268 / 385
二人の聖女と悪魔の亡霊編
開幕は突然に
しおりを挟む「だが、俺の一枚上手を行くとはな。三号機の登録者ではなくなった上、目的も達成していたからここまで警戒されるとは思わなかったぜ」
「も、目的って、オズワード王がシャルロット様に求婚した件の真意を問う、ですか?」
「そう。っていうかそれ以外にないだろ」
それが一番予想外だったよ……!
「ただの雑魚かと思ったが雑兵に格上げしておいてやろう」
それは格上げなのか……?
んー、いや、魚から人になったから格上げなのか……?
「ヒューバートをルオートニスに帰国させた方がいいのではないか?」
ここにきて新しい声。
これはラウトの声だ。
降りてきたのか。
「ラウト、やりすぎではないか?」
「舐めた真似をしたのは奴らが先だ。大方ギア・フィーネがここにあるから、まとめて始末してしまえとでも思ったのだろう。ギア・イニーツィオも宇宙の者どもから見れば新型の脅威。つまりはやる気だ」
なにやらディアスが「なにも落とさなくともよかっただろうに」と頭を抱えている気配。
それに対してラウトもこの言いよう。
……もしかして、結晶病の権能って宇宙の衛星兵器まで届くの?
マジ?
「ふぅーん……いよいよ直接手を出してきたか。そうなると情報がほしいところだな」
なんかファントムが不穏なこと言ってる。
確かにこれほど直接的な攻撃は、宣戦布告とも受け取れる。
攻撃されたのはルレーン国。
でもここが攻撃されたのは、多分俺たちがここに滞在していたからだ。
巻き込んだのは俺たちの方……?
「ヒューバート、セドルコ帝国の方に間者は送っているよね?」
「へ? は、はい。父上が」
「君、もうルオートニスに帰りなよ。あとの交渉は私がやっておくから。ぼくの予想が正しければ、セドルコ帝国は宇宙の者たちと接触している」
「え!」
セドルコ帝国が……宇宙と……!?
「大方石晶巨兵を奪うのに力を貸す。石晶巨兵を手にいれられれば次の皇帝はお前で決まりだ、とか言って皇帝候補たちを誑かしたんだろう。宇宙の科学力を手に入れれば、不可能ではないしね。メリリア元妃を連れ出したのも、ルオートニスの王宮内の情報を手に入れるため——かな」
「城の中を、ですか!?」
「そう。あの女の使い道はルオートニスへの内政干渉ではなく城内の見取り図。……王家の者しか入れない、内部中の内部」
ナルミさんの声がどんどん固くなる。
だとしたら、父上や母上、レオナルドやライモンドも危険なのでは……!
「帰国して城内の改築をしなさい。今のお前なら、聖殿に奪われてきた王家の権威を取り戻した証とか、生まれたライモンドのために新たな別棟を建てるためにとか色々理由をつけてできるはずだ。ギギとアグリットを王宮内に入れて、隠し部屋など増やしておくこと」
「は、はいっ」
「城の研究も研究塔に全部移動させなさい。シズフとデュレオがいるから大丈夫だと思うけど、このタイミングでルオートニスがセドルコに攻め込まれている可能性もある」
「っ!」
確かに……。
俺たちを始末したのと同じタイミングで攻め込むのは、民や王宮への精神的なダメージにもなる。
くっ! まさかこんなことになるとは!
「ディアスなら機体ごと転移して戻れるよね?」
「問題ない」
「ジェラルドとラウトと一緒に機体ごと帰国しなさい。本当にセドルコ帝国が攻め込んできたのなら、わからせてやるといい。たとえ千年後の宇宙の科学力であっても——ギア・フィーネは遅れをとることはないって」
「ナルミさん……」
笑顔が、怖すぎるんですけど……。
「まあ、君は乗っちゃダメだけど」
「それは、ハイ」
というか俺以外のギア・フィーネが四機揃ってる時点で勝ち確がすぎる。
敵さんが可哀想確定でしょう。
「と、いう感じでルオートニスは楽しいことになっているかもしれないけれど、悪魔の亡霊はお祭りに参加しないの? 自分の機体はさっき壊しちゃったから無理かな?」
「はあ? 薄葉甲兵装があるんだから問題ねぇよ」
「え! ファントムも来るんですか!?」
「楽しそうだからなぁ」
ニタリ、とそれはもう邪悪な笑み。
オーバーキルになりませんか。それ。
というかナルミさん、しれっとファントムを巻き込んだ。
大丈夫なのか、これ、色々!
「ミレルダ嬢、シャルロット様、近くにいます!?」
「おります。聞いておりましたわ」
「あんな勝手なこと言ってますけれど大丈夫なんですかね!?」
「わたくしたちの言うことを聞くような方ではありませんから、お好きになさればよろしいかと」
「ええええええええ」
それって俺の言うことも聞かない超俺様を丸投げするということですが!?
いや、本当誰の言うことも聞かないだろうけれども!
「それに、ルオートニス王国もこのような危険に晒されているのでしたらお急ぎください。ですが、ヒューバート様が少しでもお元気になられましたらまたお越しくださいね。わたくしとミレルダで必ず完治させてみせますわ!」
「そうだよ! 絶対ボクたちに治させてよね!」
「あ、う、うーん……わ、わかりました」
俺の治療をさせてほしい、というのは、ルレーン国とシャルロット様の顔を立てる意味もあるんだろう。
それは断れない。
「では、一度帰りましょう。俺は役に立てないけれど」
「了解した。ジェラルドに通信を入れてくれ、ラウト」
「ああ。——だが、今帰ったところでもう終わっているだろうな」
フッ、と笑うラウト。
……その笑顔の邪悪さに、俺はまだ見ぬ敵へ同情を感じた。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。
ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて…
幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。
王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。
なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。
自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。
11月14日にHOT男性向け1位になりました。
応援、ありがとうございます!
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる