転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして

古森きり

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新しいキミへ

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「ピィー……」
「あれ」

 後ろから聞こえてきた鳴き声に思わず振り返る。
 するとトテトテとウリボアが邪泉のあった場所に駆け寄っていく。

「ピィー、ピィー」

 地面を前足で掘る動作。
 仲間を探しているのか。
 心苦しくはなるが、致し方ない。

(始末して——)

 手を伸ばす。
 しかしこちらに気づいたウリボアは、なぜか「仲間いた!」と言わんばかりのキラキラした瞳で駆け寄ってきた。

「プピー」
「えぇ、いやいや、ボクはお前の家族を屠った張本人……」
「プピー、ピー」
「…………っ」

 ごろん。もだもだ。
 ころんと転がり腹を見せ、短い手足をぴーん、とさせたり上下に動かしたり。

(忌々しいけどかわいい)

 手を添えて起き上がらせる。
 成長は止められないだろうが、魔物も使い魔にすれば役に立つ。

「仕方ないな、キミをボクの使い魔にしてあげる。めいを与える、汝、今をもって『ペッシ』と名乗れ。アーファリーズ・エーヴェルインの使い魔となり、我が力の一片を貸し与えよう」
「プピー!」

 立ち上がり、嬉しそうにするウリボア改めペッシ。
 愚かで愛らしい魔物だ、と頭を撫でた。
 ピンク色の鼻をフゴフゴ動かして、全力で小さな尻尾を振る。

「よろしくね。お前には柵の周りを任せるよ。女子寮と柵の間には校庭があるから、大丈夫だとは思うけどね」
「プピー」

 変質者などが現れると噂を聞いたことがあるのだ。
 王立学園時代から、女子寮の生徒には全裸の男がつきまとうとかなんとか。
 リズは全然遭遇したことがないのだが、他の生徒……年頃の女の子たちは「昨日も出た」と話していた。
 一応結界を張って捕まえようと試みたこともあるが、そういう奴は謎の嗅覚が発達していて結界の中では脱がなくなったらしい。
 それはそれとして感謝されたが、今度は校舎の近くに出没するようになり、リズが卒業する少し前に校舎にまで侵入されたと聞いた。
 その後どうなっているのかはわからないが、そういうろくでもない変質者が出る地域なので気をつけるに越したことはないだろう。
 しかし、その変質者、捕まったという話も聞かない。
 今もどこかに身を隠して、普通に生活していると思うと純粋に殴り飛ばしたくなる気持ち悪さがある。
 まだ王都にいたりするのだろうか。

「さて、帰るか」

 申し訳ないなぁ、と思いつつ、実家で積もり積もった話を止めどなく垂れ流すマルレーネを回収して王都、『勇者特科』に帰る。
 日は傾き、空は夕暮れ。

「管理人さん、ありがとう」
「これからは好きな時にいつでも帰るといいよ。でも、誤解してたユスト家の人たちにはちゃんと謝るんだよ」
「あ……、……は、はぁい」

 表情が、戻った。
 きっとこれが、マルレーネという少女の本来の姿なのだろう。
 初めて会った時の、あの無気力な姿と同じ人物とは思えない。

「ワタシ、ひどい誤解をしてたんですね。ユスト侯爵家の人たちは、ワタシを金で買ったひどい貴族なのだと思っていました」
「仕方ないよ、君の記憶は古いままだったんだから。でも、視野は広いほうがいい。もっといろんなものを見聞きしようとしなさい」
「えぇ、そうですね。管理人さんの言う通りだと思う。だからワタシも冒険者登録、してみたいと思います! 今度行く時は連れてってください」
「仕方ないなー。いいよー」

 今回の『邪泉』の件は、報告しないわけにいかない。
 太陽の玉座サン・グ・ディロネのリーダー、ストルスに全部丸投げしていたのに、突然「追跡の件はお前に任せたい。追加料金は払う」と連絡が来た。
 グランドドラゴンが出たから、と。

(グランドドラゴンか……)

 ドラゴン種の中でも最上位級の強さ、大きさを誇る。
 そんなもの、国の騎士団総出で対応しなければならない災害。
 しかしそれでも足りずに、実践経験豊富な冒険者クランに手当たり次第声がかけられたらしい。

(ストルスは「数日の攻防で弱っているらしいから」と言っていたけれど……知らなかった。気づかなかったな……)

 もしかしたら、調査依頼に騎士団が動かなかったのは動かなかったのではなく動けなかったのかもしれない、と空を見上げる。
 場所までは聞いていないが、「必要ならボクも行くよ」とは伝えた。
 これでも一応、冒険者登録はしているのだから。
 国の危機ならば動くとも。

「管理人さん?」
「いや、他の子たちもそう思ってくれるといいな、と」

 勇者候補たちが冒険者登録すれば、冒険者ギルドも声をかけやすい。
 今回騎士団が勇者候補たちに援助要請しなかった理由は、なんなのだろう?
 国を滅ぼしかねない難敵ならば、勇者候補たちを前に出すべきのはずなのに。
 未熟だとは思うが、侵入してきたリズが管理権を得ようとアクセスした際は異常を感知して駆けつける程度の能力はある。
 足手まといにはならないだろう。
 魔王復活の兆しが強まった今、なおさら勇者候補たちには実践経験を積ませたい。

「そうね、お金も稼げるんだものね。ワタシ、お金稼いで自分でも孤児院を支援したい」
「目標があるのはいいことだと思うよ」
「そういえば管理人さん、肩に乗ってるウリボアはなに?」
「使い魔にした」
「へぇ……カウンターにいる黒猫もそうなのよね。でも、ウリボア……かわいい……」
「プピー」

 頭を指先で撫でるマルレーネ。
 リズはベルの方がかわいいと思うのだが、マルレーネはペッシの方が趣味なのだろうか。
 微妙にかわいいの感覚が違うのかもしれない。
 逆に考えると、マルレーネの感覚ならヘルベルトもアリ、ということに……?

「すぐ大きくなると思うけどね」
「美味しそう……」
「プピ!?」
「…………」

 アリ、ということになるのだろうか……?
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