ユリウスの言葉を真似て、たどたどしく発音される。
その仕草が驚異的に可愛すぎて、ユリウスはその場に転がって暴れ回りたくなった。
やばい。可愛い。おかしくなるぐらい可愛い。
ユリウスは必死に理性を繋ぎ留めながら、やさしい声で問いかけた。
「僕は、ユーリ。きみの名前は?」
おのれを指さして改めて名乗り、続けて子どもを指さす。
子どもの視線はユリウスの指の動きを追って流れ、ぼんやりと静止した。
「きみの、名前は?」
重ねてゆっくりと問うと、子どもの唇が動き……何かを言おうとした唇から、コン、と咳が出た。コン、コン。乾いた咳が小さく空気を震わせる。
おっといけない、とユリウスは慌てて寝台の横の卓上から哺乳瓶を取り上げた。
水分はこまめにあげなければならないと医師から言われていたため、いついかなる時もここには飲み物が用意されているのだった。
中身はハチミツを溶かし込んだ果実水だ。
「喉が渇いてる? 今日は林檎水だよ。甘くて美味しいよ。ゆっくり起こすからね、いい?」
片手に哺乳瓶を持ったユリウスは、いつものように子どもの背を抱き起こす。自身は背後に回り込んで座ると、子どもを自分にもたれかからせて、口元へと吸い口を近づけた。
「口を開けて」
やわからな唇の端を指の腹で軽く押して、吸い口を隙間に潜り込ませると、子どもがもごりと口を動かしてそれを吸った。
こく、こく、と喉の鳴る速度が、眠っていた頃よりも速い。それが嬉しくて、ユリウスは喜びを噛み締めながら、おのれのオメガが果実水を飲む様をつぶさに見つめた。
やがて動きがにぶくなり、ふさふさの睫毛が重そうに下がってくる。
寝てしまう、とユリウスが思うと同時に、子どもの瞼が完全に閉じてしまった。
安心しきったようにユリウスに体重を預けて眠る子どもの頬に、ユリウスは神の国に召されるのではないかと思うほど満たされた気持ちで、そっとキスをした。
「またあとでお話ししようね、僕のオメガ」
その時は名前が聞けるといいなと願いながら、ユリウスは小さな体を横たえる。そして、鼻歌混じりにロンバードを呼び、自分のオメガがどれほど可愛かったか滾々と語り聞かせたのだった。
***
少しおかしいですなぁ、と言われたのは膝に抱き上げた子どもに食事をあげていた時のことだった。
一日の大半を寝て過ごす子どもは、それでもほんの少しずつ起きている時間が長くなっている。初めて目を開けた時からひと月が経過した今では、起きてユリウスと一緒に朝食を食べられるほどに回復していた。
しかし、まだ色々なことが覚束ない。食事の途中で寝てしまうこともあったし、スプーンやフォーク、皿を取り落としてしまうこともしばしばだ。
だからユリウスは子どもを膝に座らせて、その背を軽く支えながら、小さな木の匙ですくったスープや小さくちぎったパンを、親鳥よろしくせっせと口に運んでやっているのだ。
ユリウスのその過剰とも言える世話を、片眼鏡姿の侍医が眉をやさしく下げて眺めている。
ベルンハルトという名のこの医師は、現国王(つまりユリウスの父)の主治医であり、王城が抱える医師団の長だ。
好々爺然とした外見の彼がいったい何歳なのか、すでに齢百を超えているのではないか、いやいやもしや不死の医術を編み出して永遠の命を手に入れているのではないか、などという噂話は、医師団を筆頭に城のあちこちで囁かれている。
ユリウスはこの年齢不詳の侍医が好きだ。幼い頃より彼に叱られたという記憶がないし、いつも穏やかにニコニコと笑っているから、彼の周囲の空気ですらやわらかく感じる。
何よりベルンハルトは、余計な差し出口をしない。
今も、ユリウスが子どもの口に甘いミルクに浸したパンを入れてやっても、過保護ですよ、なんて注意は飛んでこなかった。
これがグレタならこうはいかない。
先日、ユリウスが今と同じように子どもを膝に抱っこして哺乳瓶で果実水を与えていたら、
「目を覚ましてるんですから、ご自分で召し上がられるでしょうに。過保護はいけませんよ」
と言われて哺乳瓶を取り上げられるという事件が勃発した。
グレタの言い分はわかる。子どもは……小さくて幼いけれど、赤子ではない。
拾った時が何歳ぐらいだっただろう、五歳? 六歳?
それから二年が経過したから(けれどこの期間この子はずっと寝ていたから勘定に入れなくていいと、ユリウスは思う)、今は七歳か八歳ぐらいか。
当然、哺乳瓶で果実水を飲ませてもらうような歳ではない。
しかし、である。
ユリウスの腕の中で、ユリウスが持つ哺乳瓶に愛らしい口で吸いついて、コクコクと喉を鳴らして飲むあの可愛い姿を眺めることがユリウスにとって至上の喜びなのだ。その時間を取り上げるなんて、いくら元乳母のグレタであっても許されることではなかった。
哺乳瓶強奪事件(大きな声で言えないが、この二年でグレタに強奪されたものは哺乳瓶以外にもたくさんある)をきっかけに、この子を甘やかしているところを見られたら邪魔をされる、とユリウスは学んだ。以降、食事の際は支度が整った段階で侍女たちを部屋から追い出し、誰も入ってこないよう厳命した上で、雛鳥を可愛がるようにおのれのオメガの世話を焼いていたのだった。
けれど今日はその真っ最中にベルンハルトのおとないがあった。
食後にしてくれと言おうとしたが、ベルンハルトも忙しい身だ。それにグレタのように口うるさくないので大丈夫だろうと判断したユリウスは、侍医の入室を許可した。
ベルンハルトはいつものようにやさしげな表情でユリウスたちを眺めていたが、子どもが口腔内のパンをこくりと嚥下したタイミングで、「少しおかしいですなぁ」と切り出してきた。
「ベンまで過保護とか言うのはやめてくれ」
ユリウスの言葉に、ベルンハルトが喉奥で笑ってゆるく首を横に振る。
「いえいえ、若君のことではございません」
侍医の「おかしい」が自分の態度でないとすると、子どものことか。
ユリウスは表情を引き締め、白髪の医師を眼差しだけで促した。
ベルンハルトが近くまで歩み寄り、ユリウスの膝の上の子どもの眼前にてのひらを翳す。
「失礼しますよ」
幾度か子どもの前で手を動かした後、胸元のポケットに入れていたペンを取り出し、前後左右にそれをゆっくりと振った。
子どもの金色の目が、ペン先の動きを追っている。
「視力? ちゃんと見えているよね、ねぇ?」
ユリウスが小さな体を揺すり上げて問いかけると、子どもがこちらを振り仰ぎ、コトンと首を傾げた。
その仕草を見て、侍医の片眼鏡の奥の瞳が細まる。
「その子はあまり、しゃべりませんなぁ」
「この国の言葉がわからないんだよ。名前もまだ聞けてない。でも僕のことはわかるよね」
ね? とやさしく問いかけると、子どもがまた首を傾げる。
ユリウスはおのれを指さして、
「僕の名前は?」
とゆっくりと発音した。
その仕草に反応した子どもが、たどたどしい口調で答える。
「ゆぅい」
瞬間、ユリウスの頬がゆるんだ。やばい。可愛い。可愛すぎる。
思わず頬ずりをしようとしたユリウスだったが、
「若君、もう一度小さな声で言ってみてください」
と侍医に言われ、怪訝な表情になった。
ベルンハルトに目をやると、頷きが返ってくる。
ユリウスは指示の通り小声で先ほどと同じ言葉を発した。
「僕の名前は?」
「……」
子どもは無反応だった。金色の双眸はユリウスへ向けられていたが、それは不思議そうにまたたくだけで、返事はなかった。
ベルンハルトが白い顎髭を撫で、ふむ、と首肯した。
「ベン?」
「若君、恐らく、この子は聴覚が弱い」
「え?」
「小さな音は拾えないんです」
ベルンハルトはそう言って、口笛を吹いた。
ピュー、とささやかな音が鳴ったが、子どもはベルンハルトの方を見ない。
次に侍医はパン! とてのひらを打ち鳴らした。乾いた音が響く。
そこでようやく子どもがハッとしたように身じろぎ、きょろきょろと顔を動かした。
「……本当だ。全然気づかなかった」
ユリウスは半ば茫然と呟いた。
耳の不調にまったく気づかなかったおのれを恥じる気持ちが湧いてくる。
「若君は、言葉のわからないこの子へ話しかける時、今のようにゆっくりと、はっきりと発音されておられた。それで気づかなかったんでしょうなぁ」
ベルンハルトがやさしい慰めをくれる。しかしすぐに表情を曇らせ、言いにくそうにしわだらけの口元を動かした。
「若君、恐らくですが……その子は視力も弱い」
「えっ?」
「見えているのは確かですが、物の形をはっきりとは捉えていないようですな」
「……そうなんだ」
ユリウスは腕の中の子どもを見下ろし、その冬の月のような瞳を覗き込んだ。
視力が弱い、と言われて、思い当たることがあった。
二年間寝たきりだった子どもは、筋力が落ちていてまだうまく歩けない。だから普段はユリウスが抱き上げて移動しているが、回復訓練はしなければならない。
そこでロンバードが足元に小さな車輪のついた馬蹄型の歩行器を持ってきてくれたのだが、子どもがそれを使って歩くと、ベッドや箪笥などあちらこちらにぶつかり、見ているユリウスが胆を冷やして途中で切り上げるのが常だった。
筋力が戻らないからうまく歩けないのだとばかり思っていたが、もしかして目が見えにくいからぶつかっていたのかもしれない。
「若君。お許しいただけるならば、詳細な検査を」
「頼む」
考える間もなくユリウスは即答した。
ふと見れば子どもはユリウスの胸にもたれて眠っていた。
唇の端についたパンの欠片を指の腹でそっと拭い、ユリウスは「大丈夫だよ」と囁く。
「きみがどんな状態でも、僕が守ってあげるからね」
アルファとしての誓いを胸の中に打ち立てて、ユリウスは可愛い可愛いオメガのこめかみにキスをした。
後日、ユリウス立ち合いの下で子どもの診察が行われた。
血液の検査をするためにまた針を血管に刺さなければならず、ユリウスは彼のオメガをずっと抱きしめていたが、当の子どもは眉一つ動かしもせずに、諾々とそれを受け入れていた。
採血のついでにバース検査も行った。
薬師の掲げた白い器に入った液体の中へ、子どもの血を数滴垂らす。
変化はすぐに起こった。透明な液体が深い藍色へと染まる。
間違いなくオメガだ。
こんな幼くして分化するのは非常に珍しい、と薬師も目を丸くしていた。
もしかすると子どもは、見た目ほど幼くはないのかもしれない、との指摘もあった。
通常は十歳頃で分化する第二性だ。過去には七歳で分化した例もあることから、ユリウスが二年前にこの子からオメガの誘惑香を感じとったというならば、その時点で七歳に達していたのかもしれない、と薬師は言った。
しかしそうであるならば、子どもの身長も体重も、同年代の平均のそれをまったく満たしていないのはどう解釈せよというのか。
痩せ細り、泥まみれで死にかけていた子どもが、しあわせに暮らしていたとは到底思えずに、ユリウスの胸はしくしくと痛んだ。
ひと通りの診察を終え、検査結果を携えたベルンハルトからユリウスに告げられた言葉は、非常に衝撃的なものであった。
「この子は、五感が総じて弱いですなぁ」
ユリウスと子ども、そしてロンバードとベルンハルトしか居ない部屋の中で、片眼鏡の侍医が重々しくそう告げた。
「五感……!」
「五感ってことは、あれですか、目と、耳と」
指折り数えようとするロンバードを制して、ベルンハルトが説明を続けた。
「視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五つですな。つまり、目が見えにくい、耳が聞こえにくい、味がわかりにくい、匂いがわかりにくい、皮膚感覚が伝わりにくい」
「最後のがよくわからないな。具体的には?」
ユリウスが問えば、ベルンハルトが淀みなく答える。
「一般的に触覚とは、皮膚で感じる刺激のことですな。たとえば私が若君の肩に触る。若君は触られたな、とわかる。これが触覚です。この子の場合、背後から腕に触れてみてもまったく反応しませんでしたなぁ。さらには、温、冷、痛などの刺激も伝わりにくいようです」
「大変じゃないか!」
ユリウスは思わず叫んでいた。
大声になったから聞こえたのだろう。子どもの目がこちらを向いた。
じっと見つめてくる、金色の瞳。
ベルンハルトによると、物の輪郭や形はわかるが、細部までは見えていないだろうとのことだ。
ユリウスの顔も、きちんとは見えていないのだろうか。
「ゆぅい」
子どもがつたない口調でユリウスの名を呼ぶ。
少し不安そうな声だ。ユリウスの動揺が伝わってしまったのか。
「なんでもないよ。大丈夫」
ユリウスは子どもを抱き上げて頬ずりをした。
可愛い可愛い、ユリウスのオメガ。
「見えなくても聞こえなくても大丈夫。僕が守るよ」
囁くユリウスの横で、ロンバードが医師へと質問を重ねている。
「味覚がないってことは味がわからないってことですか?」
「ないのではなく弱いのです。まるでわからないわけじゃないけれども、わかりにくい」
「なるほど……。つまり」
「つまり、気をつけてあげなければならないことが山ほどある、ということですなぁ、若君」
ベルンハルトが言葉の最後でこちらを向いた。
もちろん、とユリウスは頷いた。これまで以上に、この子を大切にする。
「だからと言って騎士団の仕事をしない、というのはなしですよ、ユリウス様」
ロンバードが口を挟んできた。
うるさい大男をチラと睨んで、ユリウスは鼻を鳴らした。
「そんなことはわかってる。だけど有事の際はこの子が優先だ」
キッパリと言い切ったユリウスに、ロンバードが嘆息をこぼす。
「そうならないように、見守りの目を増やしましょうかね」
「それは僕が居ない時だけにしてくれ。僕が居る時はこの子と二人でいい」
「へぇへぇ……ごほん、了解しました! 我が君!」
おざなりな返事をしようとしてユリウスの冷たい視線に気づいたロンバードは、わざとらしい敬礼の後、そのまま回れ右をして退室していった。大方グレタと今後の相談をしに行ったのだろう。ユリウス不在の間、子どもの世話は主にグレタの仕事になる。
「ベン、他に気になることは?」
ユリウスは子どもを抱いたまま、侍医へと問いかけた。
ベルンハルトはやさしげなしわを目尻に作って、首を横へ振った。
「若君の看病の甲斐あって、体調は良くなってきていますなぁ。ああ、一つだけ。その子の使っている言葉ですが……どうやら、どの国の言葉とも違う、と」
「え?」
ユリウスは怪訝に眉を寄せた。
「そのことで兄君が、話をしたいと仰せでしたよ」
兄君とベルンハルトが言うのは長兄、マリウス・エアステ・ミュラーのことだ。
ユリウスは鼻筋にしわを寄せて「う~ん」と葛藤したが、次期国王の呼びつけを断るわけにもいかない。しかも内容が、おのれのオメガに関わることなのだから。
「わかった。行ってくるよ」
ユリウスは渋々頷き、気力の補給とばかりに子どもの首筋に鼻先を埋め、やわらかで甘いオメガの匂いを吸い込んだ。
第四章 長兄マリウスとの談話
「失礼します」
挨拶とともに一礼をしたユリウスは、長兄の私室に足を踏み入れるなり、
「いらっしゃ~い」
と華やかに高い声と嫋やかな腕に包まれた。
「よく来た」
その直後、張りのある低音が響き、がっしりとした腕がユリウスをぎゅっと抱きしめてきた。
「うわっ、い、痛いっ、兄上、あ、兄上、アマル殿がつぶれてしまいますよっ」
「あら、ユーリと一緒につぶれるなら本望だわ」
「妬けることを言うな。よし、ならこうしてやろう」
「きゃあ!」
兄が抱擁の力をぎゅっと強め、歓声を上げた妻の頬に口づけをし、ついでとばかりにユリウスにもチュッとキスをしてきた。
「あら、堂々した浮気だこと」
兄嫁のアマーリエが笑いながら、今度は兄の唇にキスをする。
なぜかユリウスを抱きしめたままラブシーンを繰り広げだした二人へ、これだからここに来るのは嫌なんだよ、とユリウスは胸の中で呟きつつも、大人しくされるがままになっていた。
下手に逃れようとすると余計に構われることは、十九年の人生で学んでいる。
しばらくしたいようにさせていると、兄と兄嫁はようやく抱擁をほどいて、椅子をすすめてくれた。
長兄とユリウスは年が十七歳離れている。兄にとってユリウスは、兄弟というよりはもはや息子のような存在なのだろう。とにかくスキンシップが激しい。
おまけにサーリーク王国のアルファらしく、オメガの妻を溺愛している。
兄嫁アマーリエは女性オメガで、ユリウスが生まれた時にはすでにマリウスと婚約していたため、彼女にとってもユリウスは我が子も同然の扱いだった。
この王太子夫妻には実子が四人居たが、甥っ子姪っ子たちもユリウスによく懐いている。
今は全員学舎へ行っている時間のため、室内はいつもよりはしずかであった。
