呪厄令嬢は幸運王子の【お守り】です!〜外堀陥没で溺愛ルートのできあがり〜

古森きり

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前へ立つ

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 私は——私のことは仕方ないと思うの。
 ナジェララ様の怒りはごもっともだと思うし、ナジェララ様の寂しさを私も理解できたから。
 でもイングリスト様は、フリーデ様の欲望ではない?
 あの方は、生まれる前から女神様に望まれていた。
 そんな方だったなんて。
 私が横に立つなど、やっぱり恐れ多い。

「……っ」

 恐れ多い、けれど……でも、でも!
 私はイングリスト様が寂しがっていたのを、知っている。
 お兄様とお母様の幸運を吸い取って衰弱させてしまったことを、ずっと悔やんでおられた。
 自分のせいで、とご自分を長年責めて責めて、本当に苦しまれてきたの。
 私も同じことを思いながら、生きてきた。
 たとえ周りの人たちが、「お前のせいじゃないよ」と言ってくれても、自分を責めずにはいられない。
 イングリスト様は真面目だから、余計にそう思ってきたと思う。
 だから自分から離れて距離を取る。
 寂しくても、つらくとも、大切な人たちが幸せである方が安心だから。
 優しいイングリスト様は、私よりもずっとそう思ったはずだ。
 イングリスト様の周りにいた人々は、私よりもずっとたくさんいたのだもの。
 そのたくさんの人たちのために、たくさんの人たちがいるのに孤独を選ぶ。
 あの方は、優しいから……!
 それを見越して、あの方を孤独に追い詰める。
 最初からそうなるように——。
 そんなの、そんなの……許せない!

「エーテル嬢!?」
『あ! おい!』

 私はここに、解呪の玉をいただきにきた。
 これが試練だというのなら、私が受けて立つ。
 前へとびだして、女神フリーデ様を捕まえようと手を伸ばす。

「は!? なに!?」
「うぐううううう!」

 私の突飛な行動に驚いたフリーデ様が、落雷を私の方へ飛ばしてきた。
 全身を貫かれるような痛み。
 他にも、全方向から落雷が私へ向かって飛んでくる。
 続く痛み。
 でも、死ぬほどのものではない。
 見た目は派手だけど、ちゃんと手加減してくれているんだ。

『バッカ、キミ! なにしてるんだね!』
「ふあぇ……!? だ、だってフリーデ様の試練を越えなければ、解呪の玉をいただけないって……」
『そんなの女神の嘘だ! キミを殺すつもりなんだぞ、あの女神は! それなのにキミ自ら飛び込むなんて!』
「そんなことありません! 女神様が嘘を言うはずありません!」
「うっ!」

 なんだか女神様の方から罪悪感に呻くような声が聞こえたような気がするけれど、気のせいだろうか。

「女神様、私が女神様を捕まえたら……解呪の玉をいただけますか……!」
「ぐっ! ……ふ、ふん、い、いいわよ! そこまで言うのなら捕まえてごらんなさいよ。ただし、死んだらそこで終わりよ!」
「きゃあああああああっ!」
「エーテル!」
「エーテル嬢!」

 落雷が私へと集中する。
 い、痛い、痛い、痛い!
 全身を何度も剣で斬られているみたい!
 痛みで意識が飛びそう——!

「この! クソ女神! フォルティシュモ!」
『うおー! 了解!』

 ナジェララ様が魔術をフォルテにかける。
 なんの魔術だろう、と思ったら、フォルテが私の前へ来て落雷を受け止めてくれた。
 そして『オイラを持って!』と叫ぶ。
 言われるまま抱き締めると、次に落ちてきた落雷の痛みをフォルテが吸い取っていく。

「こ、これは?」
『単純な雷耐性の魔術さ! ナジェララに感謝して!』
「は、はい! ありがとうございます! ナジェララ様」
「いいのよ! それより……」
「くっ! なんで攻撃があの子に集中しているの!? ナジェララとローズレッグに、当たらないんだけど!」
「!」

 困惑してさらに距離を取るフリーデ様。
 放つ雷の魔術はすべてひん曲がって私に集中する。
 しかも、雷耐性のおかげで私はあまり痛くない。

「エーテル! アンタ、その雷に耐えられる!?」
「はい! 耐えます!」

 ナジェララ様の雷耐性のおかげで、十分に耐えられる。
 雷の魔術が今より強くなっても、さっきの雷球が来ても多分私は耐えられると思う。

「いいわ! それじゃあ耐えなさい。あの駄女神がその気になれば、確実に痛いだろうけど!」
「はい!」
「そしてそのままあの駄女神に突っ込みなさい! 王子、アンタは左から、あたしは右からあの駄女神を追い込むわよ!」
「なるほど! 了解した! 頼むぞ、我が義妹よ!」
「は、はい!」

 ナジェララ様が右から、ローズレッグ様が左からフリーデ様を壁際へと追い込む。
 雷の魔術はすべて私に向かってくるから、フリーデ様は防ぎようがない。

「っ!」

 壁に背中が当たったフリーデ様を見て、私は駆け出した。
 フォルテを抱えたまま、フリーデ様に突進する。

「えーい!」
「ぎゃぁぁぁぁああああ!」

 フォルテを間に挟み、フリーデ様を捕まえた。
 ぐぇ、と潰れた蛙のような声が聞こえたけれど、そんなに強く押し潰してしまっただろうか。
 離れると、「くそー!」と女神様とは思えない暴言が出てきた。

「なんでなんでなんで! こんなの無効よ! ナジェララとローズレッグが参加してくるなんて反則!」
「女神の塔の試練のルールを先に破ったのはアンタでしょ! 他の女神にチクるわよ!」
「ひぃー! やめてよ! そんなことされたら千年はネタにされて笑われるじゃない!」

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