落第したい聖女候補が、恋を知るまでのお話

古森きり

文字の大きさ
14 / 21

女官の本性

しおりを挟む

 うーん、おれは一体どうなっちまったんだ?
 腕を組みながら、ようやく木から降りた頃には空は茜色。

「ん?」
「……」

 顔を上げると、庭の前でおれ担当の女官がいた。
 あー、そういえばこの人に呼び止められたような気がする。
 最近試験受ける広間までついてきてくれてるみたいだし……なんかごめん。

「悪ぃ、待っててくれたのか……?」
「は、はい。…………、あの、精霊騎士様は……?」
「ノワールは、部屋に戻ってもらってて……」
「そ、そうですか……」
「もしかして、まだ怖いのか?」
「…………。、は、はい。ああ言ってくださいましたけど、やっぱりまだ、闇の精霊様のお側はなんとなく怖くて……」
「…………」

 そういえばこの女官は、ノワールが闇の精霊だから怖がってたな。
 闇の精霊は災いをもたらすとかなんとか……。
 ノワールは否定してたけど。

「けどおれみたいな田舎者も、あんたはやなんじゃねぇのか?」
「いえ、いえ、あの、でも今までの試験結果を見る限り、 二十番目フィーネ様が次期聖女にもはや間違いないかと思うので……今のうちに全力で媚を売っておこうと思います」
「そっかァ……」

 最高にたくましくていいと思うわぁ……。

「でも悪ぃんだけど、おれ、聖女になる気はねぇんだよなぁ」
「ええっ! な、なんでですか! なってくださいよ! 私の出世と安泰の生活のために!」

 わあ、この人意外とすげえ人だったんだな……。
 このたくましさ、嫌いじゃねえ。

「私は下級貴族の末娘で……ここに放り込まれたんですけど!」

 え、突然の身の上話?
 それ聞かなきゃダメなやつ?

「いじめが、すごいんですよ……ココ……」
「…………」

 顔が…………迫真……。
 でもなんとなくそんな気するわ。

「下級貴族の末娘なんて、役に立たないだろうってオッサン神官に呼び出されて体触られたり、夜ベッドに呼び出されたり。それをなんとかやり過ごしても先輩女官たちに毎日ネチネチいびられるし、今は聖女候補のお世話でだいぶマシですけど……フィーネ様の食事はいつも残飯しか渡されません」
「え、そうだったのか?」
「本当に気づいてなかったんですか!? あの人たち、『二十番目フィーネは田舎者だから残飯だしても気づかない』って笑ってたんですよ!」
「えぇ……そりゃなんかひでえ話だと思うけど……マジで気づかなかったわ」
「おぎゃー!」

 つーかおれもなかなかやられてたのか。全然気づかなかったぜ!
 そんですげぇ、叫ばれた。
 相当色々溜まってるんだろうなぁ、この女官。

「悔しいと思わないんですか! そこまでされていて!」
「腹は立つけど今更だし。ただで飯食わせてもらってんのに文句は言えねぇし」
「これだから平民は!」
「うんまあ、そうなんだよ。だから聖女なんでおれぁがらじゃねぇから、やりたくねぇ。無理だろう、どうせ」
「そ、そんな事言わないでくださいよ! あいつらにギャフンと言わせたいんです! なってくださいよ、あなたが! 聖女に!」
「…………」

 がばりとすがりつかれても——……。

「…………よく、分からん」
「っ」
「だっておれはただの田舎娘で、平民で……取り柄もなくて、女らしさもなくて、嫁の貰い手もねぇと言われてきて……それなのに突然聖女になってくれとか言われても……」

 分からない。
 他の聖女候補が聖女に相応しいかと言われれば、おれだって首を横に振る。
 あいつらは相応しくねぇ。
 でも、じゃあおれが相応しいのかというとそんな事もねぇだろう。
 聖女ってのは精霊と心を通わせる神聖な存在。

「なら! 聖女っぽくなりましょう!」
「は、はあ?」
「今からでも間に合います! これから聖女らしくなればいいんです! 私がお手伝いしますから! つけ焼き刄でもないよりましです!」
「そ、そりゃあそうかもしれねぇけど……え、ど、どうするんだよ!」
「まずは見た目! それからその言葉遣いを直しましょう! すぐには直らないと思いますし、とにかく明日の最終試験に受かれば晴れて聖女様です! 私の復讐のためにもぜひ頑張って聖女様になってください!」
「し、私情!」
「私情に決まってますよ! 当たり前でしょう!」

 いっそ清々しいなぁ!

「……け、けど! おれなんかが、聖女らしくとか……」
「なれます!」
「っ……」

 聖女——イメージは、清楚で可憐でおしとやか。
 ヴェールで覆われて優しげに微笑んで花畑の真ん中に座って、精霊と楽しげに語り合う。
 そんな、そんなものに……おれが……。

「無理無理無理! なれるわけねーよ!」
「演じるだけでいいんですよ!」
「え、演じ……」

 そ、その手が……!
 っていやいやいやいや! おれが演じるっつったってねぇ!
 出来る気がしねーよ!

「で、でも……」
「でももだけどもしかしもとにかくまずはやってみてから!」
「…………」

 こ、怖い……。
 こいつ、本当こういうやつだったのか……。

「ふふふ、ここまできたら私の担当聖女候補を必ず聖女にして、私を虐めてバカにしてきた奴らに一泡吹かせて踏みつけてやるのよ……ふふふ、ふふふふふ」
「…………」

 …………たくましい…………。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——?

ルーシャオ
恋愛
ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——? モーリン子爵家令嬢イグレーヌは、双子の姉アヴリーヌにおねだりされて婚約者を譲り渡す羽目に。すっかり姉と婚約者、それに父親に呆れてイグレーヌは別荘で静養中の母のもとへ一人旅をすることにした。ところが途中、武器を受け取りに立ち寄った騎士領で騎士ブルックナーから騎士見習い二人を同行させて欲しいと頼まれる。 そのころ、イグレーヌの従姉妹であり友人のド・ベレト公女マリアンはイグレーヌの扱いに憤慨し、アヴリーヌと婚約者へとある謀略を仕掛ける。そして、宮廷舞踏会でしっかりと謀略の種は花開くことに——。

処理中です...