「同じ王城内で暮らしているというのに、おまえときたらなかなか寄り付かないからなぁ」
「そうですわ。いつでも遊びに来てと言っているのに。まさか私たちのことが嫌いなんじゃないでしょうね」
「そんなわけないでしょう。兄上のこともアマル殿のことも大好きですよ」
ユリウスがニッコリと微笑むと、両手を組み合わせたアマーリエがうっとりと目を細めた。
「それで兄上、話というのは」
ユリウスは改まってマリウスへ尋ねた。
「口実だ口実。拾った子どもの世話ばかりしてまったく寄り付かない弟を呼び出すための口実だ」
半眼になって兄を睨むと、マリウスはカラリと笑う。
「というのは冗談だ」
「あら、半分は本当でしょう? ユーリが来ないユーリが来ないって毎日嘆いていたじゃない」
面白がった兄嫁が少女のようにうふふと揶揄するが、王族の公的行事やら何やらで、兄とは二日に一度は必ず顔を合わせている。いったいどこに寂しがる要素があるのか謎だ。
「可愛い弟がどこの馬の骨とも知れない子どもに盗られてしまったのだ。嘆きたくもなるだろう」
「兄上。馬の骨じゃありません。僕のオメガです」
「うむ。オメガは馬の骨じゃない。国の至宝だ」
うんうんと幾度も頷きながら、マリウスは傍らの妻の肩を抱き寄せた。
「薬師から、おまえの拾った子どもは鑑別の結果、確かにオメガであったと報告を受けている。ならば王国はこれを保護する義務がある。存分に世話をするといい」
サーリーク王国では、遥か昔よりオメガとは尊ぶべきものだという、国民共通の認識がある。
それは王国を開いた祖が、たった一人のオメガを伴侶としたアルファだったからであろう。
サーリーク王国に限らず、大陸全土の比率を見ても、ベータがもっとも多く、アルファは少ない。そのアルファよりもオメガは稀少だ。
異国ではオメガを奴隷のように扱い、劣悪な環境を強いることもあると聞くが、ユリウスたちサーリーク王国のアルファたちからしてみれば考えられぬことだった。
「僕が僕のオメガの世話をするのは当然です。なので、早く戻りたいのですが」
「ははっ。おまえもアルファらしくなったな。どれ、俺もおまえのオメガを拝みに」
「ダメです。減ります。つがいになるまでは他のアルファには会わせないと決めてますから」
ユリウスがピシャリと兄を拒絶すると、マリウスとアマーリエが顔を見合わせ、二人揃ってぐふふとおかしな笑みを浮かべた。
「いいわ~。可愛いわ~。ユーリが独占欲を見せるの、尊いわ~」
「まさかおまえに威嚇される時がくるとは! 感動だな!」
頬を寄せ合って仲良く囁き合う王太子夫妻に、ユリウスはげんなりと息を吐く。
「兄上、それで話は」
「おお、そうだった。おまえが子どもを拾った時の様子を、もう一度詳しく教えてくれ」
マリウスがようやく表情を引き締め、貫禄のある王太子として口を開いた。
ようやくの本題にユリウスも真顔になり、二年前の騎士団の任務を思い出しながら、当時のことを話し始めた。
サーリーク王国の北側に広がる山々は、のこぎり山脈と呼ばれている。雲を突いて連なる稜線がのこぎりの刃ように見えるからである。
ユリウスが子どもを見つけた時……つまり、約二年前、このゼーゲ山脈の向こうから難民が流入してくるという椿事が発生していた。
山からだけではない。南の海からも人間をぎゅうぎゅうに詰め込んだ漁船が流れ着いたりもした。しかし、そのほとんどは死体であった。船内の衛生環境が悪かったことに加え、乗船していた人々の栄養状態がそもそも悪く、健康体でなかったことが原因と思われた。
この難民問題はサーリーク王国に隣接する周辺諸国でも起こっていた。
そこで各国が協力し、この難民がどこから流れてくるのかを探った。
ほどなくしてそれは、山岳地帯に位置する小国、デァモントからであることが判明した。
このデァモントは、正確には国という扱いではない。どこからか流れ着いて、山間や高地に居住地をつくり、いつの間にか住み着いていた者たちが、いつからかデァモントを名乗り始めたのだ。
デァモントの詳細については、どの国も情報は乏しい。
デァモントは国交を拒絶しており、輸出入も行わず、徹底的な鎖国を貫いているからだ。
しかし亡命者が居ないわけではない。
ごくごく稀にではあったが、デァモントから逃げてきた者が保護を求めることもあり、その者たちからの聞き取りで得た情報が、今回の難民騒動で初めて各国の間で共有された。
収集した情報を突き合わせ、分析した結果、デァモントで暮らす民の数はおよそ数十万、言語は大陸公用語、農耕と酪農を主とした非武装集団で、独自の信仰を持っている、ということがわかった。
そして山越えを果たした難民たちの証言では、今現在民たちはひどい飢餓状態を強いられ、強制労働をさせられている、ということであった。
耐え切れずに逃げ出したが途中で追っ手に殺された者も居た、命からがら集落を抜けても、山で獣に襲われ、崖を踏み外して死んだ者も居た、乗れるだけ民を乗せて出港したが途中で難破し沈んだ船もある。
多くの者が命を落したが、それよりもなお多くの民が今もまだデァモントで苦しんでいる。
どうか、誰か、彼らを解放してほしい。
飢えと、労働と、信仰から。どうか解放してほしい。
涙ながらの亡命者の言葉は、各国の首脳陣を動かすに至った。
各国はデァモントの実情を把握するため、それぞれが査察団を編成した。
サーリーク王国からは第一騎士団が派遣されることとなった。
そこに新人騎士としてユリウスも名を連ねた、というわけである。
騎士団一行は、ゼーゲ山脈の中でも、難民が通ってきたというルートを数か所特定し、各師団に別れて生存者や新たな亡命者が居ないかを探りながら移動した。
デァモントの集落が近づくにつれ、山中には放置された遺体がそこかしこで発見された。
手厚く弔うには数が多すぎた。そのため進行の足がにぶる。予定の行程には届いていなかったが、第二王子である団長の判断で、その日は山中に天幕を張り一夜を明かすこととなった。
周囲にデァモントの民が潜んでいないか、それが亡命者ならば保護を、敵対するようであれば捕縛を命じられ、他の団員とともに斥候に出たユリウスが見つけたのが、死にかけの子ども……つまり、ユリウスのオメガだった、という経緯である。
抱き上げた瞬間に感じた衝撃は、今も鮮明だ。
当時の感情を思い出して早口に語ったユリウスが、息継ぎのためにふぅとひと息を入れたタイミングで、長兄が質問を挟んできた。
「その子どもが居た場所に、他に誰も居なかったか?」
「居ません。居たら気づくでしょう」
「オメガに夢中のおまえにその余裕があったならな」
「僕になくても、ロンバードが居ましたから」
ユリウスの返事に、ふむ、とマリウスが頷く。弟可愛さに騎士団長の右腕からユリウスの側近へと『転職』させられたロンバードの能力は、長兄も認めるところである。
「おまえの話は、子どもの愛らしさについて以外はクラウスとほぼ同じだな」
目新しいことはない、と顎をさすりながらマリウスが呟いた。
結局、二年前に派遣した騎士団ができたことは、山中の遺体の埋葬のみで、生きている亡命者の保護には至らなかった。
デァモントの集落に入ることも叶わなかった。
サーリーク王国だけでなく、他の諸国もそれは同様であった。
デァモントがことさら堅牢だというわけではない。
事前の情報通り、民たちは武装していなかった。集落の周囲は大人の背丈ほどの石壁が築かれ、人の出入りが厳重に監視されてはいたが、そこに立つ見張りですら武装と呼べるほどの装備はしていなかった。相手が非戦闘員である以上、こちらも武力で押し通るわけにはいかない。
サーリーク王国騎士団や他の諸国は改めて使者を立て、代表者との対話を要求したが、それは受け入れられなかった。
以降二年にわたり幾度も説得を続けているが、デァモント側はのらりくらりと逃げ続けている。
デァモントから流れてくる難民の数は、ここしばらくは減少の一途を辿っていた。国政(国ではないが便宜上)が安定したのか、との意見もあったが、生き永らえた亡命者たちは口を揃えてこう訴えた。「あそこからは逃げられないようになっている」、と。
「理解不能ですね」
ユリウスは肩を竦め、小さく鼻を鳴らした。
