45 / 51
決戦場は卒業パーティー!【前編】
しおりを挟むそれからは不慣れで怒涛の日々。
時間もないからとなかなかの無茶振りもあった。
ダンスやマナー、所作は[複写]である程度ごまかすとしても、履き慣れないヒールの靴は要練習。
そんなこんなを乗り越えて、ついに『雷の季節』『烈火の週』『花弁の日』はやって来た。
『勇者特科』の施設がある場所から徒歩五分。
『勇者特科』施設の五倍はある広大な敷地に、本校舎と運動施設、さらに多目的ホールが二つもある。
多目的ホールは主に貴族の夜会会場として用いられ、特に入学と卒業の際は並んだ二つの建物の間の渡り廊下も開放して、両方の建物を使った大々的なパーティーが行われた。
もちろんそれほどの規模だ、パーティーに参加するのは生徒だけではない。
生徒の親や、城の重役が将来性の高い生徒をスカウトに来たりしている。
まさしく社交の場、というわけだ。
「おい、聞いたか? 今日はあの『勇者特科』の生徒も来るらしいぞ」
「らしいな……ゼジル殿下が呼んだんだろ? ったく、余計なことをしてくれるよな」
「勇者なんて時代遅れなもん、とっととなくしゃあいいのに」
「そうもいかんのだろう。『勇者特科』の学園併設は他国との決まりごとというじゃないか」
「『再び世界に脅威が訪れた時に、素早く勇者が対応できるように勇者特科を必ず併設し、勇者候補の育成、および勇者覚醒を目指す』……だったか? 今考えると馬鹿馬鹿しいよな」
そんなヒソヒソ話が耳に入る。
実に耳障りと思うが、それが現代の『勇者特科』への認識。
仕方がない。
機関が構築されたのは、魔王封印がなされてから数年後という。
当時はまだ魔王の脅威が色濃く残っていた。
だからこそ、縋る対象が欲しかったのだろう。
それを悪しきこととは思わない。
ただ、それが長く続きすぎて腐ってしまっただけ。
会場に入る前から奇異の目と、オブラートに包まれた疎む声。
萎縮したモナとマルレーネは俯いてしまう。
「顔をお上げなさい、モナ。マルレーネ、あなたはユスト家の令嬢でしょう? それでは家に迷惑がかかりますわよ」
「っ」
五重のレースと薔薇の刺繍が施された、ド派手な真紅の肩出しドレス。
それを見事に着こなしておられるのは、ケイアー公爵家のエリザベート嬢である。
バサッとドレスと同じ赤い扇を広げると、むしろここからが自分の得意戦場であると言わんばかりに微笑む。
おそらくリズでさえ、この戦場で彼女に勝てるところはない。
「よろしくて? 絶対に俯かない。あなたたちが果たすべきはそれだけですわ。あとはわたくしが引き受けるので安心なさい」
頼もしすぎではなかろうか。
ロベルトじゃなくても「カッコいい~」と言いたくなる。
「よろしいですか?」
「ええ」
会場入り口にいた使用人の問いかけに、エリザベートが優雅に頷く。
すると使用人は招待状の名前を改めて確認後、会場ホール内へ高らかに来客の入場を告げる。
「勇者特科より、ヘルベルト・ツィーエ侯爵令息! ロベルト・ミュラー伯爵令息! フリードリヒ・フォンカー騎士爵子息! 同じく勇者特科より、エリザベート・ケイアー公爵令嬢! マルレーネ・ユスト侯爵令嬢! モナ・クラウゼ嬢! アーファリーズ・エーヴェルイン伯爵令嬢!」
ざわ、と一瞬ざわめく会場内。
会場内にいた者たちのその目は、どちらかというと驚きの方が強い。
(ははーん……さては学園卒業予定者たち、勇者特科にいる【勇者候補】たちの家までは知らなかったな?)
今代のこの国の【勇者候補】たちは、意外や意外、高位貴族が大変多い。
特にエリザベートはこの国の宰相の娘。
扇子を広げ、腰に手を当て、口元には赤い紅。
さらにこの流行も吹き飛ばすような全身真紅のド派手なドレス……これはもう彼女にしか着こなせないと一目でわかる。
戦場で戦う泥臭い彼女の姿しか知らないリズたちも、ちょっと呆気に取られた。
おそらく最初から彼女のパーティーでの姿も知るロベルトとヘルベルトは、さして驚いている様子はないけれど。
いや、よく見れば令嬢たちの目はロベルトとヘルベルトに集中している。
(なるほどなるほど、確かにね)
ロベルトがエリザベートと再婚約した話は、勇者特科内の出来事。
勇者特科に入った者は基本的に貴族の社交会からは、消えたものも同然。
つまり、知られていないのだ。
そうなるとロベルトは最古の貴族の血筋——ミュラー伯爵家の一人息子となる。
エリザベートの話から、ミュラー伯爵家の権威と信頼度の高さは、王家のお墨付き。
しかもこの容姿。
穏やかで優しい紳士然とした立居振る舞いと、浮かべた柔らかな微笑み。
……まあ、これは気合い入りまくりのエリザベートの姿を「かわいいなぁ」「そしてかっこいいなぁ」「いや、やっぱり美しいかなぁ」と、つまり見惚れて惚気ている微笑みなんだが……。
わかるのは勇者特科の者だけだろう。
そしてヘルベルトだ。
マルレーネと同じツィーエ侯爵家の次男。
元々は兄や優秀な弟への劣等感も手伝って、勇者特科に入ったことをひどくやるせない気持ちで過ごしてきた彼だが、一皮剥けたあとは完全になにか吹っ切れたようなさっぱりした顔立ちになっている。
つまり、まあ格好いいのだ。
マルレーネに対しては相変わらず目を合わせられないほどドギマギしているのだが、本日のマルレーネはエリザベートの気合が入りまくった黄色いドレスにより、ヘルベルトが直視もままならないほどかわいらしい。
マルレーネを直視できないヘタレ野郎ではあるものの、直視できないからこそ目を背けている間は完璧な生真面目堅物貴族の紳士然とした姿だ。
しかもヘルベルトは元大剣使いとして身長も高く、今は体全体をバネのように使う闘士の訓練も行なっているため、一目で屈強とわかる体躯になっている。
見回すと会場内でここまでデカいのはヘルベルトぐらい。
0
あなたにおすすめの小説
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる