溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪

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光あれ

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 ハーゼの五感を封じる妙薬をつくるには、リゼルという植物が必要である。
 その情報を得たユリウスたち一行はまず、リゼルがあると思しきノルメル村に向かった。ノルメルは、教皇ヨハネスが信者たちに織らせた反物を保管していた場所だ。つまり、デァモント教団と関りが深い。

 デァモントからノルメルまでは馬を走らせて数時間という距離であったが、こちらには栄養不良で弱った子どもが居る。そのため、まずは子どもの様子を見ながらゆっくりと進むこととなった。

「その子どもというのが、昨夜クラウスが言っていたハーゼだな」

 ユリウスの説明に、マリウスが確認の意味で言葉を挟んでくる。
 ユリウスは「はい」と頷いた。

「呼び名がないと不便ですので、ここでは便宜上、ハーゼスと呼びますね。ちゃんとした名前はゲルトが考えてくれるでしょう」
「ハーゼスはゲルトとやらが面倒を見るのだったな。ゲルトの後見は?」
「それは私が」

 クラウスがしずかな動作で挙手をした。

「ゲルトの中に居た神はユーリのおかげで消えたようですが、ハーゼスが彼の信仰の対象とならないよう、私が監視も兼ねて後見を務めます」
「クラウスなら安心だな。ハーゼスが穏やかに過ごせるよう、こころを砕いてやれ。オメガは・・・・我が国の宝だからな・・・・・・・・・

 うんうん、と頷きながら発した国王のセリフに、エミールが目を丸くして、
「オメガ?」
 と呟いた。

「すみません。オレは皆さんのように詳細を把握しているわけではないので、確認させてください。子ども……ハーゼスが居たのはデァモント教団で、そこはリヒトがかつて暮らしていた場所、ということですよね」
「そうだ」

 エミールの質問にやさしく相槌をうつのは、当然ながら彼のつがいのクラウスだ。クラウスは隣に座るエミールの方へ椅子ごと体を向けて、簡潔に説明をする。

「リヒトはハーゼと呼ばれるデァモント教の信仰の対象だった。ハーゼという存在は輪廻転生をすると信じられており、これまでのハーゼは皆同じ銀の髪と金の瞳を持っていた。つまりハーゼスも、リヒトと似た外見をしている」
「でも、ハーゼが輪廻転生をするというのはまったくの嘘だった、というのが今回の遠征で明るみになったんです」

 ユリウスがそう付け足し、視線を眠り続けているリヒトへと流した。
 全員の目が、ユリウスにつられたかのようにリヒトへと向けられる。

「……でも、転生したわけでもないのに、なぜ都合よく同じ髪と目の色の子どもが現れるんでしょうか。銀の髪はともかく、金の瞳なんてとても珍しいのに。少なくともオレはリヒトしか知りません」
「そこにも仕掛けがある、ということですよ、エミール殿。いいですか、ハーゼスもリヒトと同じ髪と目を持っている。そして、リヒトと同じオメガだ。ここから得られる、一番可能性が高い仮定はなんでしょう」

 ユリウスの問いにエミールがまばたきをした。
 すこしの沈黙の後、彼は小さく、声を漏らした。

「……血縁関係」

 つがいの出した答えに、クラウスが満足げに頷いた。

「そのとおり」
「続きを話しますね」

 ユリウスは視線を前へと戻し、面々の顔を見渡してから、ノルメル村の話を再開した。



 ノルメル村とデァモント教団の関係が深い、ということをユリウスは、リゼルという植物の情報を入手する以前にすでに知っていた。
 というのもこの郊外の村で教皇ヨハネスの身柄を確保した際に、厩舎に馬が一頭も居なかったからだ。

 ユリウスは、エーリッヒたちにヨハネスを先に連れて本隊に合流するよう命じ、自分はロンバードと連れ立って村をひと通り捜索することにした。

 家々が木々に埋もれるようにして点在しているため、隣家ですら見える位置にはないような村だ。だが、こんな郊外にあるわりには、住居はどこもしっかりとした造りになっている。

 貧しい、という印象はなかった。
 華美ではないが、裕福な雰囲気はあった。

 ユリウスはひとつの屋敷の敷地内に、馬車が停まっているのを見た。
 そして、庭でしずかに佇む、銀髪の女の姿を。

「ハーゼ」

 ユリウスがその名を口にすると、女がハッとしたようにこちらを向いた。瞳の色は金色だった。

「誰です」

 女の誰何すいかの声を無視して、ユリウスは格子状の門扉を開けた。
 女は逃げなかった。背筋を伸ばして、こちらを見ていた。

 年の頃は……どれぐらいだろう。二十代のようにも四十代のようにも思える。痩身に白いドレスを纏っており、時折吹く風に裾が花のように揺れていた。

 似ている、とユリウスは思った。
 リヒトに、似ている。

「あなたがハーゼの母か」

 質問というよりは、確信に近い言い方になった。
 女は長い睫毛をふさりと動かして小さな微笑を浮かべただけで、はいともいいえとも答えなかった。

「不思議だこと」

 おっとりと、女が首を傾げた。

「てっきり黒髪の御方が訪ねて来られるかと思っていたら、姿かたちがまったく変わっているなんて。神様の奇跡かしら」

 神様、と口にしたその声は皮肉に満ちていた。
 ユリウスは目を眇め、女の表情を観察した。

「黒髪の御方。教皇ヨハネスか」
「教皇。ええ、ええ、そう呼ばれておりますわね。わたくしたち一族からしたら、あの御方は神ですわ。かつて月神デァモントを月へ還すまいとぎょくを奪った、大地の神そのもの」

 女の金の瞳が真っ直ぐにユリウスへと向けられた。
 つめたい眼差しだった。

 女の足先が一歩こちらへ近づく。
 ユリウスはてのひらを彼女へ向け、動きを制した。

「そのままで。あまり近づかないほうがいい」
「あら。ぶしつけに侵入してきたのはそちらなのに、このようなただの女を警戒されるのかしら」
「あなたはオメガだ。僕が乱暴を働くことは絶対にありませんが、むやみに距離を埋めることは慎んだ方がいい」

 ユリウスの忠告を、おもしろい冗談を耳にしたとでもいいたげに、女が笑い飛ばした。

 オメガなんですか? とロンバードが囁き声で確認してくる。
 ユリウスは半歩後ろに立つ側近へと軽く頷き、吐息ほどの音量で告げた。

「ヨハネスの匂いもする。おそらくはあの男のつがいだ」
 

   
 


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