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ハニュレオ編

蠢くもの(5)

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 ……いや、あれが甘いんだろう。
 誰も殺さずにこの場を収めたかった。
 俺が甘いのだ。
 けど……わかっていても、それでも、どうしても!

「エドワード!」
「うっ! ぐぁ!」
「エド!」

 というわけで、隙をついて俺がエドワードをぶん殴る!
 顔面を、グーで。

「スヴィア嬢も[リフレクションダークネス]の中へ……」
「……っ」
「…………」

 避難させようとした。
 けれど、スヴィア嬢は倒れたエドワードのところへしゃがみ込んでしまった。
 涙を溜めて。
 裏切られておきながら、それでもエドワードを見捨てないのか。
 ……ああ、弱いな、こういう人に。

「な、殴ったな……! 父上にも殴られたことないのに!」
「うわぁ、そのセリフ本当に言うやついるんだぁ?」
「なんだと!?」

 某有名アニメの主人公のセリフじゃん。
 前世ではすっかりネタと化していたが、リアルで言うやつは異世界にいた!
 ハハ、ワロエネェ。

「あ」
「ひっ!」

 俺の右肩を誰かが叩く。
 見上げればシズフさん。
 無表情で、スヴィア嬢とエドワードを見下ろしている。

「こ、殺してはダメです。責任を取らせなければなりません」
「そうか」

 多分今の今まで寝てただろうに。
 外が騒がしくて起きたのか?
 俺がエドワードを庇うと、あっさり納得してラウトの方へと向き直る。
 いや、んん?
 ラウトの方ではない。
 ソードリオ王とマロヌ姫の方だ。
 ここは結界の外だが、数名の騎士が[リフレクションダークネス]の外に出てきてエドワードを取り押さえる。
 ここはもう任せてよさそうだな、と[リフレクションダークネス]を解く。
 一斉に騎士たちがエドワードの兵を取り押さえにかかり、駆けつけた騎士たちも加勢して鎮圧は時間の問題。
 とりあえずこれ以上死者は出なくて済みそうだな、と息を吐いた瞬間だった。

「ぐぁ!」
「オズ!」
「は!?」

 シズフさん、俺の隣にいたと思ったのに、なぜかオズの首根っこを掴んでおられる。
 そのまま持ち上げ、高身長のオズがあっさりと地面から足が浮く。
 しかも片手で。
 しかし首に食い込む指の力は異様だ。
 あれでは!

「シズフさん!? なにしてるんですか!?」
「殺す」
「はいいぃ!?」

 聞き間違いかな?
 と、希望的観測で聞き間違いを希望したけど所詮は希望。
 首を掴んだままシズフさんが次に行ったのは、振りかぶって地面に向かってぶん投げた。
 人間を。成人男性を。
 しかも間髪入れずにオズの顔面を、精一杯踏みつけたのだ。
 ——マロヌ姫の、目の前で。

「オズーーー!」
「うわああぁっ!」
「な、なっ!」

 俺でも叫ぶわ、こんなん。
 シズフさんが思い切り踏みつけた、それだけでオズの顔面だけでなく、地面まで広範囲に砕けたのだ。
 腰を抜かさなかった俺を誰か褒めてほしい。
 ラウトですら「ええ……」って驚いた顔してるじゃん!
 砕けた地面に飛び散る血飛沫。
 頭を完全に失った死体が、ビクビクと痙攣する。

「…………え……ちょ、ちょっと……」

 俺ももう、なにが起こっているのか。
 色々な感情で体がガタガタ震える。
 オズは一応、マロヌ姫付きの従者という立場。
 え? これ俺らの責任になる感じ?
 シズフさんは一応、ルオートニス預かりだもんね?
 こ、こ、国際問題なんですけど~~~!?

「って、なにしてるんですか!」

 しかしまさかのそれで終わらない。
 シズフさんはライフルを取り出すと、痙攣して血を噴く死体に、さらに撃ち込む。
 し、死体撃ち~!
 人間としてモラルが一番よろしくないアレ~!
 慌てて止めるが、ライフルのエネルギーが完全になくなるまでしっかり撃ち抜きやがった、この人。
 き、鬼畜の所業~!

「シズフさん、なにしてるんですか! ひ、人としていけないと思います!」
「下がっていろ。死ぬぞ」
「いや、そういうわけには——」
「ラウト・セレンテージ」
「ぎょわぁぁぁぁ!」
「ヒューバート!」

 ひょい、と胸ぐら掴まれ、ぶん投げられた。
 投げられた先はラウトのところ。
 ラウトとラウトに受け止められて、怪我はないけどどういうことだよ!

「ラ、ラウト! シズフさんがオズさんを殺しちゃったんだけど!? 殺しちゃったんだけど!?」
「落ち着け。
「! あ……じゃあ、なにか理由が?」

 振り返ってみるが、でも、なんつーか、もう殺っちゃってんだよなあ……!
 でも、もしかしたらなにか事情があるのかもしれないし!

「シズフさん! 理由! 理由を教えてください! どうしてオズさんを殺したんですか!」
「…………」
「こらぁー! ちゃんと答えて——」

 これはまた近くに行ってきちんと説明させるべきだな、と一歩前に出た時、痙攣していたオズさんの体が立ち上がった。
 なくなった首からは、ピューピューと血が噴き出し続けている。
 ……いや、でも……立ったね?
 思わずラウトを振り返ると、ラウトも目を見開いて驚いている。
 視線をオズさんの立ち上がった死体に戻す。
 グジュ、と嫌な音を立てながら、首から上に骨や肉や神経が伸びていく。
 は? は……?

「さ、再生してる?」

 ズズズ……と、瞬く間に頭蓋骨が出来上がり、次に肉と神経が全体に広がる。
 目玉がぽこ、ぽこ、と出てきて皮が張った。
 最後に長い黒髪が早送りのように生えて、左腕がその髪を爽やかに梳く。

「あーあ、せっかく擬態したのに……解けちゃったじゃないの。どうしてくれるのさ、シズフ」

 声も違う。
 顔は、初めて見たが……多分骨格からして別人。
 青かったストレートの長髪は、ツンツンと外に跳ねた黒い長髪に。
 妖艶な笑みはそのままだが——死人が、生き返った?

「殺す」
「ははん、やってみなよ。死にかけの強化ノーティス。返り討ちで殺してあげる」

 いきなり殺意MAXーーーー!?
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