178 / 385
ハニュレオ編
蠢くもの(3)
しおりを挟む「エド! もうやめましょう! こんなことをして王になっても、国民も家臣もあなたを王として認めないわ!」
「うるさい! 下がっていろスヴィア!」
「きゃあ!」
「!」
あいつ……。
スヴィア嬢を裏拳で殴りやがった。
女性に手を挙げるとは、紳士のやることじゃない。
クズめ……!
「救いようがなさそうだな」
「貴様は……! ルオートニスの王子! やはりその兵器を父上に売りつけるつもりだったのだな!」
「兵器じゃねーよ。石晶巨兵は対結晶化した大地魔道具だ」
「そんなでかい魔道具があってたまるか!」
「あるんでーす。現にここに。視野が狭いな」
「っ! 黙れ! その兵器もおれのものにしてやる! そこに居直り待つがいい!」
うーん、どうしよう。
石晶巨兵を兵器だと思われているっぽい。
もしくは、ギア・フィーネと石晶巨兵の違いがわかってない?
石晶巨兵はこんなに可愛いのに……?
というか、どうしような?
俺は石晶巨兵を兵器化しようとする輩を、許すつもりはない。
石晶巨兵を兵器として使おうとする者には、ギア・フィーネと我が国の守護神の力で持って対抗する。
早くもその時が来てしまうのだろうか?
「ええい、なぜお前はそうなのだ! ヒューバート王子はその技術を他国に提供し、共に手を取り合って歩んで行こうと言ってくるほどだというのに!」
ソードリオ王、一呼吸でそこまで叫べるのすごいな……!
ご年齢の割にやはり元気でいらっしゃる。
「おれは当然の権利を主張しているだけです! 侯爵令嬢の母から産まれた私が、なぜ平民上がりのマロヌに劣るのですか!」
「人の話を聞かないからじゃないか?」
「ヒューバート様っ」
「あ、しまった。つい」
レナに袖を引かれてからハッとする。
やばい、声に出ていたか。
いや、だってさー、マロヌ姫は俺の話もちゃんと聞いて返事してくれたしさー。
「血筋からいって、おれが王太子になるのが道理でしょう!」
よかった。
話を聞いていないから、俺の呟きも聞こえていなかったっぽい。
良し悪しだなぁ。
「……そのようにすぐ激情に流される者が王太子だと? 笑わせるでない。何度も言っているであろう。自分自身で考えられぬ者が、国王になどなるべきではないのだ。お前は自分のことを客観的に見られぬ。周りの者の都合のよい言葉ばかり聞き、自分の言葉のように語る。まったく持って情けない」
「おれはおれの意志で話しています!」
「いいや。お前は自分自身で考えぬ。考えておればこんな軽率なことはせん」
それなー。
ソードリオ王がとても正論。
しかし、こうしてエドワードとソードリオ王が口論している間にエドワードサイドの貴族の私兵たちが、周りを囲んでいく。
当然武器も持っており、騎士たちが俺たちを守るように陣形を展開してくれているがあまりいい状況ではない。
「ヒューバート様、ど、どうしましょう……っ」
「軽率だなぁ」
「え?」
取り囲まれている状況は確かにいい状況ではないのだが、ここは騎士団の施設だ。
人質が数名いるのをなんとかすれば、俺たちを囲む私兵たちを、施設内にいる騎士たちが取り囲むことになるだろう。
つまりまあ、エドワードたちに許されている道は短期決戦のみ。
それなのにソードリオ王の思惑に——時間稼ぎに乗り、ベラベラと長々口論している。
……本当に愚かな……。
思わず「ふぅ」と溜息が出ちゃう。
俺もあんな息子だったらどうしよう?
いやいや、俺とレナの子どもがあんなアホになるはずがない。
甘やかさずに、しっかり育てないと……って、なにを考えてるんだ!
「いやいや、レナとの子どもだなんて、こんな状況で考えるとことじゃないよ。へへ……でも俺もレナも16歳だし、結婚できる年齢なんだよな」
「ヒューバート様!? ほ、本当になにを考えてるんですか、こんな時に!」
あ、ルオートニスは結晶化した大地の侵食や、晶魔獣の襲撃などもあり成人年齢が18歳。
そして、結婚可能年齢が男女共に16歳となっているのだ!
正直生きるのキツい世界なので、父上の代では「もう少し成人年齢と結婚年齢引き下げる?」という話にもなっていた。
結晶病で子どもが死ぬこともあるしね。
世知辛い世の中ですよ、異世界も……。
「ヒューバート、あまりふざけていい状況ではないぞ。戦場では真面目にやれ」
「すみません」
うちの戦神様に叱られたので真面目にやります。
「父上! いい加減におれに王位を譲ると言ってください! でなければ今この場で父上を殺さなくてはならなくなりますよ!」
「いい加減にするのはお前の方だ、馬鹿者め! 儂を殺して得た王位を、民や家臣が認めると思うのか!」
スヴィア嬢と同じことをソードリオ王が言うと、エドワードがわかりやすく表情を歪めた。
さて、エドワードもそろそろ限界そうだな。
癇癪がくるぞ。
「こ、殺せ!」
「……本当に愚かな……!」
「エド、やめて!」
「おとうさま!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。
ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて…
幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。
王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。
なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。
自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。
11月14日にHOT男性向け1位になりました。
応援、ありがとうございます!
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる