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私の初恋
しおりを挟む「それが嫌ならエーテルをきちんと認めて解呪玉を与えなさい! 追加の試練なんて前代未聞よ! ホンットクズね! このダメダメ駄女神!」
「うるさいわね! あげるわよ! もう!」
そう叫び、女神フリーデ様が両手を合わせて呪文を唱える。
美しい虹色の玉が、そこから現れた。
「これが解呪の玉よ。どんな呪いでもたちどころに解いてしまうわ。あなたが触るとあなたの呪いを解いてしまうから、ローズレッグが持っていくといいわ」
「わ、わかりました。いいか、エーテル嬢」
「はい、もちろんです」
もとよりそのつもり。
即座に答えて頷くと、ローズレッグ様がひどく、形容し難い表情をなさる。
つらそうで、でも嬉しそうで、悲しそうで、涙まで滲ませて。
「ど、どうなさったんですか!」
「い、いや……本当に……なんて美しいのだろうと思ってな。君のように心の美しい少女が、魔女の呪いで不幸に見舞われてしまうなんて……!」
「ええ……?」
「いや、そのおかげでイングリストは君のような心の美しい女性に巡り合い、これほどまでに愛してもらえたのだ。弟は本当に幸運だと思うよ。これほどまでに弟を愛してくれて……本当に、ありがとう……!」
「え……」
涙ながらにそう言われて、固まる。
ナジェララ様がローズレッグ様へ「あたしの転移魔術で城へ送るわ。エーテルはちょっと休ませてから送るから、先にイングリストを直しておきなさい」と告げている。
確かに、最初にくらった雷の魔術のダメージで、安心したら腰が抜けてしまった。
このまま帰れば城の皆さんにご迷惑がかかってしまう。
でも、頭の中はそれどころではない。
「では、よろしく頼む。エーテル嬢、ゆっくり帰ってきてくれ」
「は、はい」
「じゃ、行くわよ」
ナジェララ様の魔術がローズレッグ様を一瞬で消してしまう。
それをちゃんと見送ってから、私はぼんやりとローズレッグ様に言われたことを思い出す。
私が、イングリスト様を……愛している。
「…………」
『どうしたんだい?』
「まったく、ただの女の子に雷撃魔術なんて浴びせて、ホンットクズ女神」
「う、うるさいわね。でもでも、わたくしはイングリストを諦めないわよ! イングリストが試練を受けにきたら、わたくしに一目惚れをして一緒にこの女神の塔で暮らすの」
「そんなことになるわけないでしょ。頭の中までお花畑なの?」
ゆっくり姿勢を正す。
淑女として、背を丸めているわけにはいかない。
イングリスト様の隣に立つのに、俯いているわけにはいかない。
イングリスト様のためなら、私は……どんなことでも、頑張れる。
いつの間にか、私は——いえ、多分、あの方に初めて出会った時に、私の心は……。
「私はイングリスト様に……初めて会った時から、お慕いしてしまっていたんですね……」
『へあ?』
「これが、恋という気持ち。私……イングリスト様が……最初からずっと、好きだったんだ……」
胸に手を当てる。
あの方の笑顔を思い出しただけで、心が温かくなっていく。
お父様とお母様、ミリィたちへの好きとも違う。
「私……恋をしていたんですね」
「「…………」」
涙が出てきてしまった。
悲しいわけではなくて、嬉しいわけでもなくて、なんだろう、この気持ち。
どうして自分が泣いているのかも説明がつかなくて、涙を拭う。
すると、ナジェララ様が私を後ろから抱き締めてくれた。
「やだねぇ、アンタ。自分の気持ちに今頃気づいたの?」
「ふぁ、はい、すみません……だって、私……は、初めてで……」
「ふふ、そう。それじゃあ仕方ないかもねぇ。そうかそうか、初めてかぁ。それじゃあきっとびっくりしちまったんだね」
「びっくり……。は、はい、びっくり、しています……!」
そうか、びっくりしているのか。
びっくりして泣いてしまうなんて、私赤ちゃんみたい。
やだ、もう、恥ずかしい。
でも、なかなか涙が止まらない。どうしよう。
「ちょっとフリーデ、アンタこの子のこんな姿見てもまーだイングリストを伴侶にするとかいうんじゃないだろうね」
「ぐううぅ……! い、言わないわよ! 言えないわよ! も、もう! 仕方ないわねぇ! 試練乗り越えたのはそこの小娘とローズレッグ。ローズレッグには証として解呪の玉を与えた。女神として、同じく試練を乗り越えたものに祝福として解呪の玉を与えるわ。ほら、あげるわよ」
「え?」
フリーデ様が差し出したのは、解呪の玉。
えっと、でも、これは……。
「イングリスト様に——」
「ばかね、イングリストの解呪の玉はローズレッグに持たせたでしょう。これは二つ目よ。お前自身が使うといいわ。使わないというのなら、祝福の方を与えるけど」
「両方与えなさいよ。解呪の玉は追加分だろう。この子はちゃんと自分の力でここまで登ってきたんだよ!」
「くうー! もう! わかったわよー! 祝福も与えるわよ! お前とイングリストの子が、よき王となるよう——『賢者』の祝福を与えるわ!」
「えっ!」
ふわ、と私の体の中に光が入り込む。
これが女神様の祝福?
そして、押しつけるように私の手に解呪の玉が握らされた。
途端に自分の周りを覆っていた膜のようなものが弾け飛んだ。
い、今のが解呪された、呪い?
え? それじゃあ——私……。
「おめでとう、エーテル。これでアンタは普通の女の子だ」
『おお! よかったな! おめでとうお嬢! でも気を抜いちゃ駄目だぜ。王妃になるのにキミはまだまだだからな!』
「え、あ……わ、私……呪い……」
「解けたわよ。わたくしの解呪を信じられないの!?」
「い、いいえ! そんなことは!」
呪いが解けた?
本当に?
私、それじゃあ……。
「イングリストとすぐにあたしのところにおいで。あの幸運王子にとびきり不幸になる呪いをかけてやるから」
「ナジェララ様……!」
「さあ、もう十分休んだだろう? 自分気持ちを、目覚めた王子に伝えておいで」
「っ……は、はい!」
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