溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪

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ふたつの体

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 男性体のオメガは、発情ヒート時には後孔がアルファを受け入れるための性器様となる。
 そのため、女のそこのように濡れるのだ。

 一度回路が繋がってしまえば、発情期以外でも体が快感を覚え、アルファを受け入れたいと思ったときに愛液が分泌されるようになる。

 それを知っているからユリウスは、リヒトの後ろが濡れていることに気づき、深い衝撃と感動に打ち震えそうになった。

 濡れている。
 リヒトの陰茎の奥の、秘蕾が。
 ユリウスの与えた刺激でほころび、ユリウスを待っている。

 抗いがたいほどの劣情が、下腹部から全身に広がってゆく。
 お漏らしをしたと勘違いして泣いていたリヒトが、くんと鼻を鳴らして、濡れた目にユリウスを映した。

「ゆぅりさまの、におい」

 ユリウスの匂いが強くなった、と呟いたリヒトの肩を掻き抱いて、もう一度ベッドに押し倒す。
 口づけをすると、リヒトが諾々と唇を開いた。

 舌を絡め、口の中を愛撫する。上あごの裏を舌先でくすぐってやると、リヒトの腰がひくんと跳ねた。

「ふぁ……あ、あむっ……ん、んんっ」

 キスの合間に漏れる鼻声が可愛い。
 吐息を奪いながら、無防備な体をまさぐった。

「ゆ、ゆぅりさまぁ、っあ、あ、ひゃ、んっ」

 リヒトがユリウスの体の下で、もぞもぞと両手を動かした。
 初めての射精の後だ。もうこれ以上は嫌かな、と思いながらも、リヒトの濡れた蕾に触れたいという欲望を抑え込むことが難しい。

「リヒト、リヒト、もうやめる? 僕に触られるの、嫌?」

 中断するか、と問かけつつも、手は止まらない。なめらかな太ももを撫で上げ、その足の間に向かおうとしている。

 でも、リヒトが嫌と言ったら、絶対にストップする。
 溶けそうな理性をかき集めて、ユリウスは歯を食いしばった。

 リヒトの両手が、ユリウスの肩に乗った。
 押しのけられる、と思ったが、リヒトの力はユリウスの予想とは反対側へとかかった。

 ユリウスはぎゅうっとリヒトの細い腕に抱き寄せられた。
 体格差のある細い体を押しつぶしそうになって、慌ててマットレスに肘をつき、体重を支えた。
 しかしリヒトは互いの隙間をゆるさず、ますます強くしがみついてくる。

 裸の胸同士が合わさっていた。
 硬く張った下腹部が、リヒトの足にごりっと当たる。

 咄嗟に腰を引こうとしたユリウスよりも早く、リヒトは両足までもユリウスに絡みつかせてきた。
 まさに全身でくっついてくるおのれのオメガからは、甘い匂いが立ち上っている。

「リヒト……」

 ユリウスは両腕をリヒトの背の下にもぐらせ、体重を掛けすぎないように配慮しながらも、しっかりと抱き返した。

「ゆぅりさま」

 耳元で、リヒトが囁くようにユリウスの名を呼ぶ。

「ん?」
「これで、ユーリ様と体を繋げたことになりますか?」
「え?」
「アマル様が言ってました。発情期ヒートじゃなくても、ユーリ様と身もこころも繋げていいって」

 リヒトの口から飛び出した言葉に、ほとんど消えてしまいそうだった理性がユリウスの中に戻ってきた。

 リヒトが急に体を繋げたいと言い出したのはやはりアマーリエの影響だった。
 兄嫁の無邪気な笑顔を思い浮かべ、怒るべきか感謝するべきか迷うユリウスの耳に、リヒトの言い募る声が聞こえてくる。

