主人公補整とご都合主義

BAKUFU

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デジャヴ

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最近、奇妙なことが度々起こる。

それは、何かの光景を見たときに実際は一度も体験したことがないのに、見たことが有るかのように錯覚する現象。

そう、世間一般では既視感デジャヴと呼ばれているアレが、最近何かと起こるのである。

数日に一回、どころの話ではない。

それが酷い時には1日に数十回と起こるので、流石にそこまで行くと、奇妙という感情を通り越して恐怖を感じてしまう。

まるで、丸々同じ1日を繰り返しているかのように思えてしまうからだ。

そこで高校2年生の僕は友人達にこの話をするのだが、皆本気にせず、笑い飛ばすばかりであった。

しかし、それでも僕は多少気が紛れ、心なしか救われた気持ちになったいたのだった。

なぜこのようなことになったのか、冷静に心当たりを探ってみるが、どうもしっくり思いあたるものがない。

そういえば、この現象が起こるようになってから、詳しく言えば三ヶ月前から、僕は一度も夢を見ていないような。

それがこの現象に関連しているかどうかは分からないが、一つの手がかりとしては申し分ないだろう。

そうだな、例えば僕が寝ている間に、夢の代わりに明日1日分の予知夢を見ていたとしたら。

だとしたら今の状態ではまるで意味がないじゃないか。

例え予知していたとしてもそれを忘れ、実際にそれが起こった時に漸く思い出すだなんて。

ほとんど無能力と同じじゃないか。

「おい田中、大丈夫かー」

遠くから声が聞こえてくる、その声により僕の視界は一気に光に包まれる。
声の主は僕の学校の教師で呆れるような目で僕を見ていた。

どうやら思い詰めるあまり、寝てしまっていたらしい。

「この問題解けるか?」

勿論無理である。
例え今のように寝起きでいきなりの無茶振りでなかったとしても、僕の頭の出来はお世辞にも良いとは言えず、黒板に暗号のようにずらずら書かれた数式を解くことは叶わなかっただろう。

「…えーっと、13?」

いつものように適当に答えた。

「…嘘だろ…正解だ…」

先生は驚いた表情で僕を見ている。

どうやらまぐれで当たったらしい。
ラッキーだな。

……はっ!

まただ、この感覚、この既視感デジャヴ

僕はこの光景を知っている。

…そうだ、もう一つ共通していることがあった。

既視感デジャヴが起こる時の条件。

それは、決まって何か良いことがあった時。




ー放課後になった。

あの後も既視感デジャヴは何度か起こったたが、いずれも女子のパンチラを目撃した、購買でカツサンドを買えた、席替えで好きな女子の隣になった、等と僕にとってラッキーなことがあった時だけだった。

騒がしかった校舎からは人が消え、静まりかえった下駄箱から僕の靴を取る。

僕の友達にまともに部活をやっている奴はいないので、部活動に熱心な僕はいつも遅く一人で帰ることになる。

「うーん…」

何やら、ガラス戸の前で唸っている女子がいた。

僕の好きな人、美人局麗華つつもたせれいかその人だった。

これは話しかける絶好のチャンスだ。

「よお、どうしたんだ?美人局」

「あ!田中、これどうすればいいかなー?」

どうやら扉の錠が閉まっていて、外に出れなくて困っているらしい。

ふふ、それなら助けになれそうだ。

「鍵開けちゃっていいかなー?」

「待て待てそれはまずい。…こっちだ」

「ん?」

僕は美人局を左端の扉に誘導する。

「この扉はマジックドアになっていて…」

「なにそれ?」

「まあ見とけ」

ガチャ

僕は躊躇わずにドアの錠を解除する。

「え?開けちゃまずいんじゃ…」

「まあまあ」

僕は紳士らしく彼女を先に外に出すと、そのまま扉を閉めた。

ガチャ

するとドアの錠は自動的に閉まった。

「ほら」

「ほんとだ!今まで知らなかった」

僕はその言葉を受けて自慢げに彼女の方に向き直った。

「どうだ?すげえだろ?このドアのことを知ってるのはこの僕を除いて限られた生徒しかいないんだぜ?」

「いや、そこまでドヤらなくても……ところで田中って帰り電車?」

「ん?電車だけどお前は?」

「じゃあ帰り道一緒じゃん。ねね、一緒に帰ろ?」

「お、おう」


これもまた、既視感デジャヴだった。





ーなんだろうか、いきなり好きなひとと一緒に帰れる。

嬉しい、たしかに嬉しいのだがそれ以上に非常に気まずい。

帰路についてから5分間ほどはちらほらと会話があった。

しかしそれからというものお互い一言も言葉を交わしていない、依然無言のままである。

気まずいのは彼女も同じようで何やらもじもじとしている。

うむ、この状況、なんとかせねば…。

僕は信号待ちの時間を活用して彼女との話題を必死に考える。

ゲーム、アニメ、漫画、全部ダメだ。
女子との会話なんて一体どんなことを話せばいいんだ。

ピッ
歩行者用の信号は明滅し、危険を知らせる赤い光を放つのをやめ、安全を知らせる淡い緑の色へと残酷にもその姿を変えた。

その変化に流されるままに仕方なく歩みを進める。

…!?

それと同時に激しい違和感を感じた。

この感じ、既視感デジャヴだ!
しかも今までにないほど強烈だ!

なぜだ?今はハッピーどころか不幸な目に合っているというのに。

そしてもう一つ、信じられないことが起きていた。

「なんだ?これ?頭の中に…」

「ん?どうしたの田中」

頭の中に鮮明な映像が浮かんでくる。

信号が青になり、横断歩道を渡る男女。
僕たちだ…。

横から猛スピードで突っ込んでくるトラック。

そして、男女は、僕たちはそのまま撥ねられて…死ぬ。

「は…まずい!!」

「きゃあ!!」

気づいた時には遅かった。
眼前にはもう巨大な鉄の塊が迫っていたのだから。

せめて、美人局だけでも!!

僕は精一杯彼女を突き飛ばそうとした。

しかし、現実はそう上手くはいかない。

そのまま僕たちは、猛スピードで迫り来る巨大な暴力の権化の猛威を直に浴びて、人間の原型も保てないほどに、ぐしゃぐしゃにひしゃげて、飛び散って、無惨に死んでいった


……筈だったんだ。


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