終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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8歳編

一目惚れ(1)

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「よくお似合いです、ヒューバート様」
「ええ、きっと婚約者候補のお嬢様もときめきますわ」
「そ、そうなるように努めるよ」

 ——翌朝、メイドたちが俺を綺麗に洗って仕立てた衣装を着せてくれた。
 服を着せてもらうって、未だに慣れない。
 約束は午後からなのだが、ハヴェルが気を利かせて午前中の授業を潰し、準備に充ててくれた。
 理由は簡単、聖殿が時間を守るとは思えないからだ。
 だって夜遅くに——普通なら寝ている時間に、だ——今日の予定を無理矢理ねじ込んでくるんだから。
 そうしたら案の定。

「大変です! ヒューバート様の婚約者候補の方が、今お着きに——あれ?」
「もんだいない。すぐに庭に通してあげてくれ。おれもすぐに向かおう」
「は、はい!」

 血相を変えて飛び込んできたメイドが、準備万端な俺の姿を見てキョトンとする。
 ハヴェルの思っていた通り、王家に恥をかかせたくて仕方ないみたいだな、聖殿は。
 こんな非常識な真似をして、王家が困るのを楽しんでるのだろう。
 漫画のヒューバートは年相応の子どもだったと思うから、きっとこんなふうにされたら腹が立って仕方なかっただろうなぁ。
 まあ、俺は気にしないけど。
 正直なところ、レナは『救国聖女は~』の漫画を読んでた頃から可愛くて好きだったし、会うの楽しみなんだよな。
 婚約破棄しなくていいなら、普通にお付き合いをして結婚してもいいってことだし?
 問題は婚約破棄ものにありがちな「婚約破棄したけど元々愛し合ってなかった」パターンだったことだ……!
 レナの多忙さで漫画のヒューバートとレナは愛を育む暇もなかった。
 婚約破棄を避けるためにも、レナに国から出ていかれないためにも、これは課題だろう。
 まあ、まずは第一印象。
 出会いのシーンからだ!

「お待たせしました」

 さすが父の側近ハヴェル。
 庭にはテーブルとケーキセットが用意してある。
 昨日の今日で、面会に十分な準備を終わらせているなんて優秀!
 きっと使用人のみんなが頑張ってくれたんだろうな……。
 この頑張りを無駄にしないためにも、レナに俺を好きになって守らなければ!
 死にたくないので!!

「あ……」
「…………!」

 俺は油断していた。
 そもそも『救国聖女~』は前世でお気に入りの漫画だったのだ。
 なぜなら主人公のレナが健気で可愛かったから。
 俺が令嬢ものや聖女ものなどの女性向けを好んで読んでたのも、女の子可愛い、っていう気持ちからだ。
 リアルの彼女はほしいけど、現実にこんな健気で可愛い女の子存在するわけがねぇ、という諦めが大きかった。
 だって俺の前世の名前陽夢浪ひむろだぜ?
 このキラキラネームを女の子に呼ばれる度に、母さんの好きな芸能人の顔が頭をよぎるんだ。
 名前の由来を知った女の子だって、俺と同じく「あの芸能人」が浮かぶようになる。
 でも、今の俺は陽夢浪じゃなくてヒューバート。
 そして俺の名前を笑わない、現実には存在しない健気で可愛い女の子——。

 レナ・ヘムズリー。

 漫画で見た時とは違う、幼い女の子。
 清楚な白菫色の髪は肩より少し短い。左右に編み込まれ、花のカチューシャで留めてある。
 澄んだ空のような薄花色の瞳。
 儚げな白い肌と、薄い桃色の唇。
 シンプルな白のワンピースには、レース一つない。
 だが、それがなおさら彼女の華奢で清楚な肢体を際立たせている。
 そう、シンプルに——。

「か、かわいい!」

 この世にこんな可愛い生き物が存在するものなのか!?
 やはり二次元……二次元は三次元を凌駕する……!!
 え、まってかわいい。
 冗談抜きでかわいい。
 かわいいの権化?
 かわいいの具現化?
 現実にこんなかわいい女の子存在する?
 こんなかわいい女の子実在するぅ!?
 ヤバい、想像を軽率に軽々超えられて動揺を隠せない。

「で、殿下、全部声に出ておりますよ」
「だって、え? 待って、俺この子、え、かわいい! これは妖精? じつざいのじんぶつ? げんじつ? かわいすぎない!?」
「殿下、落ち着いてください。全部声に出ておりますから!」

 隣のメイドに気がつけば話しかけており、彼女含め全員に生温かくて困ったような笑みを向けられていた。
 ヤバ、はしゃぎすぎた。
 こほん、と咳払いして胸に片手を当てる。
 落ち着け、そうだ落ち着くんだ、俺。
 第一印象、第一印象!

「初めまして、レナ・ヘムズリー嬢。おれはヒューバート・ルオートニス。この度はご足労ありがとうございます」

 王子としてはかなりへりくだった対応だろう。
 だが、レナは一応聖殿側の人物だ。
 今回の無茶振りも聖殿側としては王家を貶める意味もある。
 そんな中で俺がこんなに下手に出れば、レナは萎縮してしまう。
 それが狙いだ。
 昨日一晩考えて、王家と聖殿の力関係、次期聖女として、王族の婚約者として、現状を理解してもらいたい。
 そんなことしなくても、レナは聖殿からの要求を突っぱねるだろうけど——だって漫画ではそうだったし——俺の目的は彼女との円満な婚約者生活と結婚!
 ルオートニス王国から出て行ってもらっては困るので!
 仲良くしたいわけですよ! すごく!
 聖殿の要求を突っぱねたあとのレナは居場所を失う。
 俺はそれを逆手に彼女を庇護すればいい。
 無論、こんな弱っちい王家の権威では限度があるとは思うけど。
 重要なのは『次期聖女』を俺の味方につけること!
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