呪厄令嬢は幸運王子の【お守り】です!〜外堀陥没で溺愛ルートのできあがり〜

古森きり

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魔女の呪い

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「あなたがエーテルに呪いをかけた峠の魔女……。なぜ今ここに?」
「まあ! このあたしに物怖じしないなんて、貴族どもと違って王子は見どころがあるじゃない。祝福を授けたのがポンコツ女神でなければ、いい王になっていただろうに、もったいないわね」
「エーテルにこれ以上危害を加えるというのなら、あなたを討伐対象にせねばなりません。お引き取り願います」

 私の前へ立ち、魔女から庇ってくださる。
 ああ、でも危険すぎる。
 ダメ、王太子であるイングリスト様を前に出すなんて!
 王妃教育で教わったでしょう?
 妃は王を、命を賭しても守るもの。
 でも、今の私が動けば逆にイングリスト様を危険に晒しかねない。
 どうしたらいいの……!

「このあたしを、討伐……うふふ、あはは! あはははははは! 落ちぶれたとはいえあたしとて。そんなあたしを討伐なんて、本当にできるのかしらねぇ?」
「っ!?」
「えっ!」

 峠の魔女が!?
 どういうこと?
 この世界の女神は、女神石の数と同じ五人だけのはず。
 峠の魔女は、まさか六人目……?
 い、いえ、そんな、まさか。

「いいことを教えてやるわ。この国の守護女神になった女神フリーデは、あたしの娘なの。魔女は女神が落ちぶれてなるものなのよ。フリーデは男に色目を使う半人前。王子イングリスト。お前が受けた祝福、おかしいとは思わなかったのかい? 周りの人間の幸運を吸収して、相手を不幸にする。まるで呪いみたいだ、って」
「っ!」

 それは、私も聞いた時に思ったことがある。
 愉しげに笑いながら、イングリスト様を指さして魔女はさらに続けた。

「女神は男に惚れたら魔女になるんだ。あたしは人間の男に口説かれて惚れちまって、フリーデを産み魔女へと堕落した。だというのに人間はあっという間に死んでしまう。満たされない、満たされないんだよ! フリーデはあたしに似てるから、きっとあんたを欲しがるよ。あたしがその娘の父親を欲しがったのと同じように!」
「……め、女神様が、そのようなこと……」
「いいや! きっと欲しがる! わかるさ! だってあたしの娘だからね! でもあたしはそれでもいいよ! 娘のフリーデが妊娠すれば、母魔女は死んで娘の腹へと還る。そうして新たな女神に転生する! それが“女神”の正体さ! だから、あたしは見に来たのさ!」

 ケタケタと笑い、両手を大きく掲げて魔女は巨大な紫の薔薇で縁取られた、鏡を取り出した。
 嫌な予感がする。
 たとえイングリスト様に不幸が降りかかっても、イングリスト様のお命が奪われるよりはいい!
 なにかされそうになったら、私が身を挺してお守りしなければ。

「その娘! エーテルにかけたあたしの呪いが、最近めっきり発動しない。なにかに抑え込まれているかのようで! おかしい! あたしを裏切ったあの男の娘は、孤独で薄汚く、不幸でなければならない! それがあたしを裏切ったあの男への復讐! 邪魔をするのは誰! そう、お前だよ! 王子イングリスト! あたしの復讐の邪魔は誰にもさせない!」
「っ! エーテルは関係ないでしょう! 彼女の呪いを解いてください! 彼女の父君とて、あなたを裏切るつもりはなかったのかもしれないではないですか! ちゃんと話し合ってみれば……」
「黙れ!」

 鏡に紫の炎が点る。
 ぐるぐると回転しながら大きくなっていく炎。
 わかる、あれは、呪いだ。
 おそらく私が受けたような、強い呪い。

「お前たちにわかるものか。生涯愛すると約束した男が先に逝き、独りになったあたしを頼ってきたのがその娘の父親だ! 孤独の中で、薬を作ればあたしと共に生きると言っておきながら……その薬は女を癒すためのものだった! 子どもまでこさえて! 許せるはずがない!」

 ああああ、魔女さん視点だと本当にそれは本当に、そう! その通りだと思います。
 うちの父の説明不足が、大変失礼いたしました。
 でも父曰く「正直に婚約者のためって言ったら、作ってもらえそうになくて……」という言い分もどうぞお気に留めいただけますと幸いに存じますといいますか!

「お前もあたしと同じになるがいいわ、エーテル! 愛する者に先立たれた、不幸で孤独な生涯を送るのよ!」
「イングリスト様! 危ない!」
「エーテル!」

 魔女が鏡を傾ける。
 呪いの炎が一気に降り注ぎ、イングリスト様の前に立った私をすり抜けていく。
 なに!?
 私を、すり抜けた!?

「イングリスト様!?」
「くっ、う……!? な、んだ、これ、は……うっ……眠気が……」
「イングリスト様! イングリスト様! しっかりして! イングリスト様!」

 跪き、頭を抱えながら倒れ込むイングリスト様。
 どうして、なにが、なに……なにを!

「イングリスト様になにをしたのですか!」
「あたしでも女神の祝福を消すことはできない。だから眠りの呪いをかけてやった。これでお前はその眠りについた王子と共に、孤独な一生を送るしかない。それとも、眠りについた王子を見捨てるかね? 眠っていても王子の祝福は残ったまま。ははは! 他人から幸運を吸い取っても、活かすことができないのだから可哀想にねぇ! エーテル——お前が近くにいなければ、王子もあたしに目をつけられることはなかっただろうにね! あはははは!」
「そ、んな……」

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