モンスター食堂のギルドマスター

古森きり

文字の大きさ
5 / 22

異世界落下中

しおりを挟む



「わ、うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

落ちていた。
本当に落ちていた。
ジャンプして穴に飛び込んだら、本当に現在進行形で落下している。
一体地上から何千メートルなんだろうか。
バチバチとした黒い雲の中を、すごい速度で落ちている。
寒いような、痛いような。
これは普通死んでるやつではないか?

「な、んだあの、蔓!」

黒い空。
雷が所々で起きていて、忠直が落ちている空もそうだった。
そんな黒い雲を通り抜けると、真下に空へ一直線に伸びる蔓が立っているのが見える。
それは、あまりにも大きい。

「っ、ショコラ、大丈夫か⁉︎ ちゃんとくっついてるな⁉︎」
「きゃうぅ~!」
「よし、絶対離れるなよ! ……っ……」

ここから見えるだけでも四本の木にさえ見える絡み合った極太の蔓。
青々とした緑色のそれはそれぞれ空へ向かって伸び、その先端は雷雲に届くか届かないか。
なんだ、あれは。
まるで蔓が空を突いて雷雲を起こしているかのようだ。
忠直が落ちる先にも……他よりは小さいがその巨大蔓がある。
そして、間もなくその先端に到達するだろう。
見れば下は森、森、森。
人工物は何一つ見当たらない。

「ジ、ジーーク!」
『早ぇな。なんだもう地面に着いたのか?』

サポート、と叫ぶと腕時計に四角い箱が現れた。
薄い水色のその四角い箱の中でジークが面倒くさそうに『まだじゃねーか』と現状に不満を漏らす。
こっちはそれどころじゃない。

「うっわあ!」
「きゅう!」

葉に当たった。
そして、ボンっと跳ね上がりまた落下が始まる。
それからも度々、巨大な絡み合った大木のような蔓の葉に体が当たった。
あの落下速度を思えば、葉に当たっただけで体のどこかが折れそうなものだがそれもない。
とても柔らかく、落下のスピードを和らげ、クッションのようになってくれた。
しかも下へ落ちるほど葉は大きく、あちこちに生えている。
気が付けば地上に近い場所の葉に乗っかって、空を見上げていた。

「あ……いってぇ……ショ、ショコラ、無事か……?」
「きゅううぅ……」

さすがに衝撃は……ものすごかったが。
頭がクラクラする。
上半身を起こすと、ジャケットがショコラの力と爪でズタズタになっていた。

(まあ、しゃーねーな)

ジャケットは諦め、腰に巻き付ける。
腕時計を見ると、先程の半透明な四角いウィンドウは消えていた。
もう一度呼びかけると、ジークの顔が現れる。

「つ、着いたようだ」
『なかなか斬新な界渡りだったな』
「あ、ああ、やっぱりそうなのか……まあ、そうだろーな……はは……。……で、こ、これからどうすればいいんだ?」
『…………。それはテメェが決めればいいんじゃないか? 俺はあくまでサポートだ。異界情報の収集なら、この腕時計をかざして情報を読み取れば自動的にこっちで鑑定、精査して金額を提示する』
「そ、そうか……なるほど……うん、じゃあ、とりあえず地面に降りて……ショコラの親を探すか……」

改めて人の腕時計かなにやら変なものになっているような?
いや、今更だが。
そう思いつつ、ショコラを抱え直して葉っぱをジャンプして降りる。

「ぐっ、おっさんには堪えるぜ……いてて……」
「きゅぅ……」
「大丈夫だ、きっとお前の親を探して見せるさ。……とはいえ、どこから探したらいいものか……」

ようやく地面に降りると、少し色の悪い地面と雑草。
数十メートル先には、上から見えた森があった。
不思議なのは、この超巨大な蔓の側には何もない事。

「?」

そして、周囲の木々は腐り落ちている事。
後ろを振り返って、超巨大な蔓を見上げる。
これは、なんというか、あれだ。

「ジャックと豆の木……だったか? なんかそれを思い出すな……」
「きゅう?」
「ああ、童話だよ。あれ、どんな話だったっけ? 豆をまいたらこんな感じの蔓が空に伸びていって……それを登って……うーん、忘れたな? ……あ、そうだ、これをかざすと鑑定出来るんだったか? ジーク」
『…………』
「? おい?」
『……ああ、まあ、出来るけどな……。それはしなくてもいい。なんだか知っている』
「そうなのか? なんなんだ、これ?」
『自分で見てみたらいいんじゃねーの。金にはならねーぜ』
「?」

つまり異世界情報として、売れるものではない、と。
しかし、異世界というものが忠直は初めてなのだ。
ゲームや漫画は嗜まないが、男として持ち合わせる冒険心や好奇心は擽られる。
やはりワクワクはするものだ。
腕時計を、巨大蔓へと向けてみる。


