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初恋の人が自罰的だったので溺愛することにした
カッコ悪い自分(1)
しおりを挟むあのあと、『海龍の牙』の連中は帝国に突き出されることが決まった。
自由騎士団は賞金首を捕らえて他国に引き渡し、懸賞金を受け取って運営に回すこともよくあること。
しかも今回は剣聖が直々に手を下した。
より一層、剣聖ノインの名は大きく轟くことだろう。
「どうだろうな。今回は陸地だし」
「っていうのは?」
「オルガ・ゼーラは海上で無敗だ。俺は用がねぇから戦ったことねえけど、少なくとも帝国の召喚警騎士では手に負えない。だからあの懸賞金額」
「今回は陸地だったから、足元見られるかもってことか?」
「さすがに剣聖相手に足元は見ねえだろ。帝国も剣聖だけは敵に回したくねぇはずだし」
ホッと、安堵しながらまだ目を覚さないリグの頭を撫でる。
ロープウェイの長椅子に横たえて、膝に頭を乗せたまま腕の切り傷をシドが適切に手当てした跡を見た。
「応急処置まで完璧なんだな」
「命に関わるからな」
「側を……離れなければよかった」
「奴がリグとリョウを殺す可能性はなかった。『海龍の牙』の目的は世界支配だからな。それには二人の魔力を手に入れて生かして利用するしかない」
「でもっ!」
「仕方ねぇだろ、お前、弱いんだし」
「っ!」
「シード」
と、目の前の席に座っているノインがシドを咎める。
拳を握り締めた。
悔しいが事実だ。
あのタコの召喚魔を一対一で倒せたか、と言われるとフィリックスはきっと倒せなかった。
「――シド、おれはどうやったら今より強くなれる?」
「……魔力量はいくら増やしても困らない。から、リグに全部くれてやれ。あと、お前近接戦闘タイプなのに筋力が全体的に足りない。筋トレを増やせ。身体強化魔法で通る魔力量が増えると筋力にも負担が増える。今のままだと筋肉と皮膚の保護に回す魔力も足りない。同時進行で両方増やせ。拳の戦闘について戦い方は俺も鍛練に付き合えるから、誘え」
「……わかった」
「えっ! 僕と手合わせは!?」
「時間見てな」
「ぐぬぬ」
ごめんな、とノインに一言謝ってから、リグの髪をもう一度撫でる。
まだまだ、自分は強くなれるのだ。
それなら強くならなければ。
(リグは、もっと……)
彼が普通に出歩いて、一緒に町をデートしても大丈夫なぐらいに強くなりたいと思う。
他者に“使われる”ことを前提として生きている彼は、自分の力を自分のためには絶対に使わない。
シドの命令で身を守るように言われた時だけ、その力を振るう。
シドでさえ、「ガチでやり合っても多分負ける」と言うほどの魔力量と召喚魔法の才能。
その力の大きさを誰より理解しているからこそ、リグは自分の力を使わずに他者に身を任せる。
世界を傷つけずに、正しい方向に導ける者に。
『君も間違えない人だろう。あれと同じ、僕を正しく使える人だ』
リグに再会した時に、そう言われた。
少なくともリグの中で、フィリックスは絶対的な存在である兄と同じカテゴリーにカテゴライズされているらしい。
なら、その期待に応えたい。
(おれになら捕まってもいい――って言ってたもんな……)
なら、強くなってずっと捕まえていよう。
自分の隣なら大丈夫、絶対に守ってもらえる安全な場所だと思ってもらえるような。
(強くなるよ、もっと。おれがきみを守る)
◆◇◆◇◆
「……?」
人の気配がして、寝室を覗いてみる。
自室に寝かせていたリグが、上半身を起こしてボーッとしていた。
「リグ」
「……!」
声をかけてホットミルクの入ったカップを持っていく。
ベッドに座ってまだぼんやりしているリグに差し出す。
「右手、怪我してるから左手で掴んで」
「……ん」
後ろから覆い被さるようにして支えながら、カップを持たせる。
ゆっくり口元に持っていき、一口飲ませた。
こく、こく、と小さな口で一生懸命に飲む姿が可愛い。
「リョウは」
「無傷だよ。毎日リグのためにお粥を作ってくれてる」
「……僕は、どのくらい寝てたんだろうか……」
