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三角関係勃発! 三角お山の上のトライアングラー‼︎
第1話!
しおりを挟む「げっ」
「第一声がそれとは上等です」
そうは言うけど、ハイネル付きで現れたハーディバルに対して私がこの反応をするなんて、こいつには簡単に予期出来たはずである。
領主庁舎で訪れた人への案内手伝いをしていた私は盛大に顔を歪めて「何の用?」と聞いてやった。
まあ、要件なんて分かってるんだけど。
「お前こそ何やってるんです?」
「見て分かりなさいよ。庁舎のお手伝いよ」
「はぁ。なんでそんな訳の分からない事を」
「だって屋敷でじっとしてられなかったんだもん」
昨日の夜、この町『ユティアータ』に魔獣が現れた。
ただの魔獣ではない。
レベル4というゴジーラ並みの巨大怪獣だ。
魔獣は元々が人間や人間の負の感情や悪い感情に影響された動植物や鉱物などから生まれる。
レベル1やいっても2くらいで騎士や勇士、傭兵に浄化されてしまう。
だからレベル3は何十年、ましてレベル4なんて四千年ぶりなくらい珍しい。
それもそのはず、魔獣は最終的に『邪竜』と呼ばれるとんでも怪獣になるのだという。
黒い鱗に覆われ、臭気と瘴気を撒き散らし、大地も生き物も腐らせて喰らい尽くす……恐ろしい化け物。
そんなものを生み出すわけにはいかないと、この国の騎士や勇士や傭兵がレベルの低いうちに倒し浄化しているのだ。
……本来は。
でも、昨日あり得ない事に、そのレベル4がこのユティアータを集団で襲ってきたのよ。
お陰でお見合いパーティは中止。
一ヶ月前から楽しみにしてたけど……あんな事の後じゃ中止もやむなし。
むしろ、のほほんと楽しんでいられる状況ではない。
町はてんやわんやの大混乱。
高レベル魔獣の襲撃が相次いで、町の人たちは領主のユスフィーナさんを責め始めるほど。
あんなに毎日朝早く、夜遅くまで頑張っていたユスフィーナさんがなんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ!
……と憤慨したいところだけど……どんなにユスフィーナさんが頑張っていたとしても結果的には町の人たちの中で魔獣化したまま帰らなかった人たちは少なくなかった。
複雑よ。頑張ってるのに、結果が出ないなんて悲しすぎる。
その上、それが人の命に関わっているなんて。
ユスフィーナさんの事を思うと私だって何かしたい。
何が出来るか分からないけど、いや、まあ、だからこんな事やってるんだけどね。
「ふーん……。まあ、いいです。渡すものがあるです。お前も来やがれです」
「私に? え? どこへ行くの?」
「領主に挨拶に決まってるです」
決まってるのか。
いや、なんとなくハーディバルが来た時点でそんなこったろうとは思ったけど。
「おはようございます。……ええと、ミスズ様?」
「おあ! おはようございます」
「おはよー」
と、ハーディバルに続きぞろぞろ……というほど多くはないけどアルフ副隊長さんとカノトさんと数人の騎士が庁舎に入ってきた。
なんか徹夜しちゃったから、ついさっきまで一緒にいた気がして「おはよう」が変な感じ。
「朝ごはん用意してありますよ」
「本当~? お腹ペッコリンコ~」
「(ペッコリンコ……)……ありがとうございます。……あの、領主様とエルファリーフ様は……」
「領主室で仕事してます」
「そうですか。朝食はちゃんと摂られましたか?」
「うちのメイドたちは優秀なので……」
マーファリーとナージャが「民の作った野菜やお肉を無駄になさるのですか?」と無理やり食べさせたのだ。
食欲がなさそうなあの姉妹も、民の作ったものと言われれば食べないわけにはいかない。
まあ、食欲が湧かないのは無理もないんだけどね。
気持ちは分からなくもない。
私だって、今日は食欲がなくておかわりはできなかったもん。
……それにしてもカノトさん、ユスフィーナさんだけじゃなくエルフィの事も気に掛けてくれて……ハクラと違ってガチモンの儚い系な上、真面目で優しいのね……!
さすがユスフィーナさんの初恋の人!
この世界で初めて正統派イケメンを見た気がするわ……!
それに比べてアルフ副隊長は……。
何がペッコリンコ~……よ……年甲斐がないと言うか……。
「あ、ハーディバル隊長は朝食どうされます?」
「僕は食べてきましたのでお構いなく」
「分かりました~。んじゃ、俺は部下たちに交代で飯食わしておくんで」
「レーク、騎馬騎士隊の食事が終わり次第引き継ぎをしておいて下さいです」
「はい」
「何人かは置いていきますよ」
「よろしくお願いするです」
サクサクと会話の進むハーディバルとアルフ副隊長。
部隊が違うのに息ぴったりね。
アルフ副隊長がハーディバルの連れてきた部下を引き連れご飯に向かう。
私はカノトさんとハーディバルを領主室に案内する。
まあ、カノトさんは場所知ってるだろうけど……。
ハーディバルも知ってるのかしら?
どちらにしても、なんか私にも用があるみたいだから領主室に同行しないと。
「ハクラは?」
「ユスフィーナさんを手伝ってるわよ?」
途中でハーディバルがそんな質問をしてきて少し驚いた。
へー……やっぱりなんだかんだ気になるのね……。
ハクラが言ってた……「魔力の相性」ってやつ……ハーディバルもハクラの事が心地いいと感じているんだ?
カノトさんが私と同じようにほんの少しだけ意外そうな顔をする。
「…………領主様は、ニュースはご覧になっているです?」
「領主室に映像盤はないし、見てないと思うわよ? ……やっぱり騒がれてるのね……」
「この町は現場なので記者の類は騎士団でご遠慮願っていますが、トルンネケ地方領主は朝の番組に出演していたです」
「え、マジ? ……なんて言ってたの?」
映像盤は私の世界で言うテレビ。
この世界にもニュース番組や、情報番組がある。
三チャンネルだけだけど。
残念ながらアニメはないけどドラマや映画もあるのよ、すごくない?
あ、いや、それよりトルンネケ地方の領主様よ。
ユスフィーナさんをユティアータの領主に指名してくれた人。
カールネント様という地方領主様がユティアータの領主を別な人にする、と言えばユスフィーナさんはどんなに領主を続けたいと言っても辞めなければならない。
半ば祈るようにハーディバルに聞くと、答えは思いもよらないものだった。
「……なかなかかっこいい事言っていたです。やはりカールネント様は人を見る目がおありです」
「え? どういう事?」
「……ユティアータの領主をやってもいいという者は確かに何人か居た。だが、ユティアータの領主をやらせてほしいと懇願してきたのはユスフィーナ・ユスフィアーデだけだった。この言葉の違いが分かるだろうか? やってもいい、とは、随分と上から偉そうに言うものだと思ったよ。ユスフィーナ・ユスフィアーデ、彼女以外の者はユティアータの町を維持する事しか考えていない。それ以上を求めていなかった。だから、ユティアータの領主は彼女以外に任せられない。……だそうです」
「……! それじゃあ……!」
「まあ、言葉通りでしょうね。……それから、カールネント様はこうも言っていたです。今回の件は非常に残念であり、身の毛もよだつほど恐ろしい出来事だった。彼女が領主として力不足なのだから辞めさせてはどうかという声もあるが、それを言うならば彼女をサポート出来なかった体制、それを整えられなかった私にこそ責任がある。このような時だからこそ、町の者や庁舎職員は一丸となり領主ユスフィーナへ協力をしてほしい。私も必要なサポートに力は惜しまない。……との事です」
「……め、めっちゃ良い人ーー!」
なにそれ、本当にかっこいい~!
ユスフィーナさんをがっちり擁護派!
ありがとうございますカールネント様!
とか感動してる間に領主室へ辿り着いた。
「失礼します」
「ユスフィーナさん、エルフィ! ドS騎士……じゃない、ハーディバルが来てくれたわよ」
性格と口は悪いけど実力は間違いない。
こいつがいればまたレベル4が来ても安心ね!
領主室の扉を開けるとユスフィーナさん以外にエルフィとハクラが居た。
ハクラはあれでかなり政治にも明るいらしくて、フリッツ……ではなくフレデリック王子がお城に居なかった時…………まあ、フリッツとしてユティアータに滞在していた時期よね……はジョナサン王子と一緒にフレデリック王子の分のお仕事も処理していたんだって。
……意外となんでも出来るのよ、ハクラって。
「まあ、ハーディバル様! 昨日はありがとうございました」
「ハーリィ~!」
「その前に」
ハーディバルの顔を見た瞬間、ぱぁあ! っと笑顔になったハクラは両手を広げて飛びつこうとした。
即拒否られたけど。
「お渡したいものがあります」
「なんでしょうか?」
事務机に向かっていたユスフィーナさんも立ち上がって、ハーディバルの前へと移動してくる。
応接用テーブルに並べられた三つの細長い小さな箱。
そこにはそれぞれ花のあしらわれたネックレス。
小さな紫色の、八角形の魔石が中心にある。
うわー、かわいい~っ!
「まあ……女神花ですわね……愛らしいですわ」
「ハーディバル隊長、これは?」
「攻撃無効化魔法が入っている魔石のネックレスです。一度だけですが、自動的に攻撃から所有者を守ります」
「自動的に!? そんな魔法あるの!?」
ハクラが大声を出す。
私とエルフィとユスフィーナさんに差し出されたかわいいネックレス。
これにハクラが驚くような魔法が入っている。
……確かに自動で発動する魔法なんて初めて聞いたわ。
私が異世界の人間だから、って感じじゃない。
エルフィやユスフィーナさん、カノトさんもびっくりしてる。
「……今朝、城の厨房をお借りしてこれを作っていたのですが」
と、謎のバスケットが取り出される。
いやいや、どこに持ってたのよ!?
結構大きいわよ、そのバスケット!?
「なにそれ?」
「ドブおん、……異界の民に食わせる餌、……ではなくお菓子です」
「言い直さなくて良いわよ、もう……あんたになに言われてもこっちは響かないっつーの」
「ふん。……とにかく、朝食後、ジョナサン殿下は十時のおやつ用にお菓子を作るのが日課なんです。それに便乗して作って来たのですが」
「十時のおやつって……」
「えー! ハーディバルの手作りお菓子!? 食べたい!」
「…………。……その時にたまたまツバキ様に出くわしまして」
「え?ツバキさんが厨房に!? ……出歩いて大丈夫なの、っていうか珍しいね、ツバキさんが人間に話しかけるなんて!?」
「お菓子を献上したら、ネックレスの魔石に自動的に発動する魔法をかけてくれたです」
「え!? ツバキさんが人助け的な事を!? やっぱりハーディバルのお菓子美味しいから!」
「……お前少し黙れですハクラ……!」
うん。本当にな。
いや、ツッコミどころがありすぎてどこから突っ込めば良いのかもう、マジで分からなかったけどさ……。
「……あ、じゃあこのネックレスのデザイン選んだのヨナでしょ? ハーディバルがこんなに可愛くてセンスあるやつ選べるわけないもんね」
「その通りですけど殺すぞ」
「ジョナサン殿下が!?」
「……正確には兄とジョナサン殿下です」
「へぇ~……でも、なんで?」
ハクラじゃないけど私たちも「なんで?」だ。
普通に可愛いし性能も間違いないから嬉しいけど……。
……でもそうか、ジョナサン王子……趣味っていうかセンスもいいのね。
………………若干……、若干……十時のおやつを作るって部分が気になって仕方ないんだけど。
「レベル4を何らかの組織が生み出している可能性については聞いていますか?」
「は、はい」
「……敵の狙いがはっきりしない以上、領主とその肉親には出来るだけ備えて欲しいです。お前のはおまけです」
「……そうなんだ……。なんにしてもありがとう」
おまけでこんな高性能の可愛いネックレスがタダで貰えるなんてラッキー!
んー、でもお花の形は三種類。
おまけで貰えるんだし、お花のデザインはエルフィとユスフィーナさんが優先で選んでもらおう。
応援ありがとうございます!
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