界寄豆かいきとう
惑星に寄生し、根付くとその世界の養分を吸い尽くして成長する。
世界の果てまで伸びた後は、天空に空間の裂け目を作り、更にそこから別な世界に渡り、寄生と成長を続ける。
養分を吸い尽くされた世界は、塵となり滅びる。


「…………な、んだ、こりゃ……」

何度か、読み直した。
読み直したが、文字の意味は同じだ。
当たり前だが。

「ジ、ジーク、これは…………」
『ああ、その説明書きの通りだ。これは【界寄豆】。世界に根付いて、世界を養分として育つ悪質な侵略植物の一種だな。魔王のように矜持や義務で以って世界を侵略するのではなく、ただ己の生存本能に従って、植物として成長する『意思なき侵略者』だ。まあ、これはまだ成長途中。とはいえ、空間の裂け目の原因はこいつというわけだ。このまま成長すれば俺たちの世界に入り込もうとするだろう』
「⁉︎ ど、どうしたらいいんだ⁉︎」
『どうもしなくていい。空間を閉じて修復すれば、こちらには入ってこれなくなる。別な世界を探すだろう』
「って、待てよ! でもそれじゃあこの世界や、他の世界が危険にさらされるって事じゃねーか⁉︎」
『そんなのこっちの知る事じゃねーよ。異世界事情にそこまで毎度毎度首突っ込んでられねーし。それより、さっさとその世界の情報を収集してドラゴンを親元に帰した方がいいんじゃねーのか?』
「…………っ」

それは、その通りなのだろう。
だが、本当にそれが正しいのか。
そう自問自答すればそれは否だ。
その選択は正しくない。

「……でもこのままじゃ、このままこの大木みたいな蔓を放置すればこの世界は滅ぼされる、って事だろう?」
『そうなるな』
「そんなの放って置けねーよ! なんとか出来ないのか⁉︎」
『…………。なんとか、ね。……忘れているわけじゃねーだろうが、俺はどっちでもいい』
「?」
『このまま穴を閉じて修復すれば、俺のここでの仕事は終わりだからな。テメェが戻ってこないのなら、金は払わなくて済むしレンタルしてある機具もデータの回収をすればいいだけの事だ』
「!」

それは、つまり見捨てても構わないという事。
言葉を詰まらせる。
ただ歯を食いしばり、睨み付ける事しか忠直には出来ない。

『おっさんが一人行方不明になる。……ただそれだけの事。テメェ一人消えて困る事もない』
「…………」
『それを覆せるものがテメェとその世界に、あるのか?』

ない。
いくら考えても、この男を動かす要素は……何一つ。

「きゅうぅ?」
「!」

だが、ここはショコラの故郷。
この世界にショコラを残して、契約を解除する。
そして、自分だけが安全な世界に帰れば……ほんの三日間、変わった夢を見ていた。
ただそれだけの事、と思い忘れればいい。
それが出来るか。
否、出来ない。
そう、自分にはもう——そんな事は出来ない。

「……じ、人格データ……欲しいとか言ってたな……」
『…………』
「そ、それで……なんとか出来ない、か」
『…………』

腕を組み直すのが見えた。
意外と効いたのだろうか。
自分の人格にこの世界を救うだけの価値が、果たしてあるものなのか……。

『敵性反応が接近している。隠れるか逃げるか今のうちに決めた方がいいぜ』
「?」
「きゅぴいぃ! きゅいい!」
「⁉︎ ど、どうした⁉︎」

「ウルルルルルルルル……」

ジークの言葉の後に、ショコラが飛び跳ねて忠直によじ登ってきた。
舌を巻くような奇妙な鳴き声。
そちらを見れば、顔に巨大な黒いコブを持った……怪鳥が近付いてきた。

「な、なんだこいつ! で、でか⁉︎」
『ほう、なかなか面白いな。生態データを取っておけ。五万くらい払うぜ』
「ぐっ! お、お前はこんな時も……!」
「きゅ、きゅうういぃ!」
「ショコラ⁉︎」

巨大な嘴からよだれを垂れ流す怪鳥は、翼を広げて威嚇しながらゆっくり近付いてくる。
そんな忠直の前に、ショコラが降り立つ。
怯えて忠直によじ登っていたのに。
まるで怪鳥から忠直を守るように、上半身を低くして突進する構え。

「ば、ばか! 無理だ、よせ! 逃げるぞ!」
「ウルルルルルルルル!」
「くっ! ショコラ、右へ避けろ!」
「きゅう!」

あまり足の長くない怪鳥だが、翼を広げてて突っ込んできた。
ショコラめがけて突き出された嘴。
右の頭の上、ほぼ右目が隠れる位置にある黒いコブ。
だから、恐らく右は見えづらいと思った。
案の定ショコラが右側へ飛ぶと、怪鳥は一瞬ショコラの姿を見失い、キョロキョロと探す。

「今のうちに……」
「ウルルルルルル!」
「ぐっ、くそ! ショコラ、また右だ!」
「きゅう!」

奴がショコラを見失うのは一瞬だけだ。
その間になんとか砂を集める。
左目に砂をかければ、両目を潰せると思った。

『おーい、生態データー』
「うっせえ! 無理だ!」
『チッ、仕方ねぇな。ドラゴンなんだからベビーブレスくらい使えるんじゃねーの? それでコブを焼き払え。あれは【界寄豆】の『豆』を食ったんだ。生き物が【界寄豆】の豆を食うと寄生されて養分にされる。あのままならあの鳥は死ぬ』
「!」

あの右目の上の黒いコブ。
あれがこの【界寄豆】の実……豆を食べた者の姿。
そして、なんだと?

