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闇キノコ
しおりを挟む「シシリィさんのジェッツで王都に報せを出してもらいましょう。応援が来ないと話になりません」
「だ、誰が呼びに行くんだよ……」
「タータ!」
「みゅん!」
シシリィから連絡用に借りていたタータを、懐から取り出す。
どよめくギルド内。
ラッキーエアリスはレア魔獣ゆえ、こういう反応をされるのは仕方ない。
けれど首輪をしているから、使い魔なのは一目瞭然だろう。
「タータ、ジェッツに王都への連絡役を頼んでほしい。このままじゃシシリィさんたちも危険だ!」
「みゅんみゅんみゅん!」
「そっか! そうだな! それにしよう! よろしく頼むよ!」
「みゅんみゅーん!」
[魔声]のおかげで、タータがなにを言っているのかわかる。
ジェッツが抜けたあと、食糧庫を守る役目をタータがやるぜ、という内容だ。
食糧庫は守らねばならない。
確かにジェッツよりは心許ないが、最悪、タータなら逃れて応援を呼ぶこともできる。
その提案を受けてタータを町へと離し、エルンは冒険者たちを振り返った。
「行きましょう! このままでは魔獣が町に入り込みます!」
「で、でもよ、もう少し待てば、デンゴたちが帰ってくるかもしれないだろ?」
「そ、そうだぜ。あと少し、待とうぜ」
「そんなこと言ってる暇はありませんよ! もう前線が柵のところまで下がってるんですよ!? 俺も一緒に行きますから、みんなで力を合わせて、せめて“今日”を乗り越えましょう!」
いつも、エルンを嘲笑っていた彼らが。
「そんなスキル、誰が使うんだ」と言って、デンゴに置き去りにされ、放置されるエルンを馬鹿にしていた彼らが。
どうして、動かない。
それどころか、彼らの腕や頭には[闇キノコ]が生えてきた。
それほど鬱々とした気分だったのか。
エルンが生やした闇キノコの胞子が、まだ残っていたせいなのか、ほぼ全員からニョキニョキ生えて、成長していく。
情けがない。
「なんでですか……いつも俺のこと、あんなに笑って馬鹿にしてたのに……」
「…………」
「こんな肝心な時に……なんで! ……!」
闇キノコをむしり取る。
しかし、誰も立ち上がらない。
むしろ、また新しい闇キノコが生えて育つ。
手に取った闇キノコは、なんとも立派な姿。
「闇キノコ……」
なんなら人間にすら食べることができる、鬱々とした感情を糧に生えて育つ無害なキノコ。
けれど、『魔獣博士』のレベルアップのために得た知識に、闇キノコのことが書いてあった。
[闇キノコ]——鬱々とした人間の感情に反応した闇キノコ胞子が取り憑くことにより、急速に成長。
無毒で人間にも食べられるが、人間が食べると躁効果が僅かに現れるためしっかり加熱することが必要。
細かく刻んで闇キノコで出汁を取り、煮込んだ闇キノコスープは魔獣の大好物。
「…………これだ」
「え?」
「袋を! 麻袋を貸してください!」
「え? は、はい?」
ギルドから麻袋を借りて、闇キノコを全部回収する。
受付嬢に彼らが今後も闇キノコを生成するようなら、袋で保管していてもらうよう頼んでエルンは宿屋に向かう。
大将は隣町に食糧を仕入れに行っているため、宿に残っていたのは女将とナット。
二人に事情と作り方を説明して、コトコトと煮込み始める。
その間にジェッツが戻ってきて、王都の冒険者ギルドに報せをやってくれたと報告をしてくれた。
「よし、ジェッツ! 君にもう一つお願いしたいことがある! これを迷宮へ運んで、入り口にばら撒いてきて!」
「キュエエエエッ!」
「あ、うん! 君にもあとであげるね」
「キュェ、キュエエェ!」
涎を垂らすジェッツに羊の胃袋で作った水筒に入れたスープを持たせ、飛び立つところを見送る。
「よっしゃ、キノコスープは俺とお袋で作り続ける! さっきの鳥に持たせて往復して貰えばいいんだな!?」
「うん!」
「エルン、お前も気をつけるのよ」
「はい! 行ってきます!」
宿から出て、外壁門の近くまで来るとトリニィ外からきた冒険者たちが、シシリィに治癒を受けているところだった。
中衛にいたシシリィがここまで下がってきている。
それほどまでに、苦戦しているのか。
「シシリィさん!」
「エルンさん! 町の中は大丈夫ですか!」
「はい! 今闇キノコスープをジェッツにたのんで迷宮の入り口に運んでもらいました! 少ししたら数が減るかと思います!」
「! 闇キノコスープ! なるほど! その手が!」
すぐにエルンの作戦を理解してくれたシシリィが、なんとも誇らしい。
いや、エルンごときが彼女の有能さを誇るなど、おこがましいのだが。
それでも説明しなくても理解してもらえたことが、なんとも言えず嬉しい。
「ジェッツには王都に連絡もしてもらいました。そろそろ第一陣の応援が来ると思うんですが……」
「……っ……なにからなにまでありがとうございます、エルンさん。初めてとは思えない、素晴らしい働きです」
「そ、そんな……」
しかも褒められた。
めちゃくちゃ嬉しくて、ひたすらに照れ散らかす。
「魔獣大量発生の規模が難易度10クラスです。わたしたちが迷宮に入った時に、魔獣が少なかったのを覚えていますか?」
「え、あ……は、はい」
「全部上に逃れ、迷宮から出るのを優先していたのです。ベヒーモスは本当に頭がいい。わたしたちだけではとても抑えきれません。騎士団の、あの統率の取れた助力がなければ……」
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