終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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18歳編

セドルコ帝国代表団(1)

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 数日後、ルオートニスへセドルコ帝国の代理政権代表団が訪れた。
 代表団代表はイリス・エリステレーン伯爵。
 金髪碧眼の美人が騎士の礼服のような装いで、おっさんを引き連れて現れた。
 濃いなぁ、色んな意味で。
 出迎えは俺とレオナルド。
 レオナルドにも外交を覚えてもらいたいし、隣にナルミさんがいるとはいえ俺もまだまだ不慣れだから。
 しかし、顔がガンギレで第一印象めっちゃ怖い。
 おかしい。
 和平交渉のはずなんだが。
 適当に挨拶して会議室に通し、ひとまず今回の会談の目的を確認し合う。
 そこズレてると事前のやり取りで決めていた部分までズレちまうもんね。
 で、お互いに和平を望んでいるのは間違いなく、セドルコ帝国を解体して新国とし、ハニュレオの傘下——属国となることを、代表団はお通夜ムードで受け入れた。
 国力を考えて、他の選択肢がないので仕方ない。
 ナルミさんの言う通り、俺が報告で聞いていた以上にセドルコ帝国国内は荒れ果てていた。
 重税で餓死者が毎年四桁単位で出ており、滞納すると奴隷として強制労働。
 しかもそれは帝都以外のすべての都市、町、村が対象で貴賤——貴族平民関係なし。
 それに抗議する貴族は人質を差し出すことになり、帝都ならば地方よりまともな暮らしができるかもしれないと自分の娘や息子を人質として差し出す貴族まで現れる始末。
 地方が衰えていくのは必然で、豊かになる一方のルオートニスへ難民が集中すると、強制連行で連れ戻してそのまま奴隷にしていった。
 国民の三割が奴隷化し、地方貴族は激減。
 これらの悪行はすべて皇帝候補だった者たちの指示であったらしい。

「皇帝陛下はなぜご子息ご息女の所業を咎められなかったのです?」
「……実を言いますと、皇帝陛下は約十二年ほど前に声を失っていました。結晶病が喉に発症し、聖女の治療を受けたのですが影響が残ってしまったのです。そのため書面で指示を出していたのですが、それを逆にご子息たちに悪用されてしまいまして」
「うわあ」

 思わず声が漏れてしまった。
 責任だけが、皇帝に押しつけられる形となっていたらしい。

「それでも陛下は妃たちにご子息たちの教育をお命じになったのですが、甘い汁を吸うのに夢中になり、結局どの妃も動きませんでした。そこで陛下は、我ら忠義の厚い者に次期皇帝の座を譲る条件——箱と鍵をお預けになられたのです」
「これがそうなのですね」

 持ってきて、って頼んだけどマジで持ってきてくれたのか。
 エリステレーン伯爵他、代表団でついてきた五名の貴族が四本の鍵と小箱をテーブルに差し出した。
 皇帝はやはり愚君ではなく、失った声の代わりに好き放題し始めた身内にそれは心を痛めて次期皇帝には民や家臣を思いやる人物を推薦するつもりだったらしい。
 家臣たちとよく話をすれば、鍵を持つ貴族がわかる。
 鍵を持つ貴族たちは「汝が帝位を与えるに相応しいと思えたならば、その者に鍵を渡すように」と命じていたそうだ。
 しかし、帝都から出ない交代候補たちは、結局ただの一本も鍵を見つけられず、なんならまともに探そうとさえしなかった。
 自分たちの今の生活が、楽だったからだろう。
 なにより、三年ほど前まで皇帝は存命だった。
 体調は、ずっとよくなかったようだけど。

「陛下はさらに、『もし三年経っても箱を開ける者が現れなければ、セドルコ帝国をかつての民主主義国へ変えるように』と法を整えておりました。奇しくも帝都に巨大な建物が落下してきたその日が、陛下が亡くなった三年目。我らはあの出来事を、陛下の思し召しと考えます」
「そう、でしたか……」

 そんなクリティカルなことあるぅ?
 神の思し召しでもありますね。怖。
 おいおい、レオナルド、このタイミングでドヤ顔するのやめなさい。
 いけない。
 それはいけないぞ。

「この箱と鍵を牢にいるステファリー殿下にお渡ししても?」
「ステファリー殿下を最後の皇帝とし、陛下の遺言を実行させるというお話ですね?」
「はい。そちらの希望としては処刑、とありましたが、やはりこちらとしては穏便に国を終わらせて国民に気持ちの整理をしてほしい。もちろんそれは平民だけでなく、貴族も同じです。体制の変化も大きい。これまで貴族にすべて任せていたことを、教育不足の平民にも強いなければならない。無理矢理進めれば間違いなく上手くいきません」
「っ」

 代表団はエリステレーン伯爵より年配の、痩せたおじさんたち。
 彼らは最初からそのつもりだったらしく、俺の言葉に静かに頷いていた。
 どうやらあの強硬な書面内容——ステファリーへの処遇は、エリステレーン伯爵の強行だったようだ。

「し、しかし! ルオートニス王国への度重なる侵攻は、決して許されるものでは……!」
「それはもちろん。許しはしませんよ。被害こそ出ていませんが、賠償はしていただきます。しかしそのためにも、セドルコ帝国には安定してもらいたいんですよね」
「うっ」

 この人、俺より年上だよな?
 まあ、普通に国交に不慣れなんだろうけど。
 しかしおっさんたちが「これだから女は」みたいな目でエリステレーン伯爵を見ているのが、いささか気に入らない。
 お前らなら上手く交渉できる、みたいなのやめろ。


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