「……ベビーブレス?」
「きゅう!」
「え⁉︎」

それは技的なやつだろうか?
確認しようと口にしたら、ショコラはそれを指示とでも受け取ったのだろう。
口を開いて、火炎玉を吐き出した。

「な、なにーーー⁉︎」
「ウルルルルルルルル!」

だか、避けられる。
素早い動きで、半回転され、掠りもしなかった。
いや、ドラゴンなのだから……炎も、吐く。
吐くものなのか。
まずそこに驚いてしまう。
だが……。

「…………。ショコラ、右に回り込んで、あの黒いコブにベビーブレスだ!」
「きゅう!」

素早さはほぼ互角。
だが、体躯ならばショコラの方が小さい。
故に片目しかまともに機能していない怪鳥は、ショコラを容易く見失う。
それは、先の二回の回避で証明済み。
回り込み、怪鳥が一瞬ショコラを見失った——その瞬間!

「ベビーブレス!」

ゴッ、と口を開いたショコラの口から放たれる火炎玉。
それが、右目の上にあった黒いコブに当たる。
すると簡単にコブは燃え上がり、あっという間に灰になり、怪鳥の頭の上から消えてしまう。

「ウルルルルルゥ……!」

断末魔、とは些か違うが、怪鳥が倒れ込む。
気を失った?
腕時計で『鑑定』してみると……。

【七色鳥】
七色の羽を持つ美しい鳥。
雌は地味な茶色。
卵は美味で、肉は食用になる。

「…………」

最後の一文は、必要だろうか?
引きつった笑みで考えるが、とりあえずこれは……雌のようだ。
七色の羽根らしきものは見当たらないので。
いや、それよりも……。

「ショコラ! 怪我はないか⁉︎」
「きゅうい!」

ショコラを抱き上げて、体中をチェックした。
どうやら怪我はないらしい。
安堵の息を漏らして、その場に座り込む。
すると……。

「ん? なんだこれ?」
『なんだ?』

ショコラの頭の上に何か出た。
腕時計の、ジークが映るウィンドウのようなもの。
全くもって難解な、文字化けしたような文字のようなものと、複数のドラゴンの絵のようなものが並ぶ。
しかし、ジークに見せても『見えない』と言われる。

『……ふむ、もしかしたら……。面白い、通訳魔法のデータを送ってやるよ。腕時計に向かって『通訳魔法展開』と言ってみろ。俺の興味本位からだからサービスしてやる』
「え? あ、ありがとう?」

通訳魔法なんてものがあるとは、それは驚きだ。
では、と息を吸い込み、腕時計に向かって言い放つ。

「通訳魔法展開」

ヴン……。
まるでPCが立ち上がる瞬間のように、文字化けが消えていく。
そこに書かれていたのは——。


『ベビードラゴン、ショコラのレベルが上がりました』
『進化先を選択してください』

「…………。し、進化……?」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

最愛が……腕の中に……あるのに……

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と結ばれたかった…… この国を最愛と導きたかった…… その願いも……叶わないのか……

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

龍神の生贄に捧げられた私、実は伝説の【光龍】でした~裏切った恋人と村人が呪いで絶望しても、もう遅い。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い~

宮野夏樹
ファンタジー
「今年の龍神様への供物はお前だ、更紗」  信じていた恋人、秀人(ひでひと)から裏切られ、村の生贄として差し出された孤独な少女・更紗。  しかし、死を覚悟した彼女を待っていたのは、漆黒の龍神・馨尚(きよたか)との出会いだった。 「俺は人間など喰わない。……男に連れられ、逃げていった娘なら何人も見たがな」  暴かれる村の醜い嘘。そして、更紗の体に眠っていた伝説の【光龍】の血が目覚める。  自分を嘲笑い、身代わりに仕立て上げた親友・楓。保身のために愛を捨てた秀人。  奪われた逆鱗を取り戻し、二人が村を去る時、冷酷な宣告が響き渡る。 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い……ですよ」  それは、裏切り者たちの血筋を末代まで縛り付ける、救いなき絶望の呪い。  これは、全てを失った少女が真の神として覚醒し、自分を捨てた者たちに正当な「報い」を与えるまでの物語。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...