「聞けば見張りは武装もしていない単なる平民とのことではないですか。我々が押し入るのが難しいからといって、内側から出てくるのは容易でしょうに」
「それができないからくりがあるんだ。デァモントの民は、信仰を盾にとられている」
「……信仰?」
「もともとデァモントは国じゃない。デァモント教という宗教団体だ」
デァモントからの亡命者は各国で保護されているが、身の安全を保障する代わりに、デァモントに関する情報を開示しなければならない。
捕虜ではなく客人扱いとなっているため、無理な聴取は行われていないが、彼らはデァモントに残された民たちを救うことができるならばと知っていることは積極的に語ってくれた。
しかし事がデァモント教内部に及ぶと、途端に口が重くなる。
教皇と呼ばれる人物を中心に教団を築き、古より月神デァモントを祀っている、という程度のことしか語らない。おのれらの味わった苦境は語れど、その根幹であるはずの教団については皆一様に口を閉ざすのだ。
「一種の洗脳だな。信仰心を利用して、生かさず殺さず、民たちを操ってるんだろう」
長兄はふむと顎をさすった。
「しかし亡命者はおのれの意思で逃げたのでしょう。ならばその洗脳とやらも解けているのではないですか」
ユリウスの指摘に、マリウスが軽く肩を竦めた。
「それがそう簡単ではないらしい。神は崇めど唯一教でない我々には想像もつかない話だがな」
妻の淹れた紅茶で唇を湿らせ、マリウスはひと息ついた。そしてユリウスの方へと身を乗り出し、低い声で切り出す。
「ここからがおまえを呼んだ本題だ」
ユリウスは背筋を伸ばし、兄を真正面から見つめた。
「デァモントの民は公用語を使う。現に、俺たちが保護した難民たちもそうだった」
「はい」
「しかし先日、他国よりとある情報が寄せられた。デァモント教団についての、貴重な証言だ」
「はい」
「教団内部のごく限られた者たちの間では、『そこでしか使われていない言語』があったようだ、と」
ユリウスは目を見開いた。
「ユーリ。おまえが拾った子どもは、どの国のものとも知れぬ言葉を話したと聞いている。恐らくは、今は使われていない古語の類いだろうと、薬師は言っていた」
マリウスがゆっくりと口を開き、一つの可能性をユリウスへと示した。
「おまえのオメガは、教団中枢の関係者かもしれんぞ」
閑章 リヒト一
「おはよう、僕のオメガ」
僕の一日は、ユーリ様のその言葉で始まる。
窓からの日射しはやわらかく白い。物をぼんやりとしか捉えられない僕の視界では、日の光とユーリ様はほとんど溶け合うかのようだ。
目を開けても僕がぼうっとしていたからだろう。ユーリ様がおでこにキスをくれた。
「お寝坊さんは誰かな」
「おぁようございます」
寝起きで舌が回らない。
そんな僕の背をゆっくり抱き起こしてくれながら、ユーリ様が今度は唇をちゅっと啄んできた。
「今日も可愛いね、リヒト」
甘い声が、じわりと耳に溶けた。
リヒト、という名前はユーリ様がつけてくれたものだ。
本当の名前がどういうものだったのか、僕は覚えていない。名前だけじゃない。僕は、ユーリ様に拾われる以前の記憶を、すっかり失くしてしまっていた。
僕は今から十二年前に、山の中で倒れていたところをユーリ様に助けてもらったらしい。
そしてなんと二年間も眠りっぱなしだったみたい。
僕の中にある一番古い記憶は、「僕のオメガ」と呼びかけてくるユーリ様の声だ。毎日声をかけていたからね、とユーリ様は言っていた。
二年間、毎日、ユーリ様の声を浴びていた僕はしあわせ者だ。
それからさらに十年。やはり毎日のように「僕のオメガ」とユーリ様に呼ばれている僕は、たぶん、この世で一番しあわせなのだと思う。
「起こすよ、いい?」
ユーリ様に問われて頷けば、膝裏に腕が差し込まれて、ベッドからひょいと持ち上げられた。
部屋の中を子どものように抱っこされて運ばれるのは、僕がうまく歩けないからだ。
僕は目があまり見えない。耳もよく聞こえない。ついでに鼻も利かないし、味もそれほどわからない。熱いとか冷たいとか痛いとか、そういう皮膚感覚にも乏しい。
どうやら生まれつき、五感が弱いみたい。
自分が『そう』だということは、ユーリ様に指摘されて初めてわかった。