「僕、ユーリ様と繋がりたいです。ひとつになりたいです。でも方法がわかりません。一生懸命ユーリ様を抱きしめても、体はふたつのままです。でも、僕……」

 泣くのをこらえているのだろう。
 言葉の途中ではふはふと息を乱したリヒトが、一度こくりと喉を鳴らして。

「ユーリ様と繋がって、ユーリ様を、僕のアルファ、って呼びたいです」

 リヒトの声を聞きながら、ユリウスはたまらない気持ちになった。

 やわらかな銀の髪に頬ずりし、おのれのオメガの体温をいとおしく抱きしめる。

「リヒト。僕はずっと、きみのアルファだよ」

 そう形容できなかったときなど、リヒトと出会って以降一度もなかった。
 リヒトはユリウスのオメガで。
 ユリウスはリヒトのアルファだった。

「愛してるよ、僕のオメガ」

 ちゅ、とひたいにキスをすると、濡れた金色の瞳からぼろりと雫が転がり落ちた。

「僕も、大好きです、ユーリ様。僕、ユーリ様と繋がれますか?」
「リヒト……」
「ふたつのままじゃなくて、ひとつになりたいです」

 幼くも可愛い訴えに、ユリウスはほろりと笑った。

「リヒト、僕たちはふたりで体も別々だから、こうしてきみを抱きしめられるんだ。ひとつの体になったら抱っこできなくなるよ?」

 ひとつになる、体を繋げる、という意味をリヒトは正しく理解していない。
 まさか本当にふたつの体がひとつに溶け合うと思っているわけではないだろうが、念のためにそう伝えると、リヒトが「でも」と唇を震わせた。

「でも、アマル様が、ユーリ様と繋がっていいって」
「リヒト。それはもちろんそうなんだけど、きみはまだ……」
「ユーリ様は!」

 突然、リヒトが声を荒げた。
 ふだんよりもずっと強い声に面食らって、ユリウスは合わせていた胸を離し、リヒトの顔を見つめた。
 リヒトは涙をいっぱいに溜めた瞳でユリウスを見上げて、はふ、と息を吐いた。

「ユーリ様は、体の繋げ方を、知ってます。それを、僕に、教えてください」

 声を詰まらせながら、リヒトがまたユリウスを抱き寄せようと、両手を伸ばしてきた。
 ぎゅうっと肩にしがみついて、呼吸を乱しながら、リヒトがユリウスを呼ぶ。

「ゆぅりさま……ユーリ様、僕と繋がってください……もうひとりのオメガのひとに、するように」

 ユリウスはリヒトを撫でようとした手を空中で止めた。
 リヒトの発した、最後の言葉が耳で弾け、束の間、意味を捉え損ねた。

「……え? リヒト、いま、」
「ゆぅりさま、僕も、もうひとりのオメガのひとのように、ゆぅりさまのつがいになりたいです」

 うぇぇ、と声を上げてリヒトが泣きだした。
 よほど気を張っていたのだろうか。ユリウスの腕の中で、全身がこまかく震えている。

「ちょ、ちょっと待って」

 ユリウスはひたいに手を当て、首を横に振った。

「え? なに? なんの話? リヒト、きみ、なにか」
「あの部屋で、ユーリ様がしてること、僕にもしてください」

 ぐす、ぐす、と鼻を啜りながら、リヒトがすがりついてくる。
 ユリウスは混乱の極みに陥ったが、おのれのオメガが発するかなしみの匂いにハッと我に返ると、リヒトを横抱きにして身を起こし、ベッドに座る姿勢となった。

 泣き濡れた頬をてのひらで拭ってやり、裸の背を撫でる。
 リヒトが胸を大きく上下させて、荒い息を吐いた。

「リヒト、ちょっと確認させて」
「……ふぁい」

 不明瞭な返事をして、リヒトがまた鼻を啜る。

「僕があの部屋でしてることを知ってるって、言ったよね」
「はい」
「アマル殿から聞いたの?」
「はい」
「僕がなにをしてるって?」
「……せいてきよっきゅうを、満たす、行為をしてるって」

 ぐらり、と目が回りそうになって、ユリウスは一度瞼を閉ざした。

 あの女ぁ~僕のリヒトになんて言葉を教えてるんだ!

 いますぐに兄嫁のところへ押しかけて怒鳴りつけたくなる衝動を辛くも抑え込み、だがしかし間違ったことを告げられたわけでもないため一方的に責めることもできずに、ユリウスは悶々とした。

「う~ん……それはそうなんだけど……」

 性的欲求を『あの部屋』で発散させている、ということを指摘され、決まり悪い思いを感じながらユリウスは言葉を濁した。
 するとリヒトが真っ青になり、
「も、もうひとりのオメガのひとは、誰ですか」
 と問うてきた。

 ユリウスは慌てて首を横に振り、
「居ないよっ? そもそももうひとりのオメガってなに? 僕にリヒト以外のオメガが居るって? アマル殿が?」
 とリヒトを問いただした。

 あまりのユリウスの勢いに、リヒトが一瞬ポカンと口を開ける。
 けれどすぐに目を曇らせて、しゅんと項垂れてしまった。その頼りないうなじから、かなしみの匂いが漂ってきて、ユリウスは「もぉぉぉぉっ!」と頭を掻き回した。

 子どものように叫んだユリウスを、呆気にとられたようにリヒトが見つめてくる。
 ユリウスは足の間に座らせていたリヒトから体を離し、ベッドを降りた。

「ゆぅりさまっ!」

 泣きそうな声が追ってきて、リヒトが身を乗り出してくる。
 その動作をてのひらで制して、
「ちょっと待ってて」
 と告げてからユリウスは、サイドテーブルにある小さなひきだしから小瓶を取り出した。そこには無色透明な液体が入っている。いざというときのための、アルファの抑制剤だ。

 液体の抑制剤は、錠剤よりも即効性が高い。しかしその分副作用も強いため、以前に次兄からも諫められていたこともあり、ふだんは錠剤を服用していた。
 けれどいまは即効性重視だ。

 ユリウスは瓶の中身をひと口で呷ると、即座に水を飲んで舌に残る苦みを払った。
 それからベッドの上のリヒトに、おのれの脱ぎ捨てた寝間着の上を着せた。
 ユリウスのそれはリヒトには大きいから、膝上まで隠れる貫頭衣替わりとなる。

 戸惑うようにこちらを見つめてくるリヒトを、ユリウスはひょいと抱きあげた。

「ユーリ様……?」

 リヒトが不安そうな声音を出した。
 ユリウスは小さく嘆息し、リヒトへと告げた。

「まったく……きみがおかしな勘違いをしてるようだから、見せてあげるよ」
「……え?」
「『あの部屋』、気になってるんだろう?」

 リヒトの目が満月のように丸くなった。

 本当は見せたくない。誰も立ち入らせたくない。あそこはユリウスのための部屋だ。
 しかし、背に腹は代えられない。

 ユリウスは断腸の思いで廊下へと繋がるドアを開け、呼び鈴を鳴らした。
 これはロンバード専用の呼び鈴だ。
 ユリウスの護衛を主な業務とする彼は、月に二回の休暇の際は自宅へ戻るが、他の日はこの屋敷に泊まり込んでいるのだった。

 ロンバードはすぐに軽装で現れた。帯剣はしていない。呼び鈴の鳴らし方で緊急事態ではないことがわかっていたからだろう。
 男はリヒトを抱っこしたユリウスを見て、片方の眉をひょいと上げた。

「珍しいっすね。この時間にリヒト様が起きてるのは」

 夜中と呼ぶような時間帯ではなかったが、ふだんであれば夜の勉強の後、幾分もしないうちにリヒトは就寝している。

「リヒト様絡みならせがれも呼びましょうか?」

 ロンバードの質問に、ユリウスは軽くリヒトを流し見て、それから「そうだな」と頷いた。

「証人は多い方がいいか」
 ひとりごちたユリウスの言葉に、リヒトが首を傾げる。

「証人って、なんですか?」

 おのれのオメガに尋ねられ、ユリウスは鼻すじにしわを作って、複雑な笑みを浮かべた。

「僕のオメガはすぐに寝ぼけて、あれは夢かしらって思っちゃうからね。ちゃんと現実だってわかってもらうための証人だよ。ほら、リヒト、行くよ」

 ユリウスはリヒトを抱いたまま廊下を歩き、『あの部屋』の前に立った。

 ロンバードに呼ばれたテオバルドが、バタバタと走ってくる。相変わらず騒がしい動きだ。
 ユリウスは彼が追い付くのを待って、ドアノブの下を弄った。

 この扉に鍵穴はなかったが、ちょっとした細工が施されてあり、決まった手順でノブ下のボタンを動かすと開錠される仕組みになっている。

 カチャリ。
 ささやかな音が響いた。

 それに合わせて、腕の中のリヒトがこくりと唾を飲み込んだ……。
  


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