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王宮の朝(1)
しおりを挟む陛下が私の方を見下ろす。
そして、魔術師の方を王杖で示した。
「今、我が国最高の魔導師エルネスが[鑑定]した結果、イングリストの祝福はエーテル嬢の呪いにより効果を相殺された! よって、エーテル・フローティア侯爵令嬢をイングリストの婚約者に推奨したい! これは我が国の未来に関わる婚姻となるだろう! ……よいか、フローティア侯爵、エーテル嬢よ」
「「……」」
思わずお父様と顔を見合わせてしまう。
じ、実質断れないやつ。
「よいか?」って確認だもの。
「ふ、ふぅ……」
「エ、エーテル!?」
「エーテル嬢!?」
事実は小説よりも奇なりって、本当なんだなぁ。
なんてことを頭の片隅で考えながら、私の意識は遠ざかった。
***
「…………。……?」
見知らぬ天井、ならぬ天蓋。
ずるりとベッドから抜け出してみたものの、やはり知らない床、というか絨毯。
な、なに? この高そうな絨毯は……!
どういうことなの……!?
「……? え? ?」
それに、部屋全体を見回すと、見たこともない調度品の数々。
窓枠の細部にまでこだわりが伺える。
テーブルの上には果物まで新鮮な状態で置いてあるわ。
な、なに? ここ? 私誘拐でもされたの? 厄災を振り撒く私を誘拐? なんの得があるの?
血の気が引いて、また倒れそうになる中、眠る前の記憶を一生懸命引き摺り出す。
「……………………」
そして改めて、部屋を見回す。
なるほどね、お城の一室に運ばれたのね。
床に正座して天井を見上げた。
わあ~、金ピカだぁ~。
「っ、ぐっ!」
現実逃避してる場合じゃない。
お、王子様の婚約者になってしまう。
いや、断れないのなら決定済み?
平民同然の生活しかしてこなかった私が王子様の婚約者なんて、王子妃なんて無理に決まってるでしょーーー!?
……と、叫びたいけれど、動き回るとなにが起こるかわからないからじっとしている。
正気なんだろうか、王様は。
しかし、説明された内容は納得してしまうものだった。
実際王妃様は座っているだけでも具合が悪そうだったもの。
第一王子様は、王妃様よりも衰弱してしまっているらしいし。
本当に私の呪いで王妃様や第一王子様が助けられるのなら、婚約者になるのも仕方ないんじゃ……。
そ、それに、待って?
本当にイングリスト様と結婚するかどうかは話が別じゃない?
王族は一夫多妻と一妻多夫が許されているって、お父様が言ってたわ。
そして、そんな中でも自分は「母さん一筋な男なんだ」とドヤっていたわね。
じゃ、なくて……それなら別に私がイングリスト様の側仕えで、お支えすればいいのでは!?
なにも婚約者でなくても!
そうだわ、そうしましょう!
イングリスト様にお会いしたら、相談しましょう!
「お嬢様、起きてらっしゃいますか?」
「エーテルお嬢様?」
「きゃ! な、なんで床に座ってらっしゃるんですか!?」
「あ、リリィ、ノリガ、エマ。おはようございます」
「「「おはようございます」」」
「ではなく!」
部屋に入ってきた、私の侍女たち。
彼女たちに床から持ち上げられるように立たされて、鏡台の前へと引き摺られる。
「ご婚約おめでとうございます」
「ううっ……! や、やはり婚約してしまったの……?」
「当然です! 国王陛下たってのお願いでしたから!」
「それにイングリスト殿下からも正式に申し込まれていたではありませんか!」
三人が嬉しそうに「ねー!」と言うので、恥ずかしいやら困るやらで頬に手を当ててしまう。
そ、そうなのね、やはり婚約してしまったのね。
しかもリリィから「イングリスト殿下から、エーテルお嬢様へお花のお見舞いも届いてますよ」という報告とともに花瓶が指さされた。
ちょっと想像していた十倍の花束。
か、花瓶の大きさからあの量は、大丈夫なのかしら?
そんな中、髪を梳かされると、頭の後ろで「ぱき」という不吉な音が聞こえた。
「あら、櫛の歯が折れてしまいましたわ。まだ新しいのに」
「はい、新しい櫛」
「ありがとうノリガ」
「……」
三人とも、やはり私の呪いに耐性が高すぎる。
そのあとも「服に糸が」「はい、糸切りバサミ」とか「花束から蜂が」「殺」とか「花瓶が割れて水が溢れたわ」「ハイ、雑巾」「新しい花瓶よ」と、私の呪いで起こるあらゆる事象をサクサクと片づけていく。
ゆ、有能がすぎる……!
「はい、お嬢様」
「あ、ありがとうございます……」
そんな三人に仕上げられた今日の私も、普段の生活からは考えられない姿。
髪はきちんと手入れされ、化粧も施され、まともな服を着させられる。
普段がアレなのでとても恥ずかしいわ。
そして三人のやり遂げた顔の爽やかさ。
「朝食はイングリスト殿下がお迎えに来るそうなので、もう少しお待ちくださいね」
「ええ!? イングリスト殿下自ら!?」
「殿下の祝福は周りの人間から幸運を吸い取り、心身まで衰弱させてしまうもののようですからね」
「イングリスト殿下も王宮では離れにお住まいなのだそうですよ……」
「……!」
少し困ったように微笑まれて、教えられた。
イングリスト殿下も、私と同じように家族から離れて生活している……?
でも、きっとそれは——。
「エーテル嬢、おはようございます。もう起きておられますか?」
「!」
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