「四日かな。魔力がほとんどなくなってた、って。シドが定期的に【無銘の魔双剣】で魔力を供給してくれたけど、さすがに肝が冷えた……かな」
「そうか」
頰に指を添える。
それでなくとも魔力量の多いリグは、魔力が尽きると二ヶ月ほどかけて回復しなければいけな。
それはとてもしんどいことだろう。
「おれの魔力も全部食べていいよ」
「……キス……?」
「キスがいい? いいよ」
頰を両手で包む。
聞いただけのつもりだが、目を細めたリグが「キスがいい」と言う。
そんなふうに言われたら応えないわけにはいかない。
唇を合わせて、軽めのものを何回か。
下唇を親指で開き、唇の裏に舌を這わせて歯茎、歯列を舌先で舐めながらゆっくり咥内に侵入していく。
リグの舌が堪らずに伸びてきたら、舌裏筋を舌先でくすぐるように舐める。
「ふっ、ぅ、ひっ……ん」
そのまま一気に、唇でリグの唇を覆う。
甘いミルクの味。
吸い上げて、じゅる、という音。
唾液が溜まる。
それを絡めて、乱暴に咥内を舐めて舌を絡めて喉奥に唾液を流し込む。
ぴく、ぴくとリグの腰や肩、手首が跳ねるのが可愛い。
「ん、っうう、ぁっふ、ん……んん」
「飲んで」
「……ンッ」
言われた通りに唾液を飲むリグ。
うっとりとした表情に、股間に熱が集中するのを感じた。
「あ……お、お腹にも……ほし……」
「だめ」
「え……なんで……」
「怪我してるから」
「……あ」
ようやく怪我を思い出したのか、眉を寄せるリグ。
手のひらをかざして包帯の上から治癒魔法を使うと、ほう、吐息を吐き出す。
「治した」
「うん。……だから?」
「え、あ……お、お腹に……フィーのを……注いでほしい……」
少しだけ冷たい声色になって聞いてしまった。
だからリグが困惑したように、困ったように目線を彷徨わせながら口にする。
頰を撫でていた手を、後頭部に回して撫で続けた。
フィリックスにただ、撫でられて見つめられるだけでリグもいよいよ困り果て始めた頃――。
「……守れなくてごめん」
「え……?」
「おれが弱いばかりに、怪我をさせた。側を離れて、まんまときみを危険な目に遭わせた。わかっていたけれど、おれは弱いな」
「え……え……? いや、そんなこと……」
リグの体を抱き締める。
起きたらまず、謝りたかった。
リグにすれば大した怪我ではないのだろうけれど、魔力をほぼすべて吸い上げられたリグはつらかっただろう。
守るべき対象を守りきれなかった。
シドはリグもリョウも殺されないだろう、と言っていたけれどそういう問題ではない。
騎士として、あり得ないのだ。
「守れるぐらいに強くなるよ。それであの、一緒にいられる時間が、減ると思う。魔力量を増やすためにも、リグに全部おれの魔力をあげたい。もらってくれる?」
「え? ……っ、え……え、あ……っ、それはあの……キ、キス?」
「うん、吸っちゃってくれ。その状態で自分の部屋まで帰る」
「え」
まだ魔力を一割ほどしか回復していないだろう、リグに、フィリックスの魔力量は大した足しにはならないだろうけれど。
さあ、と唇を近づけると、ぐるぐると困惑していたリグが震えながら唇を寄せてきた。
(やっぱりリグも魔力が足りないからつらいんだろうな)
目を閉じて、覚悟をした。
あの凄まじい虚脱感と気怠さ、頭痛が襲ってくる覚悟を――。
「ちゅ」
という音を立てて、非常に軽い口づけ。
んん? と目を開けて見下ろすと、リグが俯いている。
「リグ、あの? 容赦しなくていい、よ?」
「お腹に、ほしい」
「え」
「注いでほしい。……ダメだろうか?」
「……えっと、怪我を治したからって無理させたくないから、ダメ」
「だ、だめ……? どうしても?」
「今日はしない」
「うう……」
そんなにセックスで中出しされたいのか。
それはそれでとんでもいないことを言っていると思うのだが。
あまりにもあまりにもなので、かなり重い一撃で本能に「いいじゃないか、怪我は自分で治しているんだし、応えてやれば」と殴りかかられたが、なんとか理性で殴り返す。
はっきりと断ると、本当に困り果てたようなリグが「じゃあ、口に直接注いてほしい」とさらに懇願してきた。
口に注いでほしい。
(口に……え? なにを?)
