「【限界突破】なんてやばいスキル誰が使うんだ(笑)」と言われて放置されてきた俺ですが、金級ギルドに就職が決まりました。

古森きり

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キノコ生えた

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 キノコが生えた。
 キノコ、人間に生えるんだな。
 などとぼんやり考えながら、腕に生えたキノコを引っこ抜く。
 幸い、生えたキノコは[闇キノコ]という落ち込んだ人間に生えて、その鬱々した感情で育つ無害なもの。

「おいおい、見ろよ。エルンに闇キノコが生えてるぜ」
「クソダセー」
「あいつなんでここにいるんだ?」
「どーせまたデンゴたちに置いてかれたんだろ」
「っ!」

 デンゴたち、というのは、この町の英雄たちだ。
 この町——トリニィの町を襲ったモーヴキングという、巨大な雄牛型魔獣を倒した冒険者パーティ。
 エルンは彼らに憧れて冒険者になり、頼み込んでようやくパーティの雑用係にしてもらった。
 だが、間もなく彼らはエルンを「俺たちが留守の間、冒険者ギルドに旨い依頼が来たら確保しておく係」に任命。
 こうして本日も放置されているのだ。

「ま、確かに【限界突破】なんて固有ギフトスキル誰が使うんだっつー話だよなぁ!」
「職業レベルやスキルレベルの上限を引き上げる固有スキル、だっけ? 女神エレメンタルプリシス様も、酷なことをなさる!」
「レベル99なんて、伝承の勇者でも達してねーってのにさ!」

 がはははは、と酒を酌み交わして笑う他の冒険者たち。
 彼らも飲み終わればその日の稼ぎを求めて森へと入る。
 戦い方もなにも教わっていないエルンは、ギルドの端っこでまた膝を抱えて座り直す。

(わ——わかってるよ……! 厄介払いされたことくらい! このままじゃいけないことくらい!)

 デンゴたちのような冒険者になって、人々の役に立ちたい。
 感謝され、賞賛され、尊敬されるような人間に。
 けれど現実は——戦う術もなく、女神に与えられた固有ギフトスキルは誰の役にも立たない。
 平均レベルが25前後の世界で、レベル99のレベル上限など、どうやったって無理な話だ。
 このまま一生ここで、闇キノコを生やしているのがお似合いなのだろう。

「まあ、まあ、珍しい固有ギフトスキルをお持ちなんですか?」
「え」

 椅子の上で膝を抱え、にゅっと新しく生えた闇キノコを引っこ抜く少女。
 桃色の髪と紫色の瞳。
 見たことがあった。
 トリニィの町のさらに東にある大都市、王都エンドラにある、各地の冒険者ギルドの大元——金級ギルドの受付嬢——だったはず。
 時折なんらかの依頼を持って、片田舎のトリニィの町にやってくるのだ。
 それを何度か見かけたことがある。
 かわいらしく、上品で優しそう。
 金級ギルドの受付嬢ならば国家資格持ちの貴族。
 本来ならば一生言葉を交わすことなどできない、高嶺の花。

「初めまして。わたしはシシリィ・エール。今のお話、詳しくお聞きしてもいいでしょうか?」
「え?」

 にっこり微笑んだ彼女はエルンと同じテーブルにつく。
 なんだ、なにが起こっている?

「あ、あの……」
「エール二つお願いしまーす」
「は、はいっ!」

 トリニィのギルドの受付嬢が震え上がって返事をする。
 無理もない。
 目の前の少女は貴族!
 トリニィの町のギルドは銅級。
 ギルドに所属する冒険者が百人未満。
 王国貢献度三十以上八十未満だからだ。
 対する彼女、金級ギルドはすべての冒険者ギルドを総括する。
 ギルドの等級を決定する機関の人間。
 そんな人が、なぜ自分なんかに話しかけるのか。

「おまたせしました!」
「ありがとうございます! えっと、それであなたの名前をお伺いしてもいいでしょうか?」
「え、エルンと申します! ……に、二級市民です」
「まあ、そうなんですね。でも冒険者登録は済ませてあるのでしょう?」
「は、はい。でも……まだ原石級なので……」

 冒険者にも、平民にもランクがある。
 平民は奴隷すれすれの二級と、二級を雇って商売をする一級平民。貴族はその上だ。
 例外は冒険者。
 冒険者になると一級市民扱いとなる。
 冒険者は一番下の原石級、その上に銅級、その上に銀級、その上が金級、その上に白銀級と、一番上が白金級。
 冒険者の中でも金級以上になると、その名は知れ渡り英雄として貴族並みの発言力と権力を有する。
 つまりエルンは下層の下層。
 彼女のような貴族が話しかけることはない生き物だ。

「いつから冒険者を?」
「に、二年前から……」
「今おいくつですか?」
「じゅ、十七です」
「まあ、わたしと同い年ですね! パーティには所属しているのですか?」
「……は、はい、でも……一度も森に連れて行ってもらえてなくて……」
「それで級が上がっていないのですね」

 でも、自分は弱いから。
 それを零すと、シシリィは一瞬キョトン、としてからまたにっこり笑う。

「なにもしなければ、このままなのは当たり前です。もしもあなたが今の生活を不満に思い、自分の力を役立てたいと思うのなら、そのパーティメンバーにお話してはいかがですか?」
「え?」
「それでも境遇が変わらないようなら、ぜひ、エドランのギルドに来てください。すべての冒険者をサポートするのが、冒険者ギルドの務めです!」

 両手をぎゅっと握って、エルンにそう言ってくれるシシリィ。
 彼女の言葉に、エルンは顔を真っ赤に染めたが、カウンターで座っていたトリニィの受付嬢が盛大に肩を跳ねさせた。
 それを見て今のシシリィの言葉が「職務怠慢だぞ☆」という嫌味にもなっていたのだと気づく。
 さすがである。

「エドランのギルドに来たら、これを見せてわたしを——シシリィ・エールの紹介です、って言ってください! わたしが対応させていただきます! それじゃあ、お待ちしていますね!」
「あ……ありがとうございます……!」

 かわいらしくウインクして、シシリィは席を立つ。
 トリニィの受付嬢と二、三言葉を交わしたあと、書類のようなものを受け取って出て行った。

(王都エドランのギルドか……)

 シシリィは「今のパーティメンバーに話してみては」と提案しておきながら、エルンがエドランのギルドに来ることをまるで疑っていない口ぶりだった。
 そのことに気づいていたのは、トリニィの受付嬢のみ。
 しばらくぼーっと天井を見上げていたエルンは、立ち上がる。
 そして受付嬢のところにやってきて、告げた。

「俺、エドランに行きます。デンゴたちにパーティを抜けると伝えてください」

 パーティを抜けるには、デンゴの許可が必要。
 だが、一度も森に連れて行ってもらえなかった原石級をさっさとパーティから追い出したくて放置していたのは彼女も知るところだった。
 先程のシシリィの釘もある。
 受付嬢は「わかりました」と控えめに笑ってエルンを送り出す。
 シシリィがなにを思ってあんな役立たずを誘ったのかはわからないが、【限界突破】なんて固有スキル、未来永劫使われることはないだろう。

「……ま、お荷物が減ってよかったけど……」

 そう独り言を漏らし、彼女は退屈な片田舎のギルドを回すべく、依頼書を作り始める。
 田舎は田舎で色々大変なのだ。

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