それまで僕は、僕の世界が『普通』で、他の人と違うなんて思いもしなかった。みんな、僕と同じぼんやりとしたこの世界で生きているのだと思っていた。
だからユーリ様に教えてもらった時はビックリした。
ユーリ様や他の人たちの世界は、もっとくっきりとしていて、暑かったり寒かったり甘かったり辛かったり、とにかく変化に富んでいるらしい。
僕のように世界がぼやけていて、転んだり物にぶつかったり、音が遠かったり果実水とコーヒーの味の違いがわからなかったり、着替えや食事やお風呂や歩行に世話が必要だったり、そういうことは普通ではないのだと、僕はこの十年で学んだ。
ユーリ様はそんなふうには言わなかったけれど、きっと僕が普通の人と違って手がかかるから、山に捨てられてしまったのだろう。
僕は洗面所でユーリ様に手伝ってもらいながら(水が冷たすぎないか、顔がちゃんと洗えているか、歯がきちんと磨けたか、そういうところをユーリ様が見てくれる)、朝の整容を終え、寝間着からユーリ様の用意してくれた服に着替えた。
前ボタンはすべてユーリ様が留めてくれる。
僕の衣類を整えた後、最後の仕上げにと、ユーリ様は僕の首にある革の首輪をチェックする。
留め具がゆるんでいないか、皮がすれて僕の皮膚に傷ができていたりはしないか、ひと通り気が済むまで確認してから、ようやく合格が出された。
「よし、今日も完璧だ」
「ありがとうございます」
僕がお礼を言ったら、返事の代わりにキスが降ってきて、僕はまたしあわせで満たされた。
身支度が済んだら、抱っこで食堂へと運ばれる。
いつも僕が洗面所を使っている間に、焼き立てのパンやスープ、新鮮なサラダに果物、蜂蜜入りのホットミルクなどが用意されている。
僕のは物の輪郭程度しかわからないから、人の顔の区別もつかない。だから誰が食事を用意して、片づけてくれているのか、誰にお礼を言っていいのかもわからない。
そんなのは気にすることじゃないよ、とユーリ様は言ってくれる。
「人にはその人の役割というものがあって、この屋敷の者は皆、その役割を果たしているだけなんだ。彼らに礼を言うのは、彼らの主人であるこの僕の仕事だよ。だからリヒトは細かいことを気にせずに、たくさん食べて大きくなってね」
小さな子どもに言うように、ユーリ様はそう言って、僕の胸のつっかえを取り去ってくれる。
僕はその言葉に甘えて、今日もユーリ様の膝の上に座り、食事を食べさせてもらう。
「リヒト、今日のパンは干し葡萄が入ってるよ。甘くて美味しい。はい、食べて」
ユーリ様はそんなふうに僕に味を教えて、口元までひと口サイズのパンを持ってきてくれる。
僕があーんと口を開けると、ユーリ様の指と一緒にパンが入ってくる。
僕がもぐもぐしている間に、ユーリ様はスープを飲む。
僕の口からパンがなくなったタイミングで、
「今日のスープは馬鈴薯だよ。生クリーム入りでトロトロだ。あ、ちょっと待って、熱いかな」
と言ってスプーンに向かってふぅふぅと息を吹きかけてから、それを僕の口に入れてくれる。
そんなふうに食事は進み、僕がデザートの最後のひと口を食べるまで、ユーリ様の介助は続けられる。
食べることは、正直あまり好きじゃない。
匂いも味も僕にはとても遠いから、食事という行為に喜びはなかった。
けれど僕が食べるとユーリ様が喜んでくれる。
「今日はたくさん食べられたね、偉いね、リヒト」
そう、惜しみなく僕を褒めて、ぎゅっと抱きしめてくれるから、僕は毎食、頑張って食べられるだけは食べようと思うのだった。
朝食の後、ユーリ様は仕事へとお出かけになる。
ご自分ではあまり話されないけど、ユーリ様はこの国の王弟という立場で、すごくすごく身分の高い方だ。でも、「僕なんか気楽なもんだよ」とユーリ様は笑う。
僕はお会いしたことがないのだけれど、ユーリ様にはお兄さんが二人居て、その二人とは歳が離れているらしい。
僕とリヒト以上に離れてるよ、と話すユーリ様は、今は二十九歳。そこから十を引いて、僕が十九歳。
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