ちょっとなに言ってるかわからない。
本気で目を点にしたフィリックスに「口で奉仕するから、飲ませて」と頰を染めてお願いされた。
「……っ! せっ、精液経由でなくても、唾液経由でおれの魔力は摂取できるよね!?」
「濃度が違うし、フィーに倒れてほしくない……」
「そ、そんなことしたらおれ、我慢がっ」
「デ……デートが……で、できなかった、から……」
「え」
「それに、四日も眠ってたなら……寂しかった、と、思う……し」
「…………。おれが?」
聞き返すと、口をはくはくと、開閉して困り果てている。
きた。リグがなにを言いたいのかわからない状況だ。
翻訳機がいればある程度わかるかもしれないのだが、さすがにこの雰囲気で呼びに行くのは憚られる。
(いや、考えろ。これから先も一緒にいるために……! リグがなにを言いたいのかを、考えるんだ!)
よく観察して、今までリグが話していたことを思い返して。
まず、リグはどうしてもフィリックスの魔力をすべて吸うことはしたくないらしい。
精液摂取で、濃度の濃い魔力を供給してもらえたらいい、と。
理由は倒れてほしくないから。
そしてデートができなかったことを言っている。
さらには「寂しかったと思う」とのこと。
(いや、わかんないよ)
リグに「リグが寂しかった?」と聞くと首を振られたので寂しかったと思う相手はフィリックスなんだろう。
(寂しかった、って言われたら……それは……)
寂しかったし、自分の不甲斐なさにずっと怒ってたし、心配でつらかった。
早く目を覚ましてほしかった。
(――ああ……なるほど……おれが寂しかったから……)
デートもできず、大事な人も守れなくて怪我をさせ、四日も眠らせたままにしてモヤモヤを抱えたままでいた。
リグが言いたいのはそういうことなのかもしれない。
「おれが四日間、リグに謝れなくて悔しくて寂しかったって言ってる?」
「え、ええと……人の心のわからない道具風情が、と思うかもしれないが……」
「そんなこと思わないよ。……正解。すごく寂しかったし、ずっと自分に腹が立ってたよ」
頰や髪を撫で回す。
この、世界一綺麗なひとは――フィリックスの心を慮ってくれたのか。
その上で、セックスやフェラチオを提案してきた。
四日間の穴埋めと言わんばかりに。
(そんなの……そんなの――)
気がつけば手が伸びていた。
こんなにも、健気で優しい人が自分を選んでくれたという現実が、夢のように思える。
リグの右手に左手を絡ませてベッドに縫つけるように押し倒して、後頭部に右手を回して口づけた。
「んん……ンっ……っん、っんん、ふっ、ぅ、んんん」
怪我人相手に、と思うのに、リグはもう怪我を治癒しているから、と囁く自分もいる。
そんな自分が勝手に「シたい」と告げてしまう。
酸欠でとろんとしたリグが、唇から唾液の糸を垂らしながら「あ、ん……構わない……待って」と右手で緑色の魔石を枕の下から取り出した。
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