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序章
青き瞳
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しかし、一人の騎士として、国の姫君が供も連れずに出歩くなど、許して良いとは思えない。
「城にいるだけではわからないままだわ。」
フィーネはため息をついた。
「皆が良くしてくれるのは感謝しているよ。でも甘やかされるのは嫌。ここに来るといろんなことを思うの。だから。」
不思議な方だとバリスは思った。
なぜこうも真っ直ぐな眼差しを持っていられるのか。
王の娘。次の王となる者。
王宮という箱の中で、重圧に押し潰されることも、もてはやされて虚栄心の高い人物になることも、十分過ぎるほど考えられるのに。好ましい男性の話なども聞いたことはなく、浮き足立つようなこともない。人を外見で判断したりもしない。フィーネに仕えて以来、その真っ直ぐさに、温かさに、凛とした振舞いを感じるほどに心が惹かれているのを感じていた。
秘めた恋。そう表現すれば、言葉の響きは甘美だが、そこには恋だけではない、いろいろな感情もまたそこにある気がして、バリスの心を悩ませた。
「バリス?」
こちらを振り替えるその姿は、十八歳の少女のそれなのに、不思議な魅力があって、バリスはいつも敵わないと思ってしまう。なぜこんなにも、動作の一つ一つでさえも愛しく眩しく映るのか。バリスは顔には出さず、この想いを、密かに胸にしまいこむのであった。
「それでもお一人では危険でしょう。少しは自覚を持ってください。」
「じゃあ、バリスと一緒ならいいの?」
ぱっと明るく笑いこちらを見る瞳は、まるで子供のようだ。
「仰ることはわかりました。もう城へ戻りましょう。皆が探しています。」
「そうだね。帰ろう。」
フィーネは笑い、再び馬の背に股がった。そして言った。
「あのね。私、知りたいの。あの河の向こうを。」
「河の向こう、ですか。」
二人は赤銅色を見つめる。
「皆は不思議に思うかもしれない。怖いかもしれない。知る必要はないと言うかもしれない。
けれど、何も知らないままで怯えたり、嫌いになるのは、きっと何かが違う。それだけで終わらせてしまいたくないの。相手を知ることができたなら、きっと素敵なことがたくさん増えると思うから。」
あぁ、この方は本当に眩しいくらいだ。希望に色があるなら、この方の瞳の色のように、深い青の色なのかもしれない。
「城にいるだけではわからないままだわ。」
フィーネはため息をついた。
「皆が良くしてくれるのは感謝しているよ。でも甘やかされるのは嫌。ここに来るといろんなことを思うの。だから。」
不思議な方だとバリスは思った。
なぜこうも真っ直ぐな眼差しを持っていられるのか。
王の娘。次の王となる者。
王宮という箱の中で、重圧に押し潰されることも、もてはやされて虚栄心の高い人物になることも、十分過ぎるほど考えられるのに。好ましい男性の話なども聞いたことはなく、浮き足立つようなこともない。人を外見で判断したりもしない。フィーネに仕えて以来、その真っ直ぐさに、温かさに、凛とした振舞いを感じるほどに心が惹かれているのを感じていた。
秘めた恋。そう表現すれば、言葉の響きは甘美だが、そこには恋だけではない、いろいろな感情もまたそこにある気がして、バリスの心を悩ませた。
「バリス?」
こちらを振り替えるその姿は、十八歳の少女のそれなのに、不思議な魅力があって、バリスはいつも敵わないと思ってしまう。なぜこんなにも、動作の一つ一つでさえも愛しく眩しく映るのか。バリスは顔には出さず、この想いを、密かに胸にしまいこむのであった。
「それでもお一人では危険でしょう。少しは自覚を持ってください。」
「じゃあ、バリスと一緒ならいいの?」
ぱっと明るく笑いこちらを見る瞳は、まるで子供のようだ。
「仰ることはわかりました。もう城へ戻りましょう。皆が探しています。」
「そうだね。帰ろう。」
フィーネは笑い、再び馬の背に股がった。そして言った。
「あのね。私、知りたいの。あの河の向こうを。」
「河の向こう、ですか。」
二人は赤銅色を見つめる。
「皆は不思議に思うかもしれない。怖いかもしれない。知る必要はないと言うかもしれない。
けれど、何も知らないままで怯えたり、嫌いになるのは、きっと何かが違う。それだけで終わらせてしまいたくないの。相手を知ることができたなら、きっと素敵なことがたくさん増えると思うから。」
あぁ、この方は本当に眩しいくらいだ。希望に色があるなら、この方の瞳の色のように、深い青の色なのかもしれない。
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