「【限界突破】なんてやばいスキル誰が使うんだ(笑)」と言われて放置されてきた俺ですが、金級ギルドに就職が決まりました。

古森きり

文字の大きさ
1 / 51

キノコ生えた

しおりを挟む

 
 キノコが生えた。
 キノコ、人間に生えるんだな。
 などとぼんやり考えながら、腕に生えたキノコを引っこ抜く。
 幸い、生えたキノコは[闇キノコ]という落ち込んだ人間に生えて、その鬱々した感情で育つ無害なもの。

「おいおい、見ろよ。エルンに闇キノコが生えてるぜ」
「クソダセー」
「あいつなんでここにいるんだ?」
「どーせまたデンゴたちに置いてかれたんだろ」
「っ!」

 デンゴたち、というのは、この町の英雄たちだ。
 この町——トリニィの町を襲ったモーヴキングという、巨大な雄牛型魔獣を倒した冒険者パーティ。
 エルンは彼らに憧れて冒険者になり、頼み込んでようやくパーティの雑用係にしてもらった。
 だが、間もなく彼らはエルンを「俺たちが留守の間、冒険者ギルドに旨い依頼が来たら確保しておく係」に任命。
 こうして本日も放置されているのだ。

「ま、確かに【限界突破】なんて固有ギフトスキル誰が使うんだっつー話だよなぁ!」
「職業レベルやスキルレベルの上限を引き上げる固有スキル、だっけ? 女神エレメンタルプリシス様も、酷なことをなさる!」
「レベル99なんて、伝承の勇者でも達してねーってのにさ!」

 がはははは、と酒を酌み交わして笑う他の冒険者たち。
 彼らも飲み終わればその日の稼ぎを求めて森へと入る。
 戦い方もなにも教わっていないエルンは、ギルドの端っこでまた膝を抱えて座り直す。

(わ——わかってるよ……! 厄介払いされたことくらい! このままじゃいけないことくらい!)

 デンゴたちのような冒険者になって、人々の役に立ちたい。
 感謝され、賞賛され、尊敬されるような人間に。
 けれど現実は——戦う術もなく、女神に与えられた固有ギフトスキルは誰の役にも立たない。
 平均レベルが25前後の世界で、レベル99のレベル上限など、どうやったって無理な話だ。
 このまま一生ここで、闇キノコを生やしているのがお似合いなのだろう。

「まあ、まあ、珍しい固有ギフトスキルをお持ちなんですか?」
「え」

 椅子の上で膝を抱え、にゅっと新しく生えた闇キノコを引っこ抜く少女。
 桃色の髪と紫色の瞳。
 見たことがあった。
 トリニィの町のさらに東にある大都市、王都エンドラにある、各地の冒険者ギルドの大元——金級ギルドの受付嬢——だったはず。
 時折なんらかの依頼を持って、片田舎のトリニィの町にやってくるのだ。
 それを何度か見かけたことがある。
 かわいらしく、上品で優しそう。
 金級ギルドの受付嬢ならば国家資格持ちの貴族。
 本来ならば一生言葉を交わすことなどできない、高嶺の花。

「初めまして。わたしはシシリィ・エール。今のお話、詳しくお聞きしてもいいでしょうか?」
「え?」

 にっこり微笑んだ彼女はエルンと同じテーブルにつく。
 なんだ、なにが起こっている?

「あ、あの……」
「エール二つお願いしまーす」
「は、はいっ!」

 トリニィのギルドの受付嬢が震え上がって返事をする。
 無理もない。
 目の前の少女は貴族!
 トリニィの町のギルドは銅級。
 ギルドに所属する冒険者が百人未満。
 王国貢献度三十以上八十未満だからだ。
 対する彼女、金級ギルドはすべての冒険者ギルドを総括する。
 ギルドの等級を決定する機関の人間。
 そんな人が、なぜ自分なんかに話しかけるのか。

「おまたせしました!」
「ありがとうございます! えっと、それであなたの名前をお伺いしてもいいでしょうか?」
「え、エルンと申します! ……に、二級市民です」
「まあ、そうなんですね。でも冒険者登録は済ませてあるのでしょう?」
「は、はい。でも……まだ原石級なので……」

 冒険者にも、平民にもランクがある。
 平民は奴隷すれすれの二級と、二級を雇って商売をする一級平民。貴族はその上だ。
 例外は冒険者。
 冒険者になると一級市民扱いとなる。
 冒険者は一番下の原石級、その上に銅級、その上に銀級、その上が金級、その上に白銀級と、一番上が白金級。
 冒険者の中でも金級以上になると、その名は知れ渡り英雄として貴族並みの発言力と権力を有する。
 つまりエルンは下層の下層。
 彼女のような貴族が話しかけることはない生き物だ。

「いつから冒険者を?」
「に、二年前から……」
「今おいくつですか?」
「じゅ、十七です」
「まあ、わたしと同い年ですね! パーティには所属しているのですか?」
「……は、はい、でも……一度も森に連れて行ってもらえてなくて……」
「それで級が上がっていないのですね」

 でも、自分は弱いから。
 それを零すと、シシリィは一瞬キョトン、としてからまたにっこり笑う。

「なにもしなければ、このままなのは当たり前です。もしもあなたが今の生活を不満に思い、自分の力を役立てたいと思うのなら、そのパーティメンバーにお話してはいかがですか?」
「え?」
「それでも境遇が変わらないようなら、ぜひ、エドランのギルドに来てください。すべての冒険者をサポートするのが、冒険者ギルドの務めです!」

 両手をぎゅっと握って、エルンにそう言ってくれるシシリィ。
 彼女の言葉に、エルンは顔を真っ赤に染めたが、カウンターで座っていたトリニィの受付嬢が盛大に肩を跳ねさせた。
 それを見て今のシシリィの言葉が「職務怠慢だぞ☆」という嫌味にもなっていたのだと気づく。
 さすがである。

「エドランのギルドに来たら、これを見せてわたしを——シシリィ・エールの紹介です、って言ってください! わたしが対応させていただきます! それじゃあ、お待ちしていますね!」
「あ……ありがとうございます……!」

 かわいらしくウインクして、シシリィは席を立つ。
 トリニィの受付嬢と二、三言葉を交わしたあと、書類のようなものを受け取って出て行った。

(王都エドランのギルドか……)

 シシリィは「今のパーティメンバーに話してみては」と提案しておきながら、エルンがエドランのギルドに来ることをまるで疑っていない口ぶりだった。
 そのことに気づいていたのは、トリニィの受付嬢のみ。
 しばらくぼーっと天井を見上げていたエルンは、立ち上がる。
 そして受付嬢のところにやってきて、告げた。

「俺、エドランに行きます。デンゴたちにパーティを抜けると伝えてください」

 パーティを抜けるには、デンゴの許可が必要。
 だが、一度も森に連れて行ってもらえなかった原石級をさっさとパーティから追い出したくて放置していたのは彼女も知るところだった。
 先程のシシリィの釘もある。
 受付嬢は「わかりました」と控えめに笑ってエルンを送り出す。
 シシリィがなにを思ってあんな役立たずを誘ったのかはわからないが、【限界突破】なんて固有スキル、未来永劫使われることはないだろう。

「……ま、お荷物が減ってよかったけど……」

 そう独り言を漏らし、彼女は退屈な片田舎のギルドを回すべく、依頼書を作り始める。
 田舎は田舎で色々大変